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1.охота
ロシアの雪原にて。
――私は少し、おかしくなってしまったのかもしれない。
真冬の銀世界と針葉樹林が広がるその一帯に、私は確かに存在していた。
真っ白な衣服に、真っ白なバッグを背に抱え、真っ白な息を吐きながら。
私はただ、その地点へと歩みを進めていた。
背中に担いでいるのは、これも真っ白な塗装が施された猟銃。
数少ない友人である彼を利用して、私はつい先程、一つの罪を犯した。
やがて、歩き出してから五分と掛からない内にそこへ到達し。
辺りを見渡して、赤い斑点に囲われるように横たわるそれを発見した。
「……見つけたぞ。夕食」
私はそう呟いてから、目を開けたまま動かない兎を掴んで持ち上げた。
――この手で殺した、つい先程まで動いていた、愛らしい命を。