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10.襲撃

「……アイリア!」




 オレは焦った様相で叫ぶ。


 この剣で果たしてオレは戦えるのだろうか。


 オレは腰に提げた剣を気にし、それでアイリアの危険を晒す者を斬り殺すことのみを考えた。まだ、襲撃されているとは決まったわけではないのだが。




「……くっ! 槍を貸せ! ビッケル!」




 オレは独りでにそんなことを叫んでいた。その叫び声を受けて、遠くから槍が飛んでくる。オレは飛んできたその槍を冷静に取っ捕まえて、まるで歴戦の盟友かのように安心感をそいつに預けていく。




「ここだな」




 オレは叫び声の発生源付近に到着すると、部屋の扉を開け放とうとする。が、しかし、扉は固く閉ざされていた。


 ……内から鍵でも掛かっているのか!?


 焦りと怒りがオレ自身の感情の中に入り交じり、オレは既に冷静さを欠いていた。




「…………」




 オレは全神経を集中させ、槍に力を込めた。


 何故、オレが槍を求めたのかはわからないが、過去のオレというものが身体の隅っこの方でオレの心に語りかけていたのかもしれない。


 槍を使え。お前が力を発揮できるのは、槍、なのだと。




「……ぶっ殺してやる」




 怒りに溺れたオレは槍を構え、目の前の扉に向かってその槍を乱暴に突き出した。




 ……バキッ、ゴキッ!




 耳障りな音を立てながら扉は脆い板状のお菓子のように粉砕され、欠片が床に散らばって滑っていった。

 大穴が空いた扉を瞬時にこれでもか、というくらい大袈裟にぶち壊して、オレは部屋内へ入った。そのとき、オレはもう人間という目をしてはいなかった。




「無事か!?」




 オレはアイリアの安否を確かめるように叫んでいた。


 フードを被った見るからに怪しいヤツとそいつに身体の制限を拘束されて動けなくなってしまっているアイリアがオレの視界に映る。


 こいつ、何処までも卑怯な野郎だ……!


 オレはわなわなと自分の身体を震わせながら、この救いようもない下卑た悪党に槍の先を向けた。




「死ぬ覚悟はできているんだろうな」




 オレはオレ自身の苛立ちを言葉に込めるように言って、フードの野郎をひと睨みして威嚇した。


 やるならやってやる。野郎がやらずともやってやる。お前という存在ごと消し飛ばしてやろう。塵にして。


 お前はその覚悟がある上でこういうことをしているのだろう? ぶち殺される覚悟でお前は人の命を危険に晒そうとしている。


 なら、殺してやるしかない。


 野郎がそういう気だというのであれば、オレは容赦はしない。命の奪い合いだ。お前はオレと、それをやろうと言うのだろう?


 後悔するなよ。お前は今から冷たい地面の下で永遠を彷徨うことになってしまうのだから。


 オレは心の中で怒って、怒って、怒り続けて、ぐいぐいとその槍の先を野郎に近づけていく。




「近寄るな。こいつがどうなってもいいのか?」




 女の声で言ったフードの野郎は、ナイフを取り出してそれをアイリアの首に軽く触れさせた。




「ほう。お前は女か。だが、オレはオレ自身を脅かす者。もしくは、オレ自身のまわりの人間に危害を加える者。そういう輩は絶対に容赦しない。お前が男だろうが女だろうが子どもだろうが老人だろうが、お前がオレに殺されてしまうのはもう確定してしまった」




 オレは乾ききった虚ろな目で野郎を見据えた。




「お前程度のちっぽけな人間でオレは殺せない。何故なら、オレがお前を殺してしまうからだ」




 オレは見下すように野郎を挑発した。




「最後の忠告だ。お前は逃げないんだな? それならば、お前の度胸を買ってなぶり殺しにしてやろう」




 オレは野郎を嘲るように笑い、両の腕に全神経を集中させた。




「遅い」




 野郎がアイリアの首をナイフですっ飛ばす前にオレは野郎の横に勢いよく槍を突き放ち、その衝撃で野郎をぶっ飛ばした。




 ピキピキピキッ! バリバリバリッ!




 亀裂音とともに壁が、窓が、床が次々とぶち壊れていき、特に壁は元からそこには壁なんてなかったのではないか、と思うくらいには損傷していた。


 オレの槍が放った強い衝撃を受け、この空間は唸り声を上げている。




「……アルズ!」


「……もう、大丈夫だ」




 オレは抱きついてきたアイリアをオレの背の方に移し、オレはアイリアを庇うことができる体勢を取りながら野郎を再び睨みつけた。




「……嘘だろ。お前は――」




 ……ループス。野郎の顔を覆っていたフードが取れて、そうして見えた顔は、間違いなく彼女の顔であった。


 お前はどうして。どうして、お前はこんなことを……。


 オレは呆然とした様子でそいつを見ていた。




「……チッ」




 そいつは舌打ちをすると近くにあった壊れかけの本棚に寄りかかるようにして立ち上がり、オレのことを睨みつけていく。




「オレと殺る気か? メイリーとビッケルは応援を呼びに行っているはずだ。直にお前の逃げ場は消滅する。どうした、逃げないのか? オレは気が変わった。お前を見逃してやろう」




 冷静さを取り戻したオレはそいつに向けて逃げるように促す。


 オレは。オレは。オレは……アイリアに血の海を見せるわけにはいかない。幼い少女に血の海を見せてしまうのは酷な話だ。


 それに……こいつは殺してしまっても構わない悪行をしてしまっているが、もしかすると何かの間違いで、あるいは弱みを握られて、実行しようとしていた可能性もなくはないだろう。なくはないというだけの話だが。


