恋愛サロンへようこそ
ピンポーン
都心からは少し離れた都内某所、2人暮らしでも
十分すぎる広さのアパートの一室に来客を告げる
チャイムが鳴り響く。
「聡一様、お客様です」
機内アナウンスのような無機質な声で家政婦の女性が来客を告げる。
田月聡一は壁の時計を一瞥すると読んでいた本から顔をあげ、玄関へ足を進める。
「お持ちしていました。佐城様
ですね?どうぞお入りください」
「今日も雪華さんはいないのですか?」
「はは……妹は今日は駅前のカフェでお茶するとかで、先ほど出ていきましてね」
佐城と呼ばれた男性ー佐城裕樹は期待していた出迎えがないことに軽く肩を落としつつ、聡一について客間へと向かった。
「で、今日のご相談は彼女の態度がそっけないことについて、でしたね」
事前に送られてきた内容をプリントアウトしたものを眺め、聡一はふむ、と軽く頷く。
「ええ、特にこれといって思い当たる節もないのに、最近どうもよそよそしくて……その、浮気でもしているのか、僕に興味が無くなってしまったのかなあと」
途中から泣きそうになりながら裕樹が告げると、
聡一は家政婦が持ってきたクッキーの皿を勧め、
ひとまず落ち着くよう促す。
裕樹は泣きそうな顔でクッキーを一枚手に取ると
小さく口を開けて一口齧り、少し顔を綻ばせた。
「ふふ、美味しいでしょう。紅茶も冷めないうちに
どうぞ。自慢するのもなんですが、うちの家政婦は優秀でしてね。雪華が見つけてきた娘なんですが実は頭もよくて、今回の調査にも協力してもらったんですよ。--そうだ、せっかくですから彼女も交えて話しましょうか。女性の意見も参考になるかもしれません。蒼乃、こちらへ来てください」
聡一の声に呼ばれてキッチンから顔を出した
蒼乃というさらさらの黒髪ショートヘアの
若い女性は裕樹の前まで来ると、
丁寧に腰を折り曲げた。
「こちらで家政婦をしております、淀池蒼乃と申します。本日は同席させて頂いてもよろしいでしょうか」
目の前でとんとんと進んでいく事態に困惑気味の
裕樹だったが、聡一の「彼女は信頼できる人物です」という言葉に困惑顔のまま「ああ、どうぞ……」と答えた。