宰相と侍女の確執
「ルルラ侍女兼秘書官。そなたの事は調べさせて貰った。前年リストラされた宮廷画家、ドレラの娘だったとはな」
メフィスは椅子に腰掛けながら、乾いた声でルルラの素性を明かした。ルルラが宮廷画家の娘?リ、リストラってどう言う事?
「······女王陛下は留学中だったので御存知ないかと思います。前年の事です。メフィス宰相が芸術文化予算を大幅に削減しました。その為に絵画、彫刻、音楽。宮廷の多くの芸術家が職を失いました。私の父もその一人です」
ルルラは小さな肩を震わせ、俯きながら言葉を発した。
「······私の父ドレラは、宮廷画家としての誇りを失い、今も立ち直っておりません」
ルルラは涙を両目に溜め、メフィスを睨みつける。そ、そうか。ルルラがメフィスを敵視していたのは、お父さんの事があったからなのね。
「筋違いの恨み言だな。役に立たぬ芸術などより、予算を必要としている部門が数多とあるのだ」
メフィスが不快げに吐き捨てるように言い放つ。
「······確かに国家の予算配分は、優先順位があるかもしれません。でも!芸術は人を癒やし。感動させ。心を豊かにします!芸術無き世界など乾いた砂漠のように殺伐とした物になってしまいます!!」
ルルラが心に留めていた思いを吐露するように口を開く。
「ならばその芸術とやらを求めて他の国へ行くがいい。幸いすぐ近くに財政が潤沢な大国が二つもある。好きなだけ心を豊かにする事が可能だぞ」
メフィスは冷淡にルルラの主張を切って落とした。宰相と侍女の対立に会議室の雰囲気も暗く淀んでいる。
い、いけない。ここは女王としてなんとかしないと!そ、そうだわ!
「これより功績の順位を発表します!!」
会議室の空気を変える為に、私は無理やり結果発表をする事にした。臣下達は目を見開きながら私をみる。
どいつもこいつも「一番手柄は自分だよね?」的な顔をしている。くっ。腹立つわ。私は以下のように発表していった。
謀略部門一位 メフィス
体当たり交渉部門一位 ロイラン
現場労働部門一位 パッパラ
救命救出部門一位 ライツ
全体構想部門一位 ルルラ
私は臣下達の功績に序列をつけず、功績を部門別に細分化した。これなら手柄に序列をつける法律を破った事にはならないわ。
「良く分かんないッスけど、取り敢えず一番って認めてくれるんならオーケーッス!」
パッパラが無邪気に笑いながら受け入れてくれた。ありがとうパッパラ。貴方が馬鹿で良かったわ。
ロイランとライツ隊長も無言で微笑してくれた。あ、ありがとう二人共!空気読んでくれて!
メフィスとルルラは微妙な表情だったが、私はこの会議を終わらせる為に臣下達に言葉をかける。
「皆には財源の許す範囲で功績に報いるつもりです。以上。本日の会議を終わりとします」
······こうして欲望の会議は終わりを告げた。精神的に疲れ果てた上に寝不足の私は、束の間の午睡を貪る為に部屋に戻ろうとした。
その時、メフィスに呼び止められた。
「女王陛下。謁見の予約が入っております。重要な客人ゆえ、お急ぎ下さい」
えええ?謁見?重要な客?誰よそれ。私もう眠いんだけど。私は仕方なく疲れた身体に鞭を打ち王の間に歩いて行った。
······玉座に座った私の目の前に、三人の男達が立っていた。一人は黒い魔法衣の男。口元に不自然な大きい付け髭をしている。
もう一人は赤い鎧を着た長身の男。この男も口元に超不自然な大きい付け髭をしていた。
······そして最後の一人は全身に青い甲冑を纏った騎士だ。兜で顔は全く伺えない。
「女王陛下。彼等三人は旅人です。我がタルニトに多額の寄付をしたので、陛下との謁見を許可致しました」
メフィスが淡々と謁見理由を説明した。
······ちょっと待って。これ、勇者達だよね?この青い甲冑の人。昨日私が枕を濡らして別離を儚んだソレットよね?ソレットが目の前にいるんだけど?
これどー言う訳?ちょい黒い魔法衣の付け髭さん。貴方ハリアスさんよね?その付け髭変装のつもりかしら?
だったら全く変装になってないからそれ。あと赤い鎧の付け髭さん。貴方ゴントさんよね?絶対にゴントさんだよね?
貴方も付け髭変装、破滅的に失敗してるからね?ね?
「我々は女王陛下に楽しき一時を過ごして貰う為に参上した」
付け髭ハリアスさんが何やら偉そうに胸を張って叫んだ。楽しき?一時?その時、謁見の間にナニエル、バフリアット、スカーズが入室して来た。ど、どうしたの皆?
「ふふふ。役者は揃ったようだな。我々が女王に提供する至極の一時。その名も······」
付け髭ハリアスさんが勿体ぶっていると、隣の付け髭ゴントさんがポツリと呟いた。
「男女交流会だ」
一番言いたい台詞を奪われたせいか、付け髭ハリアスさんは口を開いたまま固まっていた。