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国の威信を賭けた鬼ごっこ

 雨足が益々強くなって行く中、パッパラ率いるタルニト軍二千は、サラント軍の前衛をなぎ倒して行った。


 私の後ろで戦況を見ていたバフリアットは、自軍のやられっぷりに複雑そうな表情をしている。


 バフリアット。悪いけど今日ばかりは貴方の国に負けてもらうわ。


 パッパラはここでも深追いせず、タイミング良く軍を反転させ、サラント軍から離脱して行く。


 ······よし!いいわよパッパラ!油断しきっていたサラントとセンブルクは思わぬ痛手を受けた。


 私はまたルルラとの会話を思い出す。先制攻撃が上手く行ったとして、その後はどうやって動くか?


「はい女王陛下。そこからが鬼ごっこの本番です。小国の我が軍に良いようにやられたサラントとセンブルクは、怒り狂って我が軍を追撃してきます。後はひたすら逃げ続け、ノルーンの地形を利用し両軍の兵力を分散させます」


 思わぬ不意打ちを受けたサラント軍とセンブルク軍は、陣形を立て直しタルニト軍二千目掛けて突撃を開始した。


 ここで我が軍は兵力を二つに分けた。一千の兵を率いるのはパッパラ。そしてもう一千の兵を指揮するのは、パッパラを兄貴と慕うスカーズ中将だ。


 これからパッパラはサラント軍の標的となり、スカーズ中将はセンブルクの追撃を引き受ける。


 パッパラとスカーズが馬上で拳を突き合わせる光景が、望遠鏡から確認出来た。


「さあ!ついて来やがれサラント軍!!鬼さんこちら!手の鳴る方へってなぁ!!」


「おらセンブルク軍!テメエ達の相手はこのスカーズだ!さっさと来いや!ビビってんのかあ!?○ンタマついてんかぁお前等!!」


 空から戦況を観察していた宮廷魔術師が、パッパラとスカーズの挑発めいた大声を伝言してくれる。パ、パッパラ君にスカーズ君。


 熱くなるのはいいけど、もう少し品位を保った発言をしてね。出来たら。


「女王陛下。追撃戦、いえ、鬼ごっこが始まりますわ」


 ロイランが長髪を雨に濡らしながら、戦場を指差す。パッパラ率いる一千にはサラント軍が殺到し、スカーズ率いる一千にはセンブルク軍が猛追して来る。


 パッパラとスカーズは互いに迷路のような地形に消えて行く。サラント軍とセンブルクは、その迷路に誘われるかのように動いて行った。


 この時、降りしきる雨は土砂降りになって来た。草が少なく、土肌を露出させるノルーンの大地は、たちまち泥濘に変化した。


 その泥濘は、サラント軍とセンブルク軍から機動力を削ぎ取る。我がタルニト軍は鎧を身に着けず軽装の為、両軍に比べ比較的身軽に行動出来た。


 実はこの迷路のような地形に、落とし穴等罠をしかけようと思ったが、後で両大国に難癖をつけられる恐れがあったので断念した。


 だが、自然のこの雨なら文句のつけようが無い。パッパラとスカーズは地形を生かし、文字通りサラント軍とセンブルク軍を引きずり回した。


 宮廷魔術師達の報告によると、サラント軍とセンブルク軍の軍列は乱れ、兵力が分散し始めたらしい。


 ここでパッパラとスカーズは、それぞれ率いる一千の兵力を百人単位で離脱させる。次々と分散する我が軍を追う為に、サラント軍とセンブルク軍は更に兵力を分けなればならなかった。


 私達の作戦行動は順調に見えたが、決してで無傷ではいられなかった。敵軍を引きつけたタルニトの百人単位の部隊は、追いつかれたら最後、数十倍の相手に一瞬で全滅させられた。


 軍事演習が開始され二時間が経過した頃、我が軍は半数の一千人が戦闘不能になっていた。


「女王陛下。パッパラ大将。及びスカーズ中将の両部隊が間もなく「双子の蛇」に到達致します」


 ライツ宮廷魔術師隊長が、疲れを見せず上空からの情報を伝えてくれる。宮廷魔術師達は伝達の為に空と地上を忙しく往復している。


 疲れない筈が無いが、ライツ隊長だけは涼しい顔をしていた。ともかく、私達の最大の罠にサラントとセンブルクをなんとしても誘い込む。


 我が軍の勝機はその一点に懸かっていた。土砂降りの中、壮絶な追いかけっこが繰り広げられる。


 パッパラ率いる三百人の部隊が「双子の蛇」と名付けた二つある森の入口に入った。それをサラント軍、モーリフ中将の直属部隊が追いかける。


 少し遅れてスカーズ率いる二百人の部隊がもう一つの森の入り口に突入した。それを猛追するはセンブルク軍、ガリツア中将。


 二つの蛇行する森の狭い道で、最後の追いかけっこが続く。二つの狭い道の終着点は、一つの場所に繋がった。


 そこは森林に囲まれた袋小路だ。モーリフ中将とガリツア中将は愕然としただろう。それぞれ袋小路に追い詰めた筈のタルニト軍が姿を消し、モーリフ中将の目の前はセンブルク軍が現れ、ガリツア中将の眼前にはサラント軍が現れたのだ。


 サラント軍とセンブルク軍は互いに勢いを止められず、袋小路で正面衝突をした。




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