表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/68

戦後処理

 戦いは終わった。ハッパス大将の見事な手腕で、三カ国の非武装兵士達は救われた。しかも、サラント国とセンブルク国を荒らし回っていた武装勢力。そのウラフ軍団の半数を壊滅させたのだ。


 全く以てハッパス大将は恐ろしい人だ。出来るならこの人と事を構える事は絶対に避けたい。


 戦闘の終結後、直ちに戦後処理が行われた。私が一番心配したのは、ウラフ軍団の乱入で軍事演習の結果が白紙にされる事だった。


 だが、ハッパス大将は公正な人だった。ウラフ軍団の出現はパッパラ達がモーリフ中将とガリツア中将から兜羽を奪取した後。


 我がタルニト国の勝利は動かない。ハッパス大将はそう言ってくれた。ライツ隊長達がモーリフ中将とガリツア中将を救出したのも大きかった。


 センブルク国も恩人に難癖をつける訳には行かず。両大国からの輸入小麦の関税権は確約された。


「それにしてもウラフ軍団は災難でしたなあ。軍事演習が非武装と聞いたから襲来したのでしょうから。そこに完全武装のハッパス大将軍がいた。連中は詐欺にあった気分でしょうな」


 タインシュ財務大臣がボサボサの頭を掻きながら呟いた。確かにウラフ軍団には予想外の事だったろう。


 でも、盗賊同様のウラフ軍団に同情する理由は無かった。あんな連中。一人残らず消えてしまえばいいのよ。


 ······全てはあの腹黒い宰相に踊らされた。私はそう決めつけていた。メフィスが流した噂にウラフは乗じた。


 三カ国の軍に痛手を甘える好機だと。相手は非武装。それは確実に上手く行く筈だった。


 そんな企みを持つウラフ軍団を片付ける機会だと、メフィスはハッパス大将にも噂を流した。


 メフィスは噂を流しただけと言ったが、ハッパス大将が行動した以上、確実に信用に足る情報をメフィスはハッパス大将に流した。


 そのメフィスは、戦いが終わったノルーンの野で私にハッキリと言った。


「貴方は王失格です。女王陛下。ただ感情の赴くままの言動。一国を導く資質に大きな欠落があります」


 メフィスはこの軍事演習で私に王としての資格があるのかどうか試したのだろうか?メフィスに言われる迄も無い。


 ウラフ軍団が現れたあの時。私は直ぐに避難するべきだった。それが王として正しい判断だったのだろう。


 でも、部下を見捨てて自分だけ逃げるなんて私には到底出来なかった。それで王失格と言われるなら、甘んじてその言葉を受け入れるわ。 


 関税権の獲得にも、私は浮かれる気分にもなれず王都に帰還した。そこで私が目にしたのは、お祭り騒ぎの光景だった。


「アーテリア女王の勝利に万歳!!」


「関税権獲得に万歳!!」


「最後まで戦場に残り、兵達を守った勇気ある女王陛下に万歳!!」


 城の周辺には、民衆達が殺到していた。その様子をカーテン越しに覗いていた私は、軍服から侍女の服装に着替えたルルラに質問する。


 民衆達は何故こんなにも早く情報を仕入れ、しかも詳しく知っているのか?ルルラは苦笑して教えてくれた。


「女王陛下。人の口に戸は立てられません。人の噂は時として風より早く伝わります。まして今回の女王陛下の御活躍なら尚の事です」


 ルルラの返答は、自分の取った行動が正しかったと言われているみたいだった。なんだか私は救われた気分になった。


「アーテリア様は王失格などではありません。それは民衆達が知っています。失格なのはメフィス宰相。あの方です」


 ルルラは厳しい口調でメフィスを非難した。やはりルルラは個人的にメフィスを嫌っているのだろう。


 最近のルルラは、メフィスに対して敵意を隠そうとはしなくなった。その時、近衛兵長のナニエルが私に報告してきた。


「アーテリア。言え女王陛下。謁見の間に勇者達が到着致しました」


 ナニエルの言葉に、私の胸に鋭い痛みが走った。戦場でパッパラ達を救ってくれた勇者達に、私は王として公式に礼を述べなくてはならない。


 今日その為に、勇者達を王宮に招待したのだ。私は重い足取りで謁見の間に向かう。こんな形でソレットに知られたくなかった。


 自分の口から伝えたかった。私はこのタルニト国の女王だと。謁見の間の扉が開かれ、三人の勇者達が入室してきた。


 赤い絨毯の上を歩き、一歩一歩彼等は玉座に座る私に近づく。勇者達は王の権威などになびかないのだろう。


 三人共にとても堂々とした顔をしている。最初に目が合ったのはゴントさんだ。ゴントさんは驚いた表情で私を二度見した。


 次に目が合ったのはハリアスさんだ。ハリアスさんは私の顔を見た途端「なんてこった」と言い手のひらで顔を覆った。


 そして最後に目が合ったのはソレットだった。ソレットは足を止め、私の顔を凝視する。


「······アーテリア?」


 ソレットの言葉を聞きながら、私は今どんな顔をしているのか自分自身でもわからなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