7.Душевая
シャワー室
トレーラーハウスと言えど、給水設備は整っている。
こんな場所でも温かいシャワーは出るし、量だって普通のそれと変わらない。
「もう、子供じゃないんだね……」
彼女は私の身体、とくに胸と股間を凝視しながら呟いた。
狭いシャワー室。
正直、二人では少し狭いくらいのその空間で、私たちは向かい合ってシャワーを浴びていた。
「……お前は本当に16か?
偽ってないよな?」
「し、失礼な……」
お世辞にも大きいとは言えない胸。
私だって小さい方だが、彼女は更にその下を行く。
「……下には下がいるもんだ」
「あ?」
彼女はキッ、と兎のように私を睨み(当然それすらも可愛らしい)。
それから私はシャワーを止めて、彼女の体を洗ってやることにした。
「………………えっ、素手?」
「ここにスポンジなどという物は無い」
黙って石鹸を泡立て、困ったように眉を顰めている彼女の白い肌に滑らせていく。
陶器のように滑らかなその肌を、これ以上綺麗にできるのだろうかと疑問に思っていると……。
「あっ……そこは……」
「えっ?」
私は気付けば、胸元のそれらを揉むように洗っていて。
不意に彼女が漏らした声に、私は心臓の鼓動を高まらせてしまっていた。
「えっち……」
「すまん。他人の身体を洗うなんて、子供の頃以来で」
「……いいよ。続けて」
私は何とか平静を保ったまま彼女の上半身を洗い終え、しゃがみ込んでその細長い足を挟むように洗い始めた。
「……………………」
目の前にあるのは、先程見た緩やかなスロープのお腹とクレバスの窪み。
それをじっと凝視しながら、片足を浮かせるよう指示して指の間まで丁重に洗っていく。
すると、黙っていた彼女が間を持たせるように話し始めた。
「…………子供の頃ね。
使用人の、大学生だった女性がこうやって毎日、体を洗ってくれててね」
「……なんていい仕事だ」
私は彼女の足を洗いながら、冗談めかして言った。
……のだが。
「………………それで…………その人がね。
入って半年くらい経った頃かな。
………………ある時、ヘンなことをしてきてね」
しかし彼女は、真面目な声音で続けた。
「………………"ヘン"って………………?」
私はその意味を察しつつも、気不味さを誤魔化すように尋ねた。
「………………うん。
……今でも覚えてるよ。
途中までは、いつものように洗ってくれてたんだけど。
次第に、その……特定の場所を……しつこく弄ってきて……」
彼女の声が、徐々に涙ぐむようなそれに変わっていくのがわかる。
「…………それで、お前はどうしたんだ?」
私は少し迷ってから聞いてみた。
「………………怖くなった。
あの人は、急に喋らなくなって。
まるで何かに取り憑かれてるみたいだった。
……実はそこからは、よく覚えてないんだ。
気付いたら、初めて味わう感覚に、泣き叫んで震えてた」
顔を見上げると、彼女は何てこともなさそうに笑顔を見せていた。
だから私は、「平気だろう」と思って冗談のつもりで尋ねた。
「…………気持ちよかった?」
言ってから、流石にこれは最低だと自分を恥じた。
しかし彼女は、怒ることも蔑むこともなく答えた。
「……うーん……どうだろ。
……わかんないや。
怖くて泣いただけだったかも」
私はそこで、今同じことをしたら、彼女はどんな反応をするのだろうと思った。
泣いてしまうのだろうか。
それとも……。
濡れた銀色の長い髪を、手で掬うように避けつつ。
私は最後に、とうとう彼女の臀部を、"窪み"を洗い始めた。
「……………………」
彼女は何も言わず、ただ黙って立っている。
……もしかしたら、怖くて「やめて」と言い出せないのかも知れない。
「………………終わったよ」
体を洗い終え、立ち上がって彼女を見下ろした。
「…………私の秘密も話すよ。
…………昨日のことだ。
…………いや、結構前からだな」
彼女が私を見上げた。
私は気恥ずかしくて、目を逸らしてしまった。
「……ある人から、スマホにメールが届いた。
そこには、写真が……送り主の写真が添えられていた。
それをしばらく眺めて…………それから、相棒を外に追い出した。
下着姿のまま、部屋を暗くして…………。
私はそのまま、枕を抱きながら…………その相手のことを想い浮かべながら、とある行為に耽った」
言った。
言ってしまった。
「……………………」
彼女は黙って俯いている。
……ドン引きされたな。
そりゃそうだろう。
――長い沈黙。
聞こえるのは、シャワーの音だけだ。
「……………………」
やがて永遠にも思えたその静寂を先に破ったのは、彼女の方だった。
「………………私も、同じ経験。
…………あるよ?」
それを聞いて、まず安堵した。
何故だろうか。
何故? 何を安心した?
「…………それは…………つまり…………」
――ああ。なるほど。
「…………屈んでくれる?」
ああそうか、そういうことか。
私は妙に納得して、言われた通り少しだけ身を屈め。
――そうして彼女と、濡れた互いの唇を、初々しく重ね合わせたのだった。