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男女交流会

 七月の初夏の陽射しが射し込むテラスに私達は移動した。私の寝不足の頭には太陽の光がキツく感じられた。


 前年リストラされたらしい彫刻家が作製した木彫りの円卓テーブルに私は腰を下ろす。私の向かいには全身甲冑の騎士ソレットが座る。ソレットの左右には付け髭ハリアスさん。付け髭ゴントさん。


 更にナニエル、バフリアット、スカーズが着席し、私達は仲良く円卓テーブルを囲んだ。


 要領を得ない私は首を傾げる。一体これから何が始まるの?


「最初に自己紹介しておこう。俺の名はハーリアス。伝説の勇者一行の天才魔法使いによく似ていると言われるが全くの別人だ」


 付け髭ハリアスさんが口火を切る。ハ、ハーリアス?ちょいとハリアスさん。別人を装うのなら、格好とその名前をもう少し凝ったらどうですか?


「赤い鎧の男はゴーント。青い甲冑の男はゾゾットだ。尚、ゾゾットは極度の照れ屋なので兜を着用させて貰う」


 続けて付け髭ハーリアスさんが説明して行く。ゴ、ゴーントとゾゾットって貴方。凝る気無いですよね?全く無いですよね?


 そして付け髭ハーリアスさんは他の者達に自己紹介を促していく。


「私はサラント国王子バフリアット。アーテリアとお茶が出来ると聞いて来たんだが、今日は一体どんな趣向の場なのかな?」


「僕は、い、いえ私はナニエル。アーテリア。い、いえ女王陛下の近衛長をしております」


「自分はタルニト軍中将スカーズっす。女王陛下がお呼びと聞いたんスけど、この集まりは何スか?」


 一通り自己紹介が終わると、付け髭ハーリアスさんが立ち上がる。


「最初に言っておこう。今日この場では出自、身分は一切関係無い。つまり、全員等しく平等と言う事だ」


 ハーリアスさんの宣言に、ナニエル、バフリアット、スカーズが怪訝な表情をする。


「この場に座る者達は全員、アーテリア女王に好意を寄せる者達だ。ここまで説明したんだ。もう理解出来るな?つまり、この席で男達はアーテリア女王に自分をアピールするのだ!いや、もう口説きに行っても構わん!」


 は、はいぃぃ?く、口説くって?い、いきなりそんな事を言われても困るんですけど?その時、私は後ろから足音を聞いた。


 足音の主は静かに円卓の空き椅子に座る。そう。まるで何事も無かったように。私は新たな参加者をクマが出来た両目で睨む。


 抜け抜けと着席したのはメフィスだった。何でアンタが参加してくるのよ!?


「追加者が出たがまあいい。では「男女交流会」の開催をここに宣言する!!男達よ!アーテリア女王の心を射止めてみろ!」


 ハーリアスさんの開催宣言に、男達は戸惑いながらもこの茶会の意図を理解したように見えた。


 は、始まっちゃうの?どうなっちゃうのこれ?


「他の参加者達には悪いけど、既に僕とアーテリアは恋仲なんだ。他人がつけ入る隙は無いよ」


 バフリアットが長い前髪を指で触りながら断言した。ず、図々しいわねこの男!留学中、私の他に五人も相手がいた癖に!


 パリンッ。


 その時、陶器が砕ける音が響いた。全身甲冑のゾゾットが手に持った紅茶のカップを握り潰したのだ。ど、どうしたの勇者!?


「それは正確では無いな。アーテリア女王はバフリアット王子に体よく遊ばれだけだ。カリフェースの留学生達から裏は取ったので間違いない」


 メフィスが乾いた声で面白くも無さそうに呟く。コ、コイツ!いつの間にそんな事を調べでいたよの!


 ガシャンッ。


 耳をつく鋭い音がまた響く。ゾゾットが今度は砕けたカップの上に拳を叩きつけた。ほ、本当にどうしたのゾゾット!?


「それは無視出来ん情報だな。この「男女交流会」の開催意義を問われる。ここは女王本人に真実を明らかにして貰おう」


 ハーリアスさんが私に話すよう促す。私は反射的にゾゾットを見る。ゾゾットの表情は兜に隠され見えなかったが、こんな話をゾゾットに聞かれるなんてあんまりよ!!


「女王陛下の好意は現在バフリアット王子には無い。間近で女王とバフリアット王子を観察していた私が言うのだ。万に一つ間違いは無い」


 メフィスがハッキリと言った。余計な奴が余計な事をペラペラと!!本当に腹が立つわねコイツ!!


「おいバフリアット王子。アンタ女王陛下を弄んだって本当ッスか?本当ならそれシャレになんねーぞ?」


 スカーズが眉間に深いシワを寄せ、怒気を全身にみなぎらせバフリアットを睨む。ちょ、ちょいスカーズ!相手は大国の王子だからね?そこもう少し考えてね?


「心配するな女王!先にも言ったが、この場は身分など関係なく等しく皆が平等だ!」


 ハーリアスさんがスカーズを煽るような言葉をかける。ちょ、ちょっとハーリアスさん!


「お、お互いに行き違いはあったかもしれない。でも、今の僕は純粋にアーテリアを想っている。これは誓って本当だ」


 スカーズの迫力に圧倒されたバフリアットは、慌ててその場を取り繕う。ふん。あんたの純粋さなんて信用出来る物ですか。


 その時、ゾゾットがハーリアスさんに何やら耳打ちしていた。小声過ぎて何を言っているのか聞こえない。


 ハーリアスさんは頷き、ゾゾットの言葉を代弁する。


「ゾゾットはこう言っている。アーテリアが女王だと、恋人として付き合うにも流石に色々大変だ。アーテリアは女王を辞める気は無いのか?と」


 は、はい?女王を辞める気は無いかって?ゾ、ゾゾットがそんな事を本当に私に聞いているの?


 私は生ける伝説の勇者を真っ直ぐに見る。勇者の表情は、兜に隠され伺えなかった。


 



 


 

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