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御前会議は踊る

 六月に入り、冬小麦の収穫が始まった。今年の出来はどうだろうか。女王になった今の立場では、小麦一つの収量さえも国の収入源として考えてしまう。


 私は逃れられないの日々の雑事から意識を目の前に戻した。私は会議室の席に座っていた。


 長方形の長い机の左右には、臣下達が列席している。そう。これから重要な会議が始まるのだ。


「では、これから会議を始める。周知の通り、我が国は現在カリフェースが推進している国際条約に加盟を希望している」


 メフィスが会議の趣旨を説明し始める。末席には、カリフェースの査察官、モンブラ殿が座っている。


 モンブラ査察官は、どんな極秘会議でも出席する権限があるのだ。私達の行動、考えを全て吟味し、モンブラ殿はタルニト国が加盟に相応しいか判断する。


 ······それにしても、臣下達全員の視線はある一点に注がれていた。それは、外交大臣ロイランの胸元だ。


 今日もロイランは胸元が大きく開いた、いや、何時もより更に開いた赤いドレスを着ている。


 それはもう、豊かな胸の面積が半分以上露出していた。男共は着席した時からずっとロイランの胸元をガン見している。


 会議室の隅でこの会議を記録する記録官ですら、口を開けてロイランの胸を見ていた。いや。まあ別にいいけどさあ。


 ロイラン本人と女王の私が目の前にいるんだからさあ。少しは遠慮してよあんた達。その時、私は背後から異様な視線を感じた。


 私の後ろに立つ近衛兵長ナニエルが、口からヨダレを垂らしながらロイランの胸を見ていた。


 い、いけない!ナニエルには刺激が強すぎるわ!


「その条約に加盟する為には、何が必要か。それを皆で議論する。女王陛下の御前であるが、忌憚のない意見を述べて貰いたい」


 ロイランの胸を睨みながらメフィスが言い終えると、パッパラ大将がロイランの胸元を見ながら挙手をした。


「メフィス宰相!会議の議題が無いと、記録官が困るッス。議題を決めて欲しいッス」


 パッパラの言葉に私は度肝を抜かれた。確かにパッパラの言う通りだ。記録官がロイランの胸を見ながら安堵している。


 パッパラって粗野で猪武者だと思っていたけど、意外と細かい所を見ているのね。


「······そうだな。議題は「モンブラ査察官を落とす方策」にしよう」


 メフィスがロイラン胸を凝視しながらとんでも無い事を言い出した。ちょっ、ちょっと待て阿呆宰相!


 モンブラ殿本人を前にして何を言ってんのよ!


「私に提案がございます」


 男共の視線を一身(露出した胸)に受けるロイランが優雅に右手を挙げた。そして左手の親指の爪を噛み、口を僅かに開けながら、妖艶な瞳をモンブラ殿に向け、吐息の様な声を出す。


「モンブラ殿を落とすには、我々が先ず御本人を知る事が先決です。モンブラ殿に色々質問する事を提案します」


 ちょい!ちょい待て!ロイラン!その「モンブラ査察官を落とす方策」の体で会議を進めて行くんじゃない!


 私の心配を余所に、この会議室の場をロイランの溢れる色気が支配して行く。口火を切ったのは財務大臣タインシュだった。


「モンブラ査察官はとんな書籍がお好みかな?私は今、古書の大著「マーズとチーズ」に夢中でしてな」


 おい分厚い眼鏡のおっさん!チーズだかなんだかどうでもいいけど、ロイランの胸元を見続けながら質問するな!モンブラ殿に失礼だろっ!!


「私は幼少の頃から本には恵まれた環境に身を置いていました。読書はとても好きです。タインシュ財務大臣が言われた「チーズとマーズ」も全六巻。全て読みました」


 この乱れた雰囲気の会議室で、唯一清新さを保つモンブラ殿が丁寧に答えた。


「な、なんですと!?あの希少な古書を読破したと!?ど、どこで読まれたのですか?どこにあるのですか!?最終巻の六冊目は幻と呼ばれていたのに!!」


 タインシュが(ロイランの胸を見ながら)ボサボサの髪を振り乱し叫ぶ。マーズとチーズはどうでもいいから、先ずモンブラ殿を見て話せこのボケ!!


「あの!モンブラ殿に質問ッス!モンブラ殿は剣の腕前はどうッスか?なんなら、自分と手合わせして欲しいッス!あ、これ別に裏庭でボコボコにして言う事聞かせるつもりじゃ無いッスよ!へへへ!」


 パッパラが(ロイランの胸を直視しながら)無駄に元気良く手を挙げ大声を出した。パッパラ。お前するつもりだろう?


 モンブラ殿をシメて無理やりタルニト国を国際条約に加盟させるつもりだろう?


「申し訳ありません。自分は文官なので、ご期待には添えません」


 モンブラ殿が阿呆パッパラの失礼な申し出を穏やかに断る。す、すいません査察官!うちの馬鹿臣下達がご無礼を!


 その時、椅子の足が動く音が響いた。立ち上がったロイランは、張りのある胸を揺らしながらゆっくりと歩き出す。


 その胸の揺れは、振動となって音が聞こえるかと思う程の揺れだった。会議室の男共の両眼は、その揺れに全神経を集中させる。


 ロイランは静かに、そして開いた胸元をモンブラ殿に見せながら査察官の隣に座った。な、何なのこれ!?


 始まるの?これからお水の姉ちゃんの接待が始まるの!?


 女王陛下の私の御前で開かれた会議は最早、高級酒場の接待現場になりつつあった。

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