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褒美を求めて

「わたくしは身体を張ってサラント国、センブルク国の重臣達と交渉して参りました。そして軍事演習を実現させた。メフィス宰相のお言葉を借りるなら、誰が見ても最大の功績者かと」


 赤い紅をひいた唇に妖艶な笑みを浮かべ、ロイランは優雅に、だが反論を許さぬ口調で言い切った。ロ、ロイランも言う時は言うのね。


「ロイラン殿の働きについて補足があるッス」


 突然パッパラが挙手し、戦場で見聞きした事を語りだした。


「兵士達若いモンの話によると、ウラフ軍団との戦闘が終わった後、サラント兵とセンブルク兵が口々に同じ事を言っていたらしいッス」


 それは、サラント軍指揮官モーリフ中将。センブルク軍指官ガリツア中将。二人の采配の切れが目に見えて悪かったと言う事た。


 それだけでは無い、サラントとセンブルクの中級指揮官達も同様だったと言う。ど、とうして?


「断片的な話を総合すると、サラントとセンブルクの指揮官達は精神的に不安定だったらしいッス。これは、ロイラン殿の仕業ッスか?」


 パッパラの質問に、ロイランは身体をくねらせ微笑む。


「はい。わたくしの仕業です。サラントとセンブルク。文官、武官合わせて四十六人を籠絡致しました。勿論その殿方達の奥方にもその事を知らせましたわ。両大国の指揮官達は今頃浮気問題で奥方と修羅場でしょう」


 ······よ、四十六人と。外交交渉から帰還したロイランは酷く疲労していた。そ、そりゃ疲れるわ。


 浮気が奥さんに知られたのだ。軍事演習中も両大国の指揮官達は気が気では無かっただろう。お、恐るべしロイラン。


「付け加えさせて頂きますと、センブルクの王子達にも火種を仕込んで参りました。わたしくしを争って二人の王子が深刻な対立をしております」

  

 お、王子達までにもロイランの触手が!?


「ふん。そんな目に見えぬ物が評価の対象になるものか。私の功績は違うぞ。サラントとセンブルクはウラフ軍団と交戦した結果、数千の被害を出したのだ」


 メフィスがそれはもう偉そうにふんぞり返って自分の犯行を正当化する。それにしてもパッパラは無欲ね。


 ロイランの手柄がこの会議室で認められるような発言をするなんて。偉いぞパッパラ。


「ロイラン殿のメフィス宰相には悪いッスけど、今回の一番手柄はこの俺ッス!なんてったって、敵総大将の兜羽を奪って勝利を決めたッスから!!」


 パッパラは、はにかみながらピースサインを私達に見せた。こ、この猪武者!ロイランを持ち上げたのは、自分の手柄を更に大きく見せる為の前フリたったのか!?


「ふん。パッパラ。お前等は私達が苦労して段取りをした現場で暴れただけだ。その程度の働きで奢るなよ」


「そりゃ酷いッスよメフィス宰相。俺達二千人の兵士達は身体を張ったんすよ。一番手柄じゃないと、下のモンが納得しないッス」


 パッパラが口を尖らせていると、ライツ宮廷魔術師隊長が静かに立ち上がった。


「軍事演習の情報を常に正確に報告し、パッパラ大将達を死地から救った。私達宮廷魔術師の功績は他に比肩し得ない物です」


 冷静な声色で、だが力強くライツ隊長はハッキリと言った。ラ、ライツ隊長も参戦してきたわ!


「そうそう。そう言えば勇者達を呼んだのは誰ですかのお。その手柄も大きいですな」


 タインシュがボサボサの髪を掻きながら呟いた。私は反射的に末席に座るモンブラ殿を見た。


 勇者を呼び寄せた張本人は、慌てて首を横に振った。良識あるモンブラ殿は、この手柄独り占め会議に関わらないようだ。


 た、助かります。査察官殿。


「女王陛下!何も俺は自分の欲の為に一番手柄が欲しい訳じゃないッス!頂いた褒美を使って、野良猫達を保護する施設を作りたいんッス!!」


 パッパラは捨てられた子猫のような目で訴えて来た。し、施設!?猫を飼っていると言っていたけど、そ、そんなに猫好きなの!?


「それならばわたくしも同じです!女王陛下。わたくしは後進の人材を育てる為に、外交交渉の勉強が出来る学校を作りたいのです」


 ロイランが真面目な顔で叫ぶ。が、学校?ロイランはそんな事を考えていたの?