 アイリアは無事なわけだし、オレが悪人を葬る理由はあるといえど、なんだかオレの中に心残りが居着いてしまうような気がしている。オレが目の前にいるこいつの命を屠ってやるメリットは薄いのかもしれない。




「……おい! 裏切りだ! 誰か来てくれ! 誰か!」




 ループスに瓜二つの顔をしたその女はオレらの目の前でそんなことを叫んだ。




「ち、違っ……違う! アルズは……違う!」




 アイリアは女の発言をかき消して否定するように叫んだ。




「……安心しろ、アイリア。これは、ヤツのただの時間稼ぎだ。見ろ。ヤツがいない」


「えっ……?」




 オレが目の前を指差してやると、アイリアは先程までいたはずの女の姿が忽然と消えていることに吃驚した。




「それに、ヤツの発言が聞かれていたとしても、アイリアがいればオレは大丈夫だ。事情を話せば傭兵団のやつらはすぐに理解してくれるだろう」




 オレはアイリアを安心させるように言った。




「……心配した。大丈夫か? 怪我はないか?」


「え、ええ……。大丈夫よ」




 アイリアはオレの腕を抱きながら強がるようにして言った。




「……ここか!」




 アイリアの心が落ち着くまで待っていてやっていたら、突如として後ろの方から女の声がして、オレらは後ろを振り向く。




「お前――」




 先程の女と瓜二つの顔があった。その顔は紛れもなくループスのものだ。




「態々お前は殺されに戻って来てくれたのか……ああ、それは有り難い。有り難いなぁ」


「……は?」




 殺意をループスに向け、オレは皮肉を混ぜて感謝の意を示すと、ループスは困惑した表情でオレのことを見ていた。




「酷い……! 酷い……! 酷いわ……! あなたって……あなたって人は……!」




 アイリアはループスに向けて憎々し気な声で嗚咽する。アイリアの声は枯れそうな程だった。




「……恥を知れ。下種が。生殺しにして取っ捕まえてやろう」




 オレは再び槍を構えてループスに槍の先を向ける。




「お、おい、待て……!」




 慌てた様相でループスはオレらのことを見ている。どうやら、命が惜しいようだ。人の命を奪おうとしていて、よくもまあぬけぬけとそんな態度を取れるものだ。




「お前の行き先を決めろ。槍突き地獄かそれとも殴り殺し地獄か。好きに選ばせてやろう」




 オレは傲慢な態度で言ってやった。




「お、おい、待て! 正気になれ!」


「正気じゃなくさせたのは何処のどいつだ」




 オレは槍を持ってじりじりと近寄っていく。




「先程、お前そっくりの顔をしたやつがアイリアを人質に取り、殺そうとした。そして、お前はオレに濡れ衣を着せようとし、そのまま逃走した。お前、言い逃れできると思っているのか……?」




 オレはループスに怒りをぶつけるように問う。




「アタシが……? それを……?」


「……惚けるな!」




 オレは吐き捨てるように言い、さらにじりじりと槍の先を近寄らせる。




「……まさか。それは……」




 ループスは何かに気づいたかのような顔をして、考え込む仕草をした。




「槍を向けられているというのに考えるフリをする余裕があるとは、随分とオレは舐められたものだな」




 オレは皮肉を込めて言っていた。




「違う! それはアタシじゃない!」


「……どのアタシだ」




 オレは目の前にいるこいつがあまりにも間抜けすぎて、思わず込めていた力を抜いてしまっていた。




「ハッタリよ……!」




 アイリアは嘘つきを糾弾するように叫ぶ。




「お前、もしや阿呆なのか?」




 オレはループスのことを見て、ため息混じりにそんなことを言っていた。




「こんなやつが反乱を企てていたとは……。お前、阿呆そうには見えなかったのだが、阿呆なのか。なら、言っておいてやる。お前じゃ人の命を奪うことはできても、何処かでポカして自滅する。お前に反乱行為は向いていない。だから、諦めることだな」




 オレはループスの表情をよく観察しながら、そんなことを言い放っていた。




「だから、アタシじゃない……!」




 ループスが必死になってオレに泣き目で抗議した。




「どうしたー! 何かあったのかー!」




 そんなことをしていたら、近くから漸くライドの声が聞こえてきた。

 ライドの声の他に何人かの足音もバタバタと聞こえてくる。どうやら、応援が駆けつけに来たらしい。




「待て! アタシは……!」




 ループスがオレを止めるようにしてオレの腕を引っ張るのだが、オレはそれを振り払いアイリアを先頭にさせて部屋を出る。




「アルズ。何があった」




 ライドが焦ったように言い、オレの目を見つめる。




「……アイリアの命を狙う輩が侵入していた。見てくれ。そいつは窓の方から逃げていったんだ」




 オレは窓の方を指差してそう言っていた。




「逃げられたが……オレと……偶々近くにいたループスで撃退した。だから、アイリアは無事だ」


「……!」




 ループスは何か言いたそうな目でオレを見ていたが、オレはあえて無視をした。




「そうか……」


「ライド。最近、物騒になってきているというのはどうやら本当のようだな。これからはアイリアに常に護衛を付けておいた方が良いだろう……というか、何故、最初からそうしなかったのか……」




 オレは呆れた目でライドのことを見た。


 プライバシーというものはあれど、アイリアの命が狙われる可能性があるということは誰もが考えつくようなことだ。これは、それの対策を怠った傭兵団サイドにも問題がある。




「とりあえず、無事でよかった」


「ああ、そうだな。……なっ、アイリア、ループス」




 オレはアイリアとループスのふたりを制止しながら、つくり笑いを浮かべてライドに向けて適当に返事をしていた。

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