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流血の荒野

 開戦の狼煙は、ソレットの左手から鳴らされた。ソレットの左手から閃光のような光が飛び出した。


 その光は五つ。まるで暴れ狂う光の龍のように見えた。ライツ隊長があれは雷撃の呪文だと教えてくれた。


 雷撃は最前列の四足ヒドラに命中する。炸裂した光の火花に、魔物達は苦痛の狂声を上げた。


 四足ヒドラはその名の通り太い足が四本あった。腕と頭部は無く、胴体から上は無数の蛇がおぞましくうねり獲物を求めている。


 ソレットは雷撃の呪文で三体の四足ヒドラを倒し、二体に致命傷を与えた。他の四足ヒドラが仲間の敵同士言わんばかりにソレットに迫る。


 頭部の何百匹の蛇が体を伸ばし、ソレットに襲いかかった。ソレットは腰の剣を抜き一閃する。


 たった一振りで数え切れない蛇を切断した。その時私は見た。ソレットの右手に握られた剣の刀身が、白銀色の光に包まれていた。


「女王陛下。あれが勇者のみが発動出来る光の剣です。私も実際に目にしたのは初めてです」


 ライツ隊長が冷静な声色で説明してくれる。ひ、光の剣?私はソレットが生ける伝説と言われる勇者だと、改めて思い知らされる。


 ソレットの右には、赤い鎧のゴントさんが並ぶように立っていた。双子のゴーレムと呼ばれた魔物がゴントさんに迫る。


 全長五メートルはあるその巨体は、腰の上に胴体が二つあった。一つの胴体に頭部と両腕がそれぞれついている。


 双子のゴーレムは合計四本の腕に握られた鉄の棒をゴントさんに叩きつけた。怪力から放たれたその攻撃は、地面の土を吹き飛ばした。


 ゴントさんはその攻撃を跳躍して避けていた。あ、あんなに大柄なのに、なんて俊敏に動けるの!


 ゴントさんはそのまま大剣を双子のゴーレムに振り降ろした。双子のゴーレムは二つの胴体の結合部分を切断され、大量の血を流し背中から倒れる。


 ソレットの左には神官衣のクリスさんが並んでいた。四本ヒドラの攻撃をかいくぐり、ヒドラの足にメイスを打ち付ける。


 足の骨を砕かれたのか、ヒドラは均衡を崩し傾いた。そのヒドラの胴体に、クリスさんは右拳を叩き込む。


 その衝撃でヒドラは後方に飛ばされ、ぶつかった双子のゴーレムに踏み潰された。ク、クリスさんは神官なのに、なんであんなに強いの!?


 ソレット達の先制攻撃は魔物達を怯ませるには十分だった。だが、数に任せて魔物達はソレット、ゴントさん、クリスさんを個々に包囲しようとする。


 その時、轟音が轟き爆発が起きた。ソレット達を包囲しようと密集した魔物達の身体が四散する。


「爆裂の呪文です。ハリアス殿は冷静に戦況を見ておりますな」


 ライツ隊長が感心した様子で呟く。後方に立つハリアスさんは、ソレット達が包囲されないように攻撃呪文でその隊列を寸断する。


 す、すごい。これが勇者達の戦いなの!?大地は魔物の血と死骸で埋め尽くされて行った。


 その時、魔物の間から人影が踊り出て来た。それは、魔物を率いていたフードを被った人物だった。


 地底人の生き残りと思われるその者は、素早い移動でソレットの前に迫り、手にした槍を猛然と突き出す。


 槍はソレットの頬を掠めた。間合いを詰めていたソレットは、光の剣を振り下ろす。フードを被った者は後方に飛ぶが、僅かに剣先がフードを切り裂いた。


 ······フードの中は男だった。白磁のような白い肌。閉じられた両眼。こ、これが地底人なの!?


 男は両眼が閉じられたままにも関わらず、まるで視界が開けているように槍をソレットに繰り出す。その表情は怒りに満ちていた。


 ソレットと地底人の男との一騎打ちが始まり、他の仲間の三人は、ソレットの援護に徹していた。


「それにしても魔物の数が多過ぎる。最後まで体力が持つのか?」


 ロンティーヌの言葉に、私は急に不安になって行く。


「だ、大丈夫ですよ女王陛下!ロンティーヌさん!不吉な事を言わないで下さい!」


 弟子に一括された師匠は不満顔になり、拗ねるように黙り込んだ。その時、兵士の一人がメフィスに跪いた。


「申し上げます!メフィス宰相!緊急事態が発生致しました!」


 私達の視線は兵士に集中した。き、緊急事態って、何かあったの!?


「何があったと言うのだ?」


 乾いた声でメフィスが兵士を問い正す。次の瞬間、兵士は急に立ち上がり、メフィスの後ろに回り左腕でメフィスの首を締めた。


 そして、腰から抜いた剣をメフィスの頬に当てる。な、何!?何なのこれ?


「······この瞬間を待ち侘びたぜぇ。なあメフィス!!この腐れ野郎がぁ!!」


 兵士は絶叫しながら、剣を握った手で器用に兜を外した。兜の下の男の顔は、残忍そうな人相をしていた。


「······何の真似だ?私は人から恨まれるような行いは皆無の筈だか?」


 抜け抜けと悪魔宰相は言い放った。いや。逆でしょう?人から恨まれ無い事は皆無なんでしょう?正しくは。


「図々しいぞテメェッ!!少なくともウラフ軍団からは全員漏れなくテメェは恨まれているんだよ!!」


 兵士は再び絶叫する。ウ、ウラフ軍団?まさかこの男は!?


「俺の名はキリス。ウラフ軍団の幹部だ。俺達を騙してくれた礼をしに来たぜ?メフィス宰相さんよ」


 キリスと名乗った男は、剣をメフィスの喉元に当てた。勇者達の決戦の最中、私は突然現れた復讐者を前に、呆然と立ちすくんでいた。


 

 


 

 

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