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敵の敵は救いの神

 私達はサラント領内に侵入し、一つ目の砦を無血で落とした。砦内で眠る約五百人の兵達の武器を奪い手足を拘束した。


 臣下達と話し合った結果、この砦にタルニト兵を三百残し、サラント兵達を監視する事にした。


 私達は休む間も無く直ぐに出発した。あと二つ城を突破すればサラント国の王都に到達する。


 二日かけて行軍した後、左右を岸壁に挟まれた城が見えて来た。


「ありゃあ厄介ッスね。山に挟まれたような城だ。正面から攻めるしか手は無さそうッスよ」


 パッパラが目を凝らしながら前方に見える城を眺める。た、確かにあれは堅固そうな城だわ。


 城壁も高い。あんな城を正面から攻めたら、どれ位の犠牲が双方に出るのか。私の不安を一蹴する様に、ロンティーヌが号令を下す。


「いいか!宮廷魔術士は空から攻撃の後、空中で待機だ!城から飛び立つ使者を逃すなよ!梯子隊を先頭に突入!弓矢隊は梯子隊を援護だ!一気に攻め落とすぞ!!」


「待って!!」


 ロンティーヌに負けない位の大声で私は突入を制止した。ロンティーヌは怒り心頭の様子だった。


「大概にしろよ!これ以上たわ言を言うのなら、俺はもう降りるぞ!!」


 激怒する臨時参謀に、私は必死に食い下がる。


「お願いロンティーヌ!あと一日だけ待って!一日待ってフォルツ国が動かなければ、私も諦めるから!!」


 私ロンティーヌに詰め寄って懇願する。臨時参謀は歯ぎしりしながら私を睨んだ。


「······あと一日だけだぞ。それでフォルツ軍が動かなければ、不戦の誓いとやらを諦めろ。いいな」


 ロンティーヌのため息交じりの言葉に、私は何度も頷いた。私達タルニト軍は城から後退した。幸いサラント軍にはまだ気づかれてないようだ。


 私が強引に押し通したこの待機時間が、兵士質の思わぬ休息になった。思えば王都を出陣してから強行軍を続けてきた。


 兵士達は交代で泥のように眠った。私はテントの中で静かにその時を待つ。フォルツ国の王都には、宮廷魔術士を送っていた。


 その魔術師がフォルツ軍の出兵を報せてくれる事を私は祈り続けた。


「女王陛下。陛下はタルニト国歴史上、初めてサラント国領内に侵攻しました。これはタルニト国の歴史に永遠に残る快挙です。その。ですから。お気を落とされないよう」


 ルルラが控え目に私を励まそうとしてくれた。私は少女の優しさに感謝し、微笑して答えた。


 ルルラが退室すると、今度はパッパラとスカーズが揃って入って来た。そしてスカーズが腫れた頬を赤く染めて口を開く。


「女王陛下!その。なんつーか。お馬鹿で不細工な女の考え、時間の無駄だっつーの。って、言うじゃないッスか!元気出して下さい!」


 ······ちょっと待てスカーズ君。それを言うなら「下手な考え休む似たり」ではないかね?


 馬鹿だの不細工だの、まあまあ悪口を言っているよ君?しかもその諺自体、まあまあ悪口だよ?


「そうッスよ陛下!!太った女はダラダラ寝て好物を食べろって言うッス!落ち込んじゃ駄目ッスよ!」


 ······君もちょいと待てパッパラ君。それを言うのなら「果報は寝て待て」では無いのかね?太っただの、ダラダラだの、君もまあまあ私をディスってるよ?


 私を罵ったタルニト軍大将と中将は、笑顔で去って行った。それと入れ替わるようにライツ隊長が入って来た。


「女王陛下。私の家の家訓にこう言う言葉があります。駄目で元々。当たって木っ端微塵に散れと。いえ、これは詮無き事を言ってしまいましたな」


 宮廷内で女官に人気のある重低音の声色で、ライツ隊長は涼しげにそう言い残し去って行った。


 ······あれ?当たって木っ端微塵って?それって結局ボロ負けしろって事?いやライツ隊長さん?負けたらちょいと困るんですけど?貴方何が言いたかったのかしら?ねえ?


 そして最後に入室して来たのはロンティーヌだった。


「アーテリア女王。はっきりと言わせて貰うぞ。アンタは女王失格だ。いや、そもそも王としての適性が皆無だ」


 開口一番、ロンティーヌは出来の悪い生徒を非難するように声を荒げる。


「優柔不断。物事の本質を理解していない。不戦の誓いなどと夢物語のような事に固執している」


 次々と言い放たれる数々の言葉に、私は萎縮し心が折れそうになる。そ、そこ迄言わなくても。


「······外で眠りこけている兵士達があんたの事をなんて言っているか知っているか?」


 ロンティーヌの意外な質問に、私は驚く。へ、兵士達が私の事を?な、なんて言っているの?こんな情けない女王を盛大に罵っているとか?そ、そうならな泣きそうなんですけど私。


「アーテリア女王はタルニトの勝利の女神。兵士達は口々にそう言っている。アンタを慕っているから、こんな強行軍にも耐えているのだろう」


 ロンティーヌは続ける。サラント駐留軍の砦にバフリアットと共に視察に押しかけた時。三カ国軍事演習で勝利した時。


 そして両大国の駐留軍を眠らせ沈黙させた。長きに渡ってサラントとセンブルクから抑圧されてきたタルニト兵達にとって、それは痛快な快挙だったと言う。


「俺に言わせれば幸運が重なった結果だ。その結果だけで浮かれられる程、タルニトの現状は甘くない」


 ロンティーヌは手厳しく私の今までの行動をそう指摘した。その時、テントの外で大声が聞こえた。


「申し上げます!!只今フォルツ国に配していた宮廷魔術士が帰還致しました!そ、その報告によると······」


 私は突然の出来事に、心臓が凍りつきそうになった。


「フォルツ軍が動き出しました!!王都を出陣し、サラント国との国境に向かっております!!や、やったぞ!!」


 感情を抑え切れず心情を吐露した伝令に、ロンティーヌは呆れ顔になる。私はこの時、ありとあらゆる神々達にこの奇跡を感謝した。

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