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カリフェースの王

 切迫した状況下で、事態が二転三転した事を体験するのは心臓に悪い。私は金輪際、もうこんな思いをするのは御免だと心から思っていた。


 次々と重なる報告にどう優先順位をつけるのか。頭より先に身体が動いた。


「間違い無いの!?本当にカリフェースの軍が来たの!?」


 私が宮廷魔術士に確認をすると、ライツ隊長が空から降り立った。


「女王陛下。間違いありません。陣頭に黄金の剣を持つ騎士がいます。恐らくウェンデル王と思われます」


 ライツ隊長は冷静な口調で報告してくれた。千年前、この大陸を歴史上初めて統一した皇帝がいた。


 その名はオルギス。カリフェースはオルギス教を信仰している国だ。カリフェースのウェンデル王は、千年前にオルギス皇帝が使用していた黄金の剣を甦らせた。


 その為、ウェンデル王はオルギス皇帝の再来と言われていた。


「ウェンデル王だけではありません。猛将と名高いブリツアード少将とラルフロット少将の姿も確認出来ました」


 ライツ隊長が言い終えると同時に、ロンティーヌが血相をかいて怒鳴ってくる。


「おい!タルニトとカリフェースが同盟関係にあるなどと聞いてないぞ!これはどう言い訳だ!?」


 臨時参謀の声を聞きながら、私は頭の中でモンブラ殿の行動を考えていた。西に両大国駐留軍の武力衝突。東にサラント軍本体。北にウラフ軍団。


 三方に敵が出現した時、モンブラ殿は黙って姿を消した。そして今、カリフェースの軍勢が突然現れた。


 これが何を意味するのか。私は直ぐに結論に至った。


「カリフェース軍は味方よ!!ライツ隊長!直ぐにマケンドお兄様達に伝えて!」


 私が叫ぶと、ロンティーヌも間髪入れず口を開く。


「それが本当なら重ねて伝えろ!タルニト軍はカリフェース軍の左翼につけと!!」


「承知致しました」


 女王と臨時参謀が慌てて指示を出す。宮廷魔術士隊長は、至って冷静に答え空に消えた。


 ライツ隊長と入れ替わるように、空から二つの人影が城壁に降りて来た。それは、カリフェースの宮廷魔術士とモンブラ殿だった。


「アーテリア女王陛下!良かった。間に合ったようですね」


 モンブラ殿が笑顔で私に駆け寄る。私も足早に若き査察官に近付いた。


「······モンブラ殿!あのカリフェースの軍勢は一体!?」 


 私は自分の考えが間違っていないのか、直接モンブラ殿に確かめる。


「カリフェース軍二万。タルニト軍に加勢致します。同時にお伝え致します。タルニト国はカリフェースが推進する侵略禁止条約の加盟を許可致します」 

 

 モンブラ殿の言葉に、私は両手で口を抑えた。カリフェース軍が味方になってくれる。それは、タルニト軍四千五百の兵士達の生存率が飛躍的に上がることを意味していた。


「······戦闘が始まるぞ!」


 ロンティーヌが望遠鏡を覗きながら叫んだ。命令通りタルニト軍はカリフェース軍の左翼についた。


 幸いライツ隊長の伝令が無事届いたようだ。ウラフを始めとする四つの武装勢力の内、一番東側に布陣していたのはギリア軍団だった。


 つまり、それは東から現れたカリフェース軍にとって一番近い軍勢だった。タルニト、カリフェース連合軍がギリア軍団と正面からぶつかり合う。


 双方から弓矢と攻撃魔法が飛び合う。だが、お互い物理障壁と魔法障壁を張り損害らしい損害は与えられない。


 戦いは直接互いの刃を斬りつけ合う殺し合いに突入して行く。怒号と悲鳴が混じり合い、砂ぼこりと共に腕や首が血の放物線を描き乱舞する。


 タルニト、カリフェース連合軍は二万五千。対してギリア軍団は六千。ギリア軍団が戦線を維持出来たのは開戦から二十分だけだった。


 カリフェース軍に中央を分断されたギリア軍団は、戦線が崩壊し各個に倒されて行く。その光景を目の当たりにしたウラフ軍団は、残りのジノア軍団、バーギス軍団と連携を図り、タルニト、カリフェース連合軍に突撃して行く。


 両軍が正面から衝突し、戦場はたちまち乱戦模様になる。ウラフ達武装勢力は、その悪名の高さを証明するかの如くタルニト、カリフェース連合軍に食い下がる。


 一進一退の攻防が続いた時、ウラフ達武装勢力の後方で異変が起きた。


「申し上げます!武装勢力の後方に新たな軍勢を確認!戦旗はカリフェース聖騎士団の物です!陣頭にはヨハス聖騎士団長の姿が在ります!その数五千!!」


 空から戦況をつぶさに観察していた宮廷魔術士からの報告に、私とロンティーヌ、そしてルルラはその方角を凝視する。


 ウラフ達武装勢力は後背から奇襲を受け、大混乱に陥った。カリフェース軍は武装勢力を包囲するように陣形を湾曲させた。


 今やウラフ達武装勢力は完全にタルニト、カリフェース連合軍に囲まれた。ウラフ達は兵力を一点に集中し、その包囲網の突破を図る。


 だが、カリフェース軍はその脱出を許さぬが如く、武装勢力の隊列に凄まじい横激を加える。


「我々の勝ちです」


 戦況を冷静に眺めていたモンブラ殿が、静かにそう言った。完全に包囲された武装勢力の抵抗は、確実に弱まって行った。


「······モンブラ殿。何故タルニトは国際条約に加盟が許されたのでしょうか?」


 私は思っていた疑問を若き査察官に聞く。モンブラ殿はずっと私達を観察していた。その経緯を考えると、とても加盟を許可されるとは思えなかった。


「女王陛下。加盟の条件は単純な事なんです。この侵略戦争を禁じる条件に加盟した国が、その条件を長く守ってくれるか。その一点に尽きるのです」


 モンブラ殿は続ける。ウェンデル王は世界の平和を本気で考えている。だが同時に現実主義者でもあった。


 条約に加盟しても、国の勝手な都合で脱退や条約無視をされては意味が無い。加盟する国が長く条約を守り続けるかどうか。それが一番重要な事だと言う。


「失礼ながら女王陛下。タルニト国は小国です。大国であるカリフェースの後ろ盾は必要な筈です。また女王を始め、臣下の皆さんはお若い。貴方達が国の舵取りを担う間は、タルニト国は条約を守ってくれるでしょう」


 モンブラ殿の説明に、私は肩の力が抜けるような思いだった。タルニト国がカリフェースの協力が得られる。


 それは、ウェンデル王が健在な限り、タルニトの平和が約束された物と同義に私には思えた。


「どうやら大勢は決したな」


 ロンティーヌが短く呟いた。完全包囲された武装勢力は、文字通り殲滅されつつあった。


 私は胸を撫で下ろした瞬間、王都に出現した魔物の群れの事を思い出した。


「······王都が。メフィスやタインシュが危ない!すぐに戻らないと!」


「王都には俺達が行く」


 ······声が聞こえた。とても澄んだ声だ。まるでその人の全てを象徴するような耳に心地よい声。


 私は声が聞こえた後ろを振り返った。そこには、勇者ソレットが立っていた。


 

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