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続男女交流会

 初めてソレットの澄んだ瞳を見た時。今思うと、私の心は既にあの時彼に奪われていた


 ソレットとの月夜の散歩は、人生最大ってくらいに幸せな一時だった。ずっと彼の側に居られたらどんなに素敵だろう。


 でも、私は小国の女王で彼は勇者だ。私の中のもう一人の自分は、必ずソレットを国の為に利用してしまう。


 だから。それが嫌だからあんな心にも無い事を言ってお別れをしたのに。その相手が、今私の目の前にゾゾットとして座っている。


 ゾゾットの質問(所で何で自分で喋らないの?)に私は返答に窮した。女王を辞める気は無いかって?


 確かに女王を辞めれば、ゾゾットと気兼ね無く会えると思ったりしたけど、実際問題今女王を辞める訳には行かないわ。


 逃亡したお兄様が戻って王位を継いでくれれば話は別だけど。


「アーテリア女王。あんたには姿をくらませた兄がいるそうだな。他に王位継承権を持つ親戚縁者はいないのか?」


 ハーリアスさんが遠慮する素振りを全く見せすズケズケと聞いてくる。残念だけどそれも居ない。可能性があるのはトンズラしたお兄様だけだ。 


 男娼と一緒に駆け落ちした兄は、今頃どこで何をしているやら。


「ア、アーテリア!!僕はやっぱり魅力無いかな?毎日手淫ばかりの僕じゃあ!?」


 ナニエルが切羽詰まった表情で私を見る。い、いやあのねナニエル。貴方は良い所がたくさんある人よ?でも、でもね。


 先ずその手淫を声高に口にするのは少し控えましょう?ね?ね?


「女王陛下!あの軍事演習の際、戦場から一歩も動かなかった姿に惚れました!!粗野で乱暴者の俺ッスけど、陛下を想う気持ちは誰にも負けないッス!!ガチで!マジで!本気ッス!!」


 スカーズが逞しい両腕でテーブルを叩きながら力説する。そ、そんな告白をいきなりされても!!


「アーテリア!僕だって本気だ!サラントとタルニト両国の為にも、僕達の関係を大切にしよう!」


 バフリアットにしては珍しく声を荒げて来た。い、言い方がやらしいわね。国を絡めて来るなんて卑怯よ!!


 私の意識は寝不足もあり朦朧としてきた。肝心のゾゾットは兜で顔を隠し、言葉も聞かせてくれない。


 私は段々腹が立ってきた。分かっている。これは私の自分勝手な怒りだ。貴方を想って悶々としているのは私だけなのかと。


 自分の想いが報われないと生まれてくる怒り。それと同時に自分が本当に嫌になる。気付くと私は席から立ち上がっていた。


「······皆勘違いをしているようね。女の心は上っ面の言葉じゃ動かないわ。行動よ!行動こそ、女の心を動かすのよ!!」


 イライラしていた私は思わず叫んでしまった。我ながら「あれ?私の何を言ってんの?」と頭の中で反芻している。


「よぉし!男らしく拳で決めようぜ!根性ある奴は立てやぁっ!!」


 私の言葉を曲解したスカーズは、猛然と周囲にバトルロワイヤルを提案する。し、しまったあ!!


「ぼ、僕は格闘では無く知識で勝負を決したい。それが大人と言うものだ」


 スカーズの迫力に怯んだバフリアットは、後ずさりながら答える。


「じゃあ僕は手淫で!手淫のテクニックなら誰にも負けない!」


 ちょいナニエル!!貴方には薬士という立派な得意分野があるでしょう!!何故手淫分野で戦おうとするのぉっ!?


「そこまでだ。女王陛下はお疲れの御様子だ。男女交流会はここ迄とする」


 メフィスが静かに。だが反論を許さない口調で参加者を黙らせる。こうして男女交流会は突然中止になった。


 部屋に戻ろうとした時、テラスを囲うように植えられた木の前に立つゾゾットが私に手招きをしていた。


 私はドキドキしながらゾゾットの前に歩み寄る。すると、ゾゾットは突然兜を脱いだ。


「······貴方は?······ク、クリスさん!?」


 兜を脱いだ主はソレットでは無かった。クリスさんは微笑みながら私に謝罪する。


「アーテリアさん。騙したようで申し訳無い。私を救ってくれた貴方とナニエルに、どうしてもお礼が言いたくてね」


 聞けばクリスさんの回復は著しく、もう起き上がれるまでになったと言う。


「······後はソレットの事もありまして。君と最後に会った後から元気が無いんです」


 クリスさんの言葉に私の胸は痛んだ。あの時別れ際に、私はソレットに酷い事を言ってしまった。


「アーテリアさん。短い時間だったけど、貴方の人柄は私なりに感じました。今日の事はソレットに必ず伝えておきます」


 つ、伝える!?今日の「男女交流会」の事ですか!?や、やめてそれは!!


 クリスさんはナニエルに丁寧に礼を述べた後、付け髭ハーリアスさんとゴーントさんと共に去って行った。


 ······な、なんだったの今の会は?私が身も心も疲れ果てた時、追い打ちをかけるように乾いた声が聞こえた。


「女王を辞めたいのですか?可能ですよ。貴方の兄が見つかればね」


 メフィスのその言葉を、私はこの時ただの嫌味としか受け取らなかった。この男の底黒い真意を、私は何も分かっていなかった。










 



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