「だったら私はワインが好きなので、褒美でワイン博物館を作りたいですな」


 ライン隊長が名案を思いついたように発言する。い、いやライツ隊長?だったら私はって。今手柄を話し合う場だからね?


 自分の夢とかやりたい事を発言する場じゃないからね?ね?すると、メフィスがため息をつきながら発言する。


「······こうなっては私も隠し立て出来ぬな。実は私も施設の設立を考えていた。それは孤児(十八歳以上の超器量良しの女限定)達の施設だ。全く。我ながら自分の善良さに呆れてしまうな」


 ちょっと待てえぇっ!!破廉恥宰相!!それお前の個人的趣向の施設だろう!?と、言うかそれ最早ハーレムだろう!?


「メフィス宰相相手でも引くわけには行かないッス!俺もう、施設名(猫猫パークランド)も決めてるッス!」


 ね、猫猫パークランド!?ちょいパッパラ

!あんたさっき野良猫を保護する施設っていってなかった?パークランドって何よそれ?


「施設名ならわたくしも決めておりますわ!その名も「ロイランの枕営業養成学校」!」


 認めたああっ!!ついにロイランが初めて自分の口から枕営業の実態を認めた!!そ、そんな施設名やめて!!世界中から失笑されるからあ!!


「うぬぬ。私の浪漫であるハーレムの設立は譲らんぞ!!」


 おいいいっ!!メフィスッ!!お前さっき孤児の施設って言っただろうが!!ハーレムって、もう自分の欲望を隠す気がないなお前!?


 白熱する会議の議事録を、記録官が軽快に筆を走らせ記録して行く。や、やめて記録官!こんな恥ずかしい会話記録しないでぇ!!


「記録官!俺の施設「猫ニャンわくわくランド」の名前をちゃんと記録するッスよ!」


 おい待てパッパラ!さっきと施設名変わってるぞ!!それ既にただのテーマパークだから!!野良猫施設の面影一%も無いから!!


「記録官!わたくしの施設「四十八手専門学校」の名も忘れず記しなさい!!」


 己も変わってるぞフロアレディィィ!!四十八手専門ってどんな学校よそれ!!外交と全く関係ないでしょうそれ!!


「記録官!私の施設「メフィスハーレム」の名も忘れるな!!」


 おいクソ宰相ぉぉっ!!お前言ってるぞ?自分のハーレムって百%宣言してるぞ!!


「記録官!私の施設「ライツワインバー」の名をしっかりと明記するように」


 ちょいライツ隊長!?あんたさっきワイン博物館って言ってたでしょう?ワインバーって、ただの飲み屋だろそれぇ!!


「天候を当てた私の手柄はどうなりますかな?あ、モンブラ殿。そう言えば「マーズとチーズ」の結末はどうなりましたかな?」


 こらタインシュ!!あんた天気を予想しただけで図々しいわよ!って言ゆーか?まだ「マーズとチーズ」の結末を聞いとらんのかい!!


 モンブラ殿に聞く機会は幾らでもあったでしょう!?何故今?なんでこの忙しい時に「マーズとチーズ」の結末を聞く訳!?


 会議室の中は、私欲と我欲に塗れた空気が充満していた。私は息が詰まりそうになり、なんとかこの空気を変えたかった。


 そして、反射的にルルラを見た。


「······皆聞いて頂戴。そもそもこの軍事演習を発案したのはルルラ秘書官よ。彼女の功績も忘れないで」


 私が投じた一石は、予想以上に効果があった。阿呆臣下達の視線がルルラに集まる。


「わ、私のような者が功績などとおこがましいです!」


 ルルラは慌てて叫んだ。このルルラの謙遜を見なさい阿呆臣下共!!そして彼女の私心無き姿を目をかっぽじって刮目せい!!


「······ですが。もし。もし望みを言っていいのなら」


 ルルラが躊躇いながら小声で呟く。あり?ルルラ?貴方も?貴方までも何とか施設って言い出すの?


「······前年に大幅に削減された、芸術文化予算を増やして頂けないでしょうか?」


 ルルラの控え目な言葉に、私はきょとんとしてしまった。削減された芸術文化予算?


「ついに尻尾を現したな小娘」


 メフィスが鋭い両目でルルラを睨みつける。会議室内は、別の意味で淀んだ空気に変わった。





 

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