2.責めを負うべき者
「責任問題ねぇ……」
「あぁ。覚悟の上の自殺というならともかく、事故死したのだという事になると……」
「……危険箇所を放置していたって事で、管理責任が問われるってわけで?」
屍体が流下して来たらしい川ってなぁ結構でかいそうで、少なくとも二つの領内を貫流してるんだとよ。事故現場がどっちの領内かによっちゃあ……
(「それをネタにして足を引っ張られる――って事ですかぃ?」)
ここで俺ぁちょいと声を低めたね。何しろメスキットの後にゃあ、関係各位のお偉方っぽいのが控えてらっしゃるんだからよ。
(「有り体に言えばそうなんだろうが……迷惑な話だ」)
メスキットの旦那も小声で応じて、互いに本音をぶちまけたところで、
「そこでだが、故人が死に至ったのは自らの意思によるものなのか、それとも不本意な事故なのか。後者の場合は、事故の現場がどこなのか。それを調べてもらえないだろうか」
――結構な無茶振りが降りかかってきたわけだ。
「……また、随分と無茶を吹っかけますね。ホトケさんはすっかり浄化されちまってるんでしょう? 死霊術師の出る幕はありませんぜ?」
「だが、遺体から情報を読み取るのは、斥候の仕事でもあるんだろう? その両方に通じている君なら、何がしかの知見を掘り出せるのではないかと思ってね」
……野郎……俺を生贄に差し出しやがったって事かよ。だったらこっちも遠慮はしねぇぜ?
「内臓の組織から浮遊藻は検出されたんでしょう? だったら、それを手懸かりに入水地を特定できねぇんですかぃ?」
そう問い返してやると、メスキットのやつぁ嫌な顔をしたな。
「……修道会もそれなりに知見を蓄えてはいる。検出された浮遊藻がどういうものかという点については、ある程度の情報は持っているが……」
「あぁ……問題の浮遊藻が、この水系のどこに分布してるのかってなぁ……」
「遺憾ながら修道会の管轄外でね。死霊術師にしてもそれは同じだろう?」
「まぁねぇ……」
はぁ……仕方ねぇか。
「んじゃまぁ、手始めに検屍調書ってやつを見せてもらえやすかぃ?」
諦めて調書に目を通していたら……早速引っかかったね、おかしな点ってやつに。
「……これによると、肺や気管から砂が検出されたってなってますが?」
「あぁ。一応試料として保管してある筈だが?」
おぃおぃ……誰もこの点に気がつかなかったってのかよ……
こりゃ、自殺でも事故でもねぇ――殺しだぜ?
・・・・・・・・
「殺しだと!?」
「殺人事件だと言うのか!?」
「何を根拠に!?」
俺が殺しの可能性を指摘した途端に、メスキットだけじゃなく、後で成り行きを眺めていた領軍の連中まで騒ぎ出した。
まぁなぁ……連中にしてみりゃ、殺人って事なら危険箇所の管理責任云々という話は有耶無耶にできるわけだからな。食い付くのも無理はねぇか。
「――で、エルメント。殺人だと言い出した根拠だが?」
「そりゃ、気管と肺に入ってる砂でさぁね。浮遊藻と同じように考えたんでしょうが、砂ってやつぁ水中に浮かんでるわけじゃありませんぜ? ……普通はね」
――人が深みにはまって溺れる場合、水面に近い部分の水を吸引するケースが普通である。少なくとも、水底に沈んでいる筈の砂を吸い込む事は――通常は――無い。
それが気道に入り込んでいたという事は、顔が砂地に押さえ付けられていた事、つまりは、故意に溺れさせられた事を示唆している。
「だとすると……」
「砂の分布を当たってみる事ぁできねぇんですかぃ? こういう事なら後においでの方々の協力も、当てにできるんじゃありやせんか?」
俺がそう言ってやると、領軍の連中は一斉に頷いた。……まぁ、連中にしてみりゃあ、あわや領主間の紛争に巻き込まれそうになったんだ。その原因を作った下手人を探すってんなら、気合いも入ろうってもんだろうよ。
次回最終話は、明日21時頃の投稿を予定しています。




