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私欲の論功行賞

 ······翌朝の寝起きは人生最悪と言って良かった。悲しみの余りろくに寝られず、私は両目にクマをこしらえて生きる屍のようにベットから起き上がる。


 ······こんな短期間に、二度も失恋をする女がこの世に存在するのかしら?いや存在する。それは私だ。


「······ふふ。うふふ」


 私は自分の突っ込みで自嘲気味に笑った。他人が聞いたら「コイツやばいぞ」的な笑いだ。部屋に誰も居なくて良かった。


 ······駄目よ。アーテリア。負けちゃ駄目。失恋で落ち込んでいる暇なんて無いのよ。だって私は女王だもの。


 今日も政務がてんこ盛りよ。悲しんでいる場合じゃないわ!そうよ!えーと。こう言う時なんて言うんだっけ?あ、そうだ!


 恋に破れた女は、仕事に生きるしかないのよ!!(二度目)


 私は目のクマを化粧で隠そうともせず、私の戦場に向かう。そう。今日は朝イチで重要な会議が開かれるのだ。


 我がタルニト国はサラント国とセンブルク国から小麦の関税権を勝ち取った。その苦難の道をやり遂げのは臣下達のお陰だ。


 その臣下達の働きに報いる為に、これから論功行賞の会議が行われるのだ。会議室に入った私は、室内の異様な雰囲気を感じた。


 な、何この空気?円卓に既に着席していた臣下達の表情は、いつもと違いピリピリとしていた。ど、どうしたの皆?


「女王陛下が参られた。これより先だっての軍事演習の功績について論じ合う。だが、誰が最大の功労者か話し合う迄もないがな」


 メフィスが「最高殊勲者は自分に決まっているだろう」的な表情と乾いた声で会議の始まりを告げた。


 ······何をほざいてんのこの阿呆宰相は。武装勢力の首領ウラフに軍事演習の情報を流し、私達を危機に陥れた張本人が偉そうに!


 本来ならアンタの犯行は即逮捕よ!罪名は反逆罪辺りでいいわ。でも、コイツの事だ。証拠など残していないだろう。


 ん?待てよ。と言う事は、メフィスがどや顔で主張している功績も成立しないと言う事だわ。ふん。ざまあ見なさい。


 アンタの手柄なんて誰が認めるもんですか。でもそうすると、誰が一番の功労者かしら?


 やっぱりこの軍事演習を発案したルルラかな?演習中も重要な助言をしてくれたし。でも、身体を張った(枕営業?)外交交渉でサラントとセンブルクに軍事演習を了承させたロイランの功績も大きいわ。


 でもでも。実戦で傷だらけになりながら敵大将から兜羽を奪取したパッパラやスカーズも、ルルラやロイランに見劣りしない。


 でもでもでも。そのパッパラ達を救ったライツ隊長達だって無視出来ない。


 ······困ったわ。皆同じくらい頑張ってくれた。そうだ!皆同じ功績って事で評すればいいのよ!


 そうすれば平等だし、誰からも不満も出ないわ!これは名案よ。その時、メフィスが乾いた声で忠告してきた。


「女王陛下。予め申し上げますが、タルニト国の法では、論功行賞には必ず序列をつける必要があります」


 ええええっ!?な、なんなのその意地悪な法律は!?じょ、序列って。皆の頑張りを差別しろって言うの?


 私が困り果てていると、メフィスが立ち上がり、円卓に座る臣下達に宣言する。


「私はウラフ軍団とハッパス大将を戦場におびき寄せ、サラント軍とセンブルク軍に損害を与えた。これは誰が考えても第一功の功績だ。異論のある者は?」


 ちょっと待てメフィスッ!!アンタ言ったわよね!?私は噂を流しただけだって。自分の犯行を認めず、結果が上手く行った後は手柄は俺の物だって言うの!?


 な、なんて性格の歪んだ奴よ!そ、そうだわ!証拠を出しなさいよ!アンタの言う事が本当なら、ウラフ軍団とハッパス大将を誘い出した証拠を!ある訳ないでしょうけどね!


 するとメフィスは、テーブルの上に何やら手紙らしき物を並べる。


「これはウラフとハッパス大将に送った書簡の写しだ。これが私の功績の動かぬ証拠だ」


 証拠あるんかいいぃっ!!お前認めたな?自分の犯行を白日の元に晒したな?逮捕よ。コイツ逮捕してやる!


 そしてメフィスを逮捕し宰相を首にしてやる!それを記念して、今日この日を国の祝日にしてやるわ!


 私が逮捕命令を下そうとした瞬間、ロイランが優雅に席から立ち上がった。


「確かにメフィス宰相の功績は大きいですわ」


 えええっ?ロイラン認めるの?この腹黒宰相のしでかした事を?だって、皆を危険に晒したのよ?な、なんで?


「ですが、此度の第一の功績はわたくしにあると自負しております。こればかりは一歩も引きませんわ」


 ロイランとメフィスの視線が交錯する。こ、この会議室の異様な空気の理由が分かったわ。


 主張するつもりだ。臣下達は皆、自分が一番の功績者だと。会議室内は、私欲と我欲にまみれた空気に覆われていた。

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