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ぼっち戦隊ソロレンジャー

作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)

 2019年12月23日。本日の日付である。平成の世が同年4月に終わりを告げ、天皇誕生日としての休日ではなくなったが、皆々様はどのようにお過ごしだろうか。


烈斗(れつと)「はぁ……」

倫久(ともひさ)「烈斗、あんまりため息つくなよ。俺まで悲しくなる」

烈斗「うるせーよ倫久。腹式呼吸だ、ダイエットしてるんだよ」


 赤いネクタイの太ったメガネのM字ハゲは烈斗、最近加齢臭がすごい。“れっど”ではなく“れつと”である。緑ネクタイの太ったメガネの頭頂ハゲは倫久、口が臭い。初見で名前が読めない人がたまにいる。2人は幼なじみで仲がいいがたまにケンカをする。今は烈斗が夕焼けに黄昏ていたところを倫久に注意されてしまった。


亜織(あおり)「烈斗さん、倫久さん、口を動かすヒマあるなら仕事してください。無駄に事務作業あるんですから」


 青いネクタイの比較的若い細身の男は亜織、この職場の最年少だが若ハゲが止まらない。この部署内では割と常識人だが、それが原因で気疲れがすごいらしい。


烈斗「なんだよ亜織、お前はそんなんだから若ハゲな上にモテないんだぞ。ここは窓際なんだ、ちんたら仕事してりゃいーの」

亜織「若ハゲ言うな! 年末決済でくっそ忙しい時にイラつかせないで下さいよ! 村崎(むらさき)さん、あなたここの課長でしょう! なんとか言ってください! 」


 紫色のネクタイの課長の村崎、一応課長だがあまり意味はなく、昔懐かし波○ヘアーな52歳である。よくいる中年小太り体型なのは○平とは似ていない。


村崎「亜織。どうせ世間は俺らキモ豚共に需要はねーの」

(もも)(しり)「村崎の言う通りだ亜織。どうせイケメンなヤ○チンしか人権はない。今年も性の6時間をみんなでエッチなビデオの鑑賞会、略してAV鑑賞会で過ごそうじゃないか」


 ピンクの蝶ネクタイの太った男は桃尻、普段は引きこもりだが今日は会社のお偉いさんに呼び出されたらしく出勤している。ハゲ隠しのためにスキンヘッドにしていて、この職場では平均的な体型だが亜織以外が太っているので結局桃尻も太っている。常にイカと火薬の臭いを振り撒く。


亜織「桃尻さんまで久しぶりに職場に来て何言ってるんですか。嫌ですよ、会社の上司たちとAV観るとか。しかもエッチなビデオじゃなくてアダルトビデオだし」

桃尻「大丈夫、みんな女に反応しないように男同士のヤツにしとくから。10本もあれば足りるかな? 」

亜織「そういうことじゃねーよ」


 多くの者は極々当たり前の平日を過ごすことになったであろう今日の日、世間では相も変わらず『クリスマスイブイブ』と呼ばれ、若者は浮き足立って恋人の元へ駆け寄ることも少なくない。その代表例が『リア充』である。そんなリア充は今年もクリスマスが近くなるに連れて増えてくる。それを良く思わないのはこの窓際族の男たちだった。


烈斗「リア充め…今年もうじゃうじゃ湧きやがって!」

倫久「リア充多いと俺たちの仕事に支障をきたすからマジで減ってくれ」

桃尻「みんなでラブホ爆破しない? 某晩ご飯の番組よろしく行為の最中に突撃する感じで」

村崎「ダメだ。ラブホも取引先の1つになるんだ」

亜織「ラブホが取引先になったのってもう何年前の話ですか」



 『リア充』。それはリアルが充実している者のこと。転じて彼氏または彼女がいる者のことを指す。このクリスマスイブイブはクリスマスイブのさらに前日であり、この日も所謂リア充が増える。クリスマスを恋人と過ごしたい、そのために恋人を作りたいとクリスマス前に思いを告げる者もいれば、仮染の恋人を作ってひとりぼっちの夜を回避しようとする者もいる。そんな中で現代社会に溶け込む(ケダモノ)が存在することを皆様はご存知だろうか?



『未来予報装置ウィルカムスから緊急司令。3時間後にリア獣発生の可能性大。場所はA県B市裏路地、ターゲットは1体。詳細は各デバイスにてチェックせよ。』


 5人のいる窓際部屋に緊急アナウンスが流れる。未来予報装置ウィルカムスとは未来で起こる事件をAIが察知し、それを事前に防ぐための警報装置である。全員がその警報を聞きなれていないため驚いて椅子から転げ落ちる。


烈斗「いったた……来た! 」

倫久「しかもリア獣だ! 」

桃尻「充実してる方じゃない! 獣の方だ! 爆弾とロケットランチャーを用意しろ! 」

村崎「コイツは大仕事になる……! 」

亜織「電車で2時間、しかも交通費その他諸々は自費って書いてありますよ……」



 『リア獣』。それはリア充に紛れて女性を捕まえて自らの彼女にし、その女性をやりたい放題にする(ケダモノ)である。この『リア獣』による女性の被害は年々増え続けていて、裏切り、強姦、詐欺、隠し撮り、流出、脅迫、金銭の巻き上げ、中には病気の媒介になる厄介な者までいる。

どうやらそのリア獣が出現するようで、彼らの本来の仕事をする時が来た。


 そしてまた今宵、1人の女性が裏路地にてリア獣に襲われる……!


 3時間後、A県B市裏路地


女性「い、嫌……! 」

リア獣「何言ってんのさ。これはてめぇが望んだことだろ? さぁ、俺様と熱い夜を過ごすんだよ! 」

女性「離して! 私には好きな人がいるの! L○NEであんたが拓磨くんに成りすましてたから!! チャラくて誠実さの欠片もないあんたなんか嫌!! 」

リア獣「ざんね〜ん、俺様の下の名前も拓磨くんで〜す! まぁ嘘だけど。つまり俺様に惚れてるって訳だ! ほらほら、俺様の下の息子がビンビンになってきたぞぉおお!! 自慢の3Lサイズイボカスタムをぶち込んでやるぜぇぇええ!!! 」

女性「嫌……!助けて……!! 」


 そしてここに今、『リア充』を恨みながらも『リア獣』を狩る戦士たちが生誕した。


???「そこまