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3.傭兵団

「……というわけで、俺達の団に入団することになったアルズだ」


「……よろしく」




 オレはぎこちなく頭を下げ挨拶をした。




「おい、待て。話を聞けばそいつは見るからに怪しいやつじゃないか。何故そんなやつを入団させる。ライド。お前は団長なんだからもっと慎重になれ」




 険しい目つきで俺は剣を持った男に睨まれる。そいつの言っていることは、オレからしても尤もな意見だった。




「お前、団長なのか」


「ああ、そうだが?」




 ライドはきょとんとした目でオレを見る。「ああ、そうだが?」ではないと思うのだが。

 そもそも、団長という職務をこんな危機意識のないやつで務められるのだろうか。それは甚だな疑問だ。




「まあまあ、いいじゃないリエン。私はメイリー。新入りくん、よろしく!」


「ああ、どうも」




 メイリーと名乗った女はオレのことを見てウィンクをした。なんだ、色気づいてんのか?

 髪は染めたかのような楠んだ金色。爪は長い。見た目が随分と派手な格好をしている。

 ……この女、傭兵団というものをしっかりと理解しているのだろうか。その見た目で戦う余裕なんてないと思うのだが。




「貴様、何か事を起こしたら、この剣の錆びになると思え」


「……ああ、そりゃご忠告どうも」




 リエンと呼ばれた中肉中背の目つきの悪い男は、オレのことをひと睨みしてから腰に提げていた剣を抜き、オレのことを脅すように剣の一部を見せびらかした。


 おい、こいつも剣使いじゃねえか。




「よろしくな! 新入り! オイラはタイディー!」


「どうも」




 タイディーと名乗る筋骨隆々の大男はオレの手を握り、ブンブンと振るって強引に握手をした。




「よろしく。おれはビッケル。キミの入団、おれたちは快く歓迎している」


「ああ、よろしく……歓迎しているかどうかはわからんが」




 ビッケルと名乗る優男風の男は笑顔をオレに見せて手をオレに差し伸べた。




「…………」


「……何か、オレについているのか?」


「ああ、心配するな。彼女はシャイリー。名前通りシャイなやつなんだ」


「…………」




 シャイリーと呼ばれる女はオレのことを観察するかのように柱に隠れながらオレのことを見つめていた。なんだか、オレのことをモルモットでも観察しているかのような目で見ているので寒気がする。




「ボクはアルゴリー。きみは記憶を失っているんだって? 興味深いな。是非、いろいろと聞かせてくれ」


「ああ、ご遠慮しとくよ」




 アルゴリーと名乗る小柄な男は不気味なオーラを放ちながら、オレのことをまるで被験者でも見ているかのような目で見据えていた。




「チッ……男かよ……」


「オレは何故舌打ちをされねばならない」


「あー、彼女はループス。まあ、いろいろとあるんだ。気にしないでくれ」




 ライドは申し訳なさそうにオレに言った。

 ループスと呼ばれる女は随分な長身でオレと背丈が差程変わらない。

 オレはおそらくこの中の男じゃあタイディーの次に高いくらいはあるのだがな。




「あー、以上だ」


「以上? これで全員なのか? 傭兵団としちゃ、少なすぎやしないか?」


「ああ、そのことだけど、他にも人はいるが隊が違う。お前が加わる隊は団長直々の俺の隊ってことだ。さすがに全員に挨拶するとなると日が暮れてしまう。だから、自分の持ち場の仲間だけで充分だろ」




 ライドは微笑んで言う。




「はい、入団おめでとうさん。これで晴れてお前も傭兵団の一員だ」


「団の中にはオレのことを不審な目で見ているやつは多いがな。というか、それが普通の反応だ」




 オレはぼやくように言った。




「お前は運が良いな」


「何がだ?」


「今日はお嬢さんがうちの隊を見に来る」


「……お嬢さん?」




 オレは訝しむように訊いた。




「ああ、うちの領主様だよ。おっと、そんなことを言っていたら、ほら来たぞ」




 ライドは顔で方向を示し、オレはその方向を見る。




「……あなたが新入りだそうね」


「ああ、そうだが」




 オレの目の前には不思議な格好をした少女が立っていた。

 髪は長くて銀。頭にリボンを乗せ、如何にもなゴシックロリータな衣服を着ている。

 その少女は翡翠色に光る瞳をオレの方に向け、オレのことを汚物でも見るかのような目をして睨んでいた。




「お前が領主なのか……?」




 オレは不思議に思った。こんな、まだ世界がどんなにドス黒く穢れているかも知らない幼い少女のことをライドは『領主様』と呼んでいたからだ。




「そうだけど」


「お前、親はどうした?」


「死んだわ」




 オレの質問に少女はあっさりと答えた。




「何故、領を保てている。お前が領主ということは……おそらくお前は実権を握っていないな?」




 オレは次から次へと出る疑問を少女にぶつけていく。




「ああ、そのことなら待った、アルズ。うちの領には強力な同盟がいるというか。まあ、なんだ。うちは分家なんだ」




 ライドが少女の代わりに答える。




「分家?」


「ああ。実質、ここは本家が牛耳っているようなもんだな。謂わば、ハリボテ。名目上はお嬢さんが領主様ということになっているが、それは肩書きだけってことだ」




 ライドがオレにも理解できるように説明をする。




「お前、オレにはよくわからないが、大変な立場なんだな……」


「私は『お前』って名前じゃない。アイリア。今からそう呼びなさい」




 アイリアと呼ばれる少女に、強気な口調でオレの言い方を正される。




「アイリア。アイリアは、つらくはねえか」


「つらい? つらくなんてないけど」




 アイリアは冷めた声でオレの同情を消し飛ばすかのように言う。




「嘘だろ。自分の親を亡くして、つらくないわけがねえ」




 オレは興奮気味に言葉を募ろうとして、ハッと我に返る。


 いけねえ、いけねえ。攻撃的になってしまっては話が円滑に進まない。相手はまだ少女だ。同情をするにしたってやり方ってもんがある。


 オレは掴みかかろうとしていた手を引っ込めて、冷静さを取り繕った。




「いい加減にしろよ、貴様。やはり、こいつは怪しい。即刻、追放するべきだ」




 リエンはオレの喉元に剣を近寄らせ、オレのことをまるで親の敵かのように睨む。追放で済むくらいなのなら、随分良心的な考えだろう。




「お前みたいな反応が普通なんだよな」


「何の話だ」


「さあな」




 オレにはこいつを対応する余裕がなかったので、適当にあしらってアイリアの方に向き直った。




「今日からよろしくな、アイリア」


「気安く呼ばないでくれる?」




 プイとそっぽを向かれてしまった。どうやら、入団して早々、嫌われてしまったらしい。




「ライド。つまり、オレらの役目はこの領の治安を守ることと、それからアイリアを護衛すること、そしてアイリアのお守りをすること、で合っているか?」


「なっ、お守りですって……!」




 アイリアが頭から湯気を吹き出してオレのことを血走った目で睨みつける。




「ひとりで大変だろ。まあ、団が使用している施設が殆どなんだろうけど、こんなドデカい宮殿みたいなところ、とてもひとりで住むには不便すぎる。というか、親が生きていても広すぎて不便だ。使用人が必要なレベル。アイリアは領主様なんだから偉そうに傭兵団のやつらをこき使っていけ」




 オレはアイリアに軽くデコピンを繰り出した。




「痛っ! あなた、こんなことしてタダで済むと思っているの!?」


「どうでもいい。処すならさっさと処せ。面倒くさい」


「アルズ……。リエンを止めるのに今かなり精一杯だから、もうちょっとお嬢さんには優しく頼むぞ……。それと、さっきの発言、さりげなく傭兵団を巻き込んでいたね……」




 ライドは苦笑いをしながら、オレのことを今にも殺さんとするばかりのリエンのことを押さえつけていた。




「あー……アルズくん。キミは一応新入りだから、あー……もう少し発言と行動には気をつけてくれると嬉しいな」




 ビッケルはオレの肩に手を置き、オレにやんわりと注意を入れた。


 それもそうだ。オレは新入りという立場だというのに、これはやり過ぎたな。何をやってんだ、オレは。

 そもそも、初日から新入りが団のトップ的なやつにデコピンをし、実質トップ的なやつに迷惑を掛けまくっている現状。これ追放だけじゃ済まねえレベルだな。




「このくらい度胸がある方が団としてはいいんじゃない? ホラ、なんか頼りになりそうだし!」




 メイリーがオレのフォローを入れた。




「度胸というか考えなしなだけじゃないですか?」




 アルゴリーがおどけた顔で馬鹿にしているかのように言った。




「リエン。まあ、こんな目立った行動をするような人なんだ。アルズくんが諜報役とかならここまで大胆な行動は取らないだろうし、様子見でもいいんじゃないか?」




 ビッケルがリエンに対して宥めるようにそう言った。




「危害を加えてからじゃ遅いぞ、ビッケル。怪しいだけで充分追放される理由になる。ぼくたちがしっかりしなくてどうするッ……!」




 リエンは激昂して言っていた。




「まあ、落ち着けリエン。アルズもともに戦ってくれる仲間になったんだ。今は戦力を選んでいる余裕はない。わかってくれ」




 ライドはリエンに対して申し訳なさそうに言った。




「ところで、新入りは何の武器を扱うんだい?」




 背後にいたタイディーがオレの頭上からまるで金属を床に落としたときみたいな鈍い声で訊いてくる。




「ああ、それなんだが……何せ記憶がないからな。とりあえずひと通り試してみるが、剣あたりになるんじゃないか?」


「……何? 剣だと?」




 リエンがピクピクっと顔を引きつらせた。




「そんな嫌そうな顔するなよ」


「ああ、安心してアルズくん。リエンは極度の剣狂いなんだ。だから、ああ見えて、同じ剣使いが増えそうだとわかって内心喜んでいる」


「おいおい、さっきまでオレの存在に激怒していたやつだぞ? それ、本当か?」




 オレは疑るようにビッケルに訊いた。それを受けてビッケルはコクリと軽く頷いてみせる。


 驚いた。人というものはこんなにもあっさりと態度が様変わりしてしまうものだったとは。




「あなた、アルズというのね」


「ああ」


「あとで私のもとに来なさい」




 アイリアは冷淡な口調でオレに短く言って、くるりと方向を変えて何処かへと行ってしまった。




「呼び出しくらっちまったな」


「そうらしいな。……ああ、ライド。それと、あと、場所がわからないからお前に案内頼めるか?」

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