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汚染者  作者: 皇蝶々
10/11

コンビニ

 結は来た道を同じように走っていた。すぐ後ろを神崎が自転車で追いかける。行きとは違い下り坂からか、神崎は随分と楽に結についてこれている。距離も長いため、結のペースも落ちている。

 

 パチンコ横のコンビニにはわりかし早く着いた。大通りから外れた住宅地の裏通り沿いに位置しており、人気がほとんどない。夕暮れで、辺りは橙色に染まり始めており、点灯した白色灯がコンビニだけを白く照らす。パチンコの音漏れもなく、いやに静かだ。

 佐野雄二はすぐに見つけられた。コンビニの影になる場所で数人の不良仲間と座り込んでいた。

 神崎の言っていた通りのわかりやすい金髪だった。


 「佐野雄二。」

 「あぁ?」


 奥でタバコをふかしていたのが、結が話しかけるなりガンをとばす。結は完全に無視し、佐野に話しかける。


 「佐野雄二、あんたに用がある。」

 「お嬢様が俺なんかになんの用だよ?俺はお前みたいなやつに、用をかけられる覚えなんてなんいんだけど…?」


 結にかかるよう至近距離でわざと煙を吹きかける。腹をかばうように腰を少し曲げ、猫背な姿勢はあまりに貧弱だ。態度の割に気弱さが滲み出る。結は煙に気にせず続ける。


 「手紙。あんたがこいつに渡したんでしょ?知ってること全部話してもらうから。」


 神崎を軽く顎で指す。

 はじめて佐野が結を真正面から見た。明らかに佐野の顔が引き攣っている。


 「待て、待ってくれ。」


 結が間合いを詰める度に佐野が一歩、また一歩と後ろに引き下がっていく。


 「全部、話して。」

 「わかった、分かったから。」

 

 はじめからそう言えばよかったのだ。


 「じゃあ、こっちに来て。」


 佐野の腕を掴み、コンビニの裏手に回る。あの不良共にも神崎にも話を聞かれるわけにはいかない。佐野も仲間にはついて来ないよう言い、結に反抗する素振りもない。

 裏手は外灯の光も入らず、更に薄暗い。


 「で、この手紙はどういうつもり?」

 「知らない。」

 

 即答だった。


 「は?」

 「だから、知らないんだよ!その手紙の中身も、何も!ただ、俺は渡せ脅されただけだ!あと、ほらよ。」


 結の手が出る前に、紙切れを渡される。握りしめていた拳を開き、受け取る。ノートの切れ端のようなクシャクシャの紙を開く。


 『35.464598,139.619487』


 「何これ?」

 「知らねーよ。」


 受け渡しだけのこいつには本当に何も伝えられてないみたいだ。おそらくだが、住所かなにかだろう。


 「俺はこの手紙を赤津奈美結に渡して、そいつが来たらこいつを渡せと言われただけだ。で、お前が赤津奈美結なんだろ?なら、俺はこれ以上は何も知らない。もういいだろ!」


 「待って!これをあんたに渡したのは誰?」



 「女だ。コートをごっぽりと着た気味が悪い奴だよ。」

 「その女について何か知らない?」

 「知らねーよ!二度と関わりたくもない。」

 「あっそ」

 

 この紙切れの数字をあたってみるしかない。もう佐野雄二から知れることは何もないだろう。佐野から離れ、コンビニの表に戻る。


 「そうそう、不良なんてもうやめたら?少しは懲りたんでしょ?」

 

 「クソが!」


 佐野の罵声が結の背中に浴びせられる。不良の罵声など結いにはなんの価値もない。反応してやる気もさらさらない。時間の無駄だ。結はさっさと神崎がいる方へ戻ることにした。



 「「ウヮ―――!やめろ!来んじゃねぇ!!」」


 コンビニに悲鳴が響いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 神崎は結が佐野雄二に話しかけるのを結に隠れるようにして見ていた。結が佐野を連れて行ってからは、不良2人とともに置き去りにされ、肩身が狭いままでいた。


