3.любимая девушка
彼女
――翌日。
彼女は、私のトレーラーハウスを訪れていた。
「すごーいっ。
ここに住んでるの?」
子供のように目を輝かせ、彼女は私のベッドに腰を下ろした。
「今だけな。最近、使わなくなったのを譲り受けたんだ」
元の持ち主について話すのは止めておいた。
私の師でもあるその女性とは、悲劇的な別れを経験していたからだ。
私は台所でお湯を沸かしつつ、インスタントコーヒーの粉末を二つのカップに目分量で投入した。
「危ないから銃には触るなよ?」
「りょうかーい」
まあ、"彼"は目につかない場所に隠してあるのだが。
「こっちにはどれくらいいるんだ?」
「学校が始まるまでかな~。
…………あっ。機内にバッグ置いてきちゃった」
機内と言っても、彼女が乗ってきたのは自家用ジェットだ。
「取りに戻るか?」
「もう歩きたくない」
「誰かに持って来させるとか……」
「ホテルに泊まってることにしてるんだよね」
「またすぐバレる嘘を……」
彼女はベッドの上で、犬のように身体を擦り付けている。
恐らく好きな匂いを身体に付けようとしているか、それか単に甘えたいとか構ってほしいという愛情表現だろう。
「下着は私のを使うといい」
「ありがと~」
私はカップに熱湯を注ぎながら、砂糖が無いことに気付いて舌打ちをした。
「……しまった」
彼女が来ると分かっていたのだから、予め買っておけばよかった。
「……すまん。ミルクはあるんだが……」
「いいよ。私、もう子供じゃないし。
砂糖がなくても飲めるって」
彼女は砂糖の入っていないそれを得意気に一口啜り。
「…………うえぇっ……にがっ…………」
……いや、啜ろうとして。
パグのように顔をくちゃくちゃに顰め、それでもなお可愛らしいその顔を、助けを求めるように私に向けてきた。
「……そうだ。チョコレートバーがある。
一緒に食べるといい」
私は思い出したように台所下の棚からそれを一つ取り出し、包装を少し破いて中身を彼女の口にそっと挿し込んだ。
「あいあおー(ありがとう)。
……うわあ、めっちゃ甘いね、これ」
もちゃもちゃとチョコレートバーを頬張る彼女は、さながらビーバーのようだと思った。
もちろん、可愛らしいという意味だ。
「非常用の高カロリー食だからな。
苦いコーヒーとは合うだろう」
「……そうだね」
私がコーヒーを啜りながら今日の予定に考えを巡らせていると、その時彼女が何かを呟いた。
「……なんか、私たちみたいだね……」
囁くようにそんなようなことを言われた気がしたものの、しかしよく意味がわからない。
「……何が?」
「……な、なんでもないよっ」
慌てたようにそう答えた彼女を、私はしばらく不思議に思っていた。