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腹黒宰相の嫌がらせ

 七月も半ばに入った頃、私は執務室で書類を決済していた。早いもので私が女王に即位してから二ヶ月半が経過した。


 ふふ。うふふ。私は書類にハンコを押しながら不気味に微笑んでいた。あ、駄目だ。どう我慢しても笑いが溢れてくるわ。


 だってあと半月で私は即位三ヶ月。それは、あのメフィスを罷免出来る日が近づいて来たと言う事だ。


 お父様の不可解な遺言により、三ヶ月はメフィスをクビに出来ない制約があった。けど、それも後半月の我慢よ。


 あの人として性格が歪みきっている悪魔を、ピッタリ三ヶ月目にリストラしてやるわ。


 その日を祝って、タルニトの祝日に認定してやる。そうね。名称は何がいいかしら?そうだ!「メフィス宰相を惜しむ日」にしてやろう!名案だわ。うふふふ。


「女王陛下。ドレラ殿がお見えになられました」


 侍女の一人が私に来客を伝える。私は来賓室に移動し、ルルラの父であるドレラ画伯に接見する。


「女王陛下。本日も良いお日柄でごさいますな」


 五十代前半のドレラは、人の良さそうな笑顔で私に敬礼する。


「こんにちはドレス画伯。今日もよろしくお願いしますね」


 私はドレラに微笑むと、部屋の隅に置かれた椅子に座った。ドレラは私から距離を置き、用意していたキャンパスに私の肖像画の続きを描いて行く。


 そう。私は前年この王宮を去らなくてはならなかったルルラの父ドレラに、肖像画の依頼をしたのだ。


 この依頼に落ち込んでいたドレラは狂喜し、毎日張り切って王宮に通ってくる。ルルラの話では家でも以前の明るさが戻って来たと言う。


 また私はドレラに絵画教室の講師の職を斡旋し、今はその講師として忙しい日々を送っているそうだ。


「偽善ですな。女王陛下。リストラされた画家を一人救って何の意味があると言うのですか?」


 私の行いを知ったメフィスが、容赦無い口調で否定して来た事があった。


「意味ならあるわ。ルルラの父を救う事で、このタルニトはルルラと言う人材を失わないで済むわ。貴方が言った通りルルラが他国へ去ってしまったら、このタルニトは重要な人材を失う事になるのよ」


 私の反論に、メフィスは納得していない様子だった。削減された芸術文化予算を戻す事は難しいが、リストラされた芸術家達の救済は出来るだけしたかった。


「女王陛下。今月の残りの予定表です」


 半月後、クビになる事が決定している憐れな宰相が私に書類を差し出す。ふん。あんたはリストラした芸術家達と同じ境遇に陥るのよ。ま、自業自得の極みね。


 私は勝ち誇った気分でその書類に目を通す。


「······こ、この予定表は?」


 地方農場視察


 四半世紀財政決算


 三カ国共同魔物対策会議


 私は差し出された書類を見て目を疑った。それは、残り半月でこなす公務量では無かった。


「女王陛下には少々荷が重かったですかな?こなせないのなら、私が全権代理で処理致しますが?」


 メフィスが乾いた声と「小娘のお前に出来るものか」的な挑発的態度で私を見る。


 ······故意だ。これは悪意ある意図を持って組まれた予定表だ。この男は、あと半月で自分が罷免される事を分かっている上で私への嫌がらせを行っている。


 ······上等よ。その嫌がらせ受けて立つわ。この過密スケジュールを全てこなした上で、あんたを気持ちよくリストラしてやるわ!!


 そう。これは私とメフィスの最後の戦いよ!!見てなさいメフィス!あんたを黙らせる結果を出して、この王宮から追い出してやるから!!


 私は闘志をみなぎらせ、己の職務にひたすら邁進する事のみ集中する。予定表を見ると、下旬に三カ国魔物対策会議が予定されている。


 ではその会議の前に地方農場視察と四半世紀財政決算を済ませよう。私は直ちにライツ宮廷魔術師隊長を呼び、視察する地方農場の効率的な周り方を考えるよう命令する。


 次はタインシュ財政大臣を呼び、四月、五月、六月の財政決算作成を命じた。ライツ隊長とタインシュ大臣が仕事に取りかかっている間に、私はタルニト、サラント、センブルク三カ国による魔物対策会議について予習する事にした。


 この世界には多くの種族が存在するが、人間と魔族が人口が多くを占めている。その人間と魔族の人口比は三対一。


 魔族はその数的不利を補う為に、魔物を自国の領土に徘徊させている。その魔物はバタフシャーンと言う魔族の一族が製造している。


 魔族の国々は、このバタフシャーン一族から魔物を購入している。魔物も勝手に移動するので、人間の領土内に度々現れる。


 その魔物達を排除しているのが冒険者だ。冒険者は自分のレベルを上げる為、若しくは冒険者職業安定所と言う公共機関から仕事として請け負い魔物を退治している。


 その魔物の出現数が、ここ数ヶ月でかなり増えているのが問題になっている。確かに我がタルニトでも魔物が田畑を荒らしたり、村を襲ったりする報告が増えている。


 その問題をタルニト、サラント、センブルクの三カ国で話し合うと言う会議が開かれる事となった。


 こんな重要な会議を三カ国で開くのも、先月の軍事演習が実現したからこそだ。民衆を魔物から守る為に、是非建設的な会議にしなくてはならなかった。


 この過密スケジュールをぶっ込んで来た意地悪宰相のお陰で、私は目の回るような忙しい毎日を送る事となった。


 数日後、ライツ隊長と農場視察の日程を決める為に執務室に向かう私に、後ろからメフィスが声をかけてきた。


「女王陛下。ご報告があります」


「何かしらメフィス宰相?私は今忙しい(お前のせいでね)のだけど」


 私の足を止めず、苛ついた口調で返答する。メフィスはそれを聞き流すように構わず言葉を続ける。


「アーテリア女王陛下。貴女の兄、マケンド王子が見つかりました」


 私の足は瞬時に固まり止まった。この時私は確かに見た。驚くべき報告をしたメフィスは、不気味な笑みを浮かべていた。



 


 


 


 


 

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