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クズ宰相の裏の顔

「······メフィス宰相が王宮に姿を現したのは、女王陛下がカリフェースへ留学された後です」


 侍女のルルラが、つぶらな瞳に影を落としながら話を続ける。二年前、お父様がある日突然、新しい秘書官を登用した。


 それがメフィスだ。お父様はメフィスの意見をよく聞き入れ、いつしか何事も先ずメフィスに相談するようになった。


 そこからメフィスの異例としか言いようが無いスピード出席が始まった。一年を過ぎた頃、メフィスは宰相の地位に就いた。


 メフィスは人事権を使い、自分の意のままに臣下達を入れ替えた。その行動は、王宮内で独裁者に例えられた。


「······メフィス宰相は危険な方です。早く手を打たないと、このタルニト国を傾けるかもしれません」


 私はメフィスの横暴振りの話より、ルルラの迫力に圧倒された。この可愛らしい侍女が、穏やかでは無い物言いだ。


「······ルルラは、メフィスが嫌いなの?」


 私は深く考えず、思った事を口にした。


「と、とんでもございません!侍女の身分をわきまえず、大変失礼な事を申しました」


 ルルラは汗を流しながらひたすら頭を下げる。いいのよルルラ。私もあの野郎メフィスが大っ嫌いだから。


「気にしないでルルラ。これからも良かれと思った事は進言して頂戴ね」


 ルルラが退室した後、私は改めてメフィスについて考えた。一体アイツは何者なんだろう。いや、現在この国の宰相なんだけど。


 口先三寸の詐欺師が国王を丸め込め、高い地位を手に入れた。そんな図式が私の頭に浮かんだ。


 それはあり得過ぎる構図だった。でも、お父様がそんな詐欺師に引っかかるかしら?お父様はとても慎重な性格だった。


 メフィスを三ヶ月罷免出来ないと言う遺言も気になる。お父様がメフィスを信頼していたなら、三ヶ月の期間を設ける必要は無い。


 メフィスの罷免は許さぬと書けばいい筈だ。私はどうしてもお父様とメフィスの君臣関係を想像出来なかった。


 ふん。まあいいわ。残り二ヶ月。二ヶ月後に、あのクズ宰相の首を切ってやるわ。私はその光景を想像し、ひとり不敵な笑みを浮かべていた。


 その時、執務室のドアがノックされ、二ヶ月後に罷免が決まっている臣下が現れた。


「女王陛下。治安に関して御報告があります」


 メフィスは相変わらず乾いた声を出す。報告の内容は、我が領内に駐留するサラント軍に関してだった。


「サラント駐留軍の犯罪が激減している?」


 私の驚いた声に、メフィスは黙って頷く。


「サラント軍だけではありません。同じく領内に駐留しているセンブルク軍の犯罪件数も減っている様です。どうやら女王陛下の視察騒ぎの件が、センブルク軍の耳に入った様ですな」


 そ、そうなの?私は直に実感出来なかったけど、砦周辺の村々が受ける被害が減った事はいい事だわ。


「女王陛下。貴方の一つ取った行動の成果です。権力と言う物は面白いでしょう?」


 珍しくメフィスが笑みを浮かべる。お、面白い?別にそんな風には思えないけど。


「その内に貴方も病みつきになります。この権力の果実を吸った時、人はそれから逃れられない。決してね」


 メフィスの笑顔が異質な物に変化した。何か薄暗い空気を私を感じた。


「メフィス宰相。貴方はその果実とやらの味をもう知っているようね」


 私は無自覚の内に、メフィスから何かを探るように質問をする。


「無論です。女王陛下。この権力と言う物は、時として暴れ馬のように暴走する事があります。だが、それを御した時の快感は何者にも変え難い物です。意のままにならない女を支配した時の様にね」


 ······お父様とメフィスの間に何があったのか分からない。けど、私のコイツへの評価は以前と変わらない。


 コイツはこのタルニト国にとって有害だ。必ず排除しなくてはならない。私はその思いが更に強くなった。


「メフィス宰相。貴方を罷免出来る迄あと二ヶ月。その間に、権力の果実とやらを良く味わう事ね」


 私はメフィスに匹敵する乾いた声で、権力に陶酔する男に呟いた。男は静かに微笑んでいる。


 ······私は口が悪く、それが原因でトラブルも起こして来た。けど、私は王族の立場を利用して相手を排除しようと思った事は無かった。


 でも、コイツだけは例外だ。メフィスをこの国から追い出す行為に、女王の立場を利用する事に私は何の躊躇いも感じない。


 得体の知れない宰相と新米女王の暗闘は、刃を交える事無くこうして始まった。

 

 

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