 「雄二のやつもよ、何黙ってあんな女についていくんだよな?」

 「俺が知るかよ。俺たちに内緒で付き合いでもあるんじゃねーの?」

 「はああ?あの雄二に限ってありえるかよ。女取っ替え引っ替えしては自慢してくる雄二だぞ?。」

 「違いねー。顔だけはいいもんな。」


 ゲラゲラと笑う不良達の目に神崎は入っていない。


 「いいよなー。俺もあんな女つかまえてみたいわ。」

 「お前には無理だ。そのブヨブヨの体をまずなんとかしたらどうだ?」  

 「ああ?このまま全体重でのしかかるのがいいんだろうが。あの細身にのしかかったときにどう啼くのかなんて想像しただけでたまんないな。」

「前々からお前の性癖はキモいんだよ。その見た目にそんなんだから、まともな女捕まえれないんだよ。」

 「童貞野郎が何言おうがただの負け犬の遠吠えなんだよ!童貞野郎に女の心地よさがわかるかよ。」

 「うるせえ!すぐにお前なんかよりいい女見つけてやるわ!」


 不良2人の話は下品で神崎には不愉快だった。女子を物のようにしか見ていない。何かぶちまけたくなるが気持ちだったが、それで目をつけられることなど考えたくもない。ただ自分に話が向かないよう祈ることしかしなかった。しかし、祈りはいつの時も通じない。


 「それよりもよ、お前、何なの?さっきからずっとそこで突っ立ってよ。キモいんだけど?」


 細身の方が顔だけを向け、神崎を睨みつける。


 「何?だんまり?」

 「お前、聞こえてねぇのかよ!」


 デブの方が立ち上がり、神崎に詰め寄る。神崎も少しずつ後ろに下がるがうまく下がれず、すぐにデブの不良に追いつかれた。目の前に立つ不良の図体は、座っていたときに予想したより大きく、神崎を萎縮させる。タバコ臭とにんにくのような口臭が鼻を刺す。


 「なんか言えや、おら!」

 「いや、あの……。」


 引き攣った声しか出ない。言いたいことが悲鳴のような掠れた声で喉の中でつまっている。


 「や、やめて…くだ、さい。」


 胸ぐらを捕まれ、細身の神崎は軽々と宙に浮いた。喉が潰れ、呼吸が苦しくなる。結にやられたときとはわけが違う。脇と首に全体重がかかり、じわじわと苦しくなる。


 「ああ?聞こえねぇな!」


 デブが調子にのっていくのをみて、細身の方もくすくすと笑みを浮かべている。


 「僕、は。ただの、付き添い、です。」

 「付き添い?お前が、あの女の?」

 「ボディーガードとか?まじウケるんだけど。」

 「このガリガリ君にボディーガードなんか務まるわけねぇだろ。あ、でもボディーガードなら試してみよっかー。」

 「試すって、お前蹴るしかしねぇじゃん。」

 「うるせえ、俺は蹴りだけで十分なんだよ。」

 

 ニヤニヤと笑いながら、胸ぐらを掴む力を緩め、神崎を突き飛ばす。神崎は地面に盛大に尻もちをついた。ずり落ちた鞄を背負い直し、フラフラと立ち上がる。しかし、神崎が立ち上がりきるより早くテブが神崎の腹を蹴りつける。

 内蔵にもろに入り、後ろに崩れ落ちる。腸がねじれるような痛みがはしり、吐き気が神崎を襲う。

 えずくのをなんとかこらえるが、まともに立ち上がれない。

 四つん這いのままでいるところを細身の方が蹴り飛ばす。先程の比ではない痛みがはしった。肋が軋んだように痛む。


 「やめ、やめてくだ、さい。」

 「なんだってー?」


 神崎は体を丸め、なんとかお腹を隠す。明らかに聞こえているだろうに、丸まる神崎を踏みつける。


 「はっ。見ろよ、こいつ亀かよ。」


 テブが神崎を執拗に踏みつける。


 しかし、細身の笑いは返ってこない。神崎はやめてください、やめてくださいと弱々しく訴えるだけだ。


 「おい、下野。見ろよって、おもしれーから。おい。お………い。」


 「…………下野?」



 「……たす…げて―――。」



 後ろから抱きつかれ、今まさに頸動脈を噛み切られた下野がいた。


 

 

 



 

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