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売れない作家の住処

 ロンティーヌの家は、王都の城下町の外れにあった。その地区は城下町の中でも低所得達が住む場所だった。


「······ここにロンティーヌが住んでいるのね」


 私とルルラ。ライツ隊長とパッパラの四人は、その家を眺めていた。それは古いレンガ造りの小さい家だった。伸び放題の雑草を踏み分け、玄関の古びた扉をノックする。


 家の中からの返事は無かった。パッパラが扉を力任せにこじ開け、中に向かって怒鳴る。


「おおーい。ロンティーヌって人いるッスかあ!?」


 パッパラの大きな声に私達は思わず耳を塞ぐ。暫くすると、薄暗い室内から人影が姿を現した。


「······誰だぁ?馬鹿デケえ声を出す奴は?人が寝ている所を······」


 それは、四十代半ばに見える男だった。寝癖だらけの波打つ黒髪。無精ひげに生気の失せた顔。


 その男は寝ぼけ眼でこちらを恨めしそうに見ていた。私はルルラを見て確認する。ロンティーヌと一度面識がかると言うルルラは、慌てて頷く。


「その男がロンティーヌよ!確保!!」


 私がロンティーヌを指差し、命令を下す。パッパラがロンティーヌの背後に周り羽交い締めにした。


 「痛てて!!く、くそ何しやがる!?」


 ロンティーヌが寝起きの掠れた声で叫んだ時、ライツ隊長は既に風の呪文の準備を終えていた。


 私達はロンティーヌを拉致し、風の呪文で飛び立った。


 王宮に戻った私達は、直ぐに会議室に入る。ロンティーヌは椅子に座らされ、居並ぶ臣下達に注目されていた。


「ロンティーヌさん。手荒な真似をしてごめんなさい。私はタルニト国女王アーテリア。貴方の知恵を借りたいの」


 私の自己紹介に、ロンティーヌは目を丸くして沈黙する。それはそうだろう。寝起きに拉致され、いきなり目の前に女王がいるのだ。


「ロンティーヌさん。お久しぶりです。私はルルラ。ロンティーヌさんに一度お会いした事がある者です」


 ルルラは手にした本をロンティーヌに見せた。その「君主像」の本には、ロンティーヌの直筆サインが書かれていた。


「······あんたの事は覚えている。俺の家にわざわざ訪問して本にサインを求めて来たのは、後にも先にもあんただけだからな」


 ロンティーヌは放心が解けたように両腕を組み、ルルラに答えた。


「ロンティーヌさん。今このタルニト国は存亡の危機に瀕しています。アーテリア女王陛下は貴方に知恵を借りたく、ここに来て頂いたのです」


 ルルラは丁寧に説明を続けた。ロンティーヌの本に薫陶を受けたルルラが、女王陛下に何度か進言をする事があった。


 それを通じて、女王陛下はロンティーヌに畏敬の念を抱いたと。ま、まあ間違いじゃないからいいか。


「······俺はただの売れない物書きだぞ?その俺に国の存亡とやらを相談すると言うのか?それが本当ならあんた等正気じゃないぞ」


 ロンティーヌの表情からは、眠気は消え失せていた。寝癖頭と無精髭のだらしない外見からは想像も出来ない程、両目から強い力を感じた。


「ロンティーヌさん。貴方は提案をして下さるだけでいいのです。それをどう扱うか、全ての責任は私が取ります」


 私はロンティーヌの前に立ち、彼の両目を真っ直ぐに見つめた。ロンティーヌは指先で髭を掻くと、私の目を見つめ返す。


「······見返りは?あんた達に協力して、俺に何の益がある?」


 ロンティーヌのこの問いの答えを、私とルルラは事前に用意していた。


「ロンティーヌさん。貴方の著者「君主像」の再発行費用。及び貴方のこれからの新作の販売必要経費を全てタルニト国が負担します」


 ロンティーヌは恐らく金銭では動かない。そうルルラは予測していた。ならば、ロンティーヌの作家としての創作意欲を刺激するしか無かった。


 そして、その予測は間違っていなかった。


「······本の宣伝費用。それも負担して貰う。それが条件だ」


 ロンティーヌは波打つ髪を掻きながらハッキリとそう言った。


「約束します。女王の私が大々的に貴方の本を宣伝します」


 私は鼻息を荒くして即答した。こうしてルルラが師と仰ぐ異彩の人物が、タルニト国の歴史上にその名を現す事となった。


 




 


 


 



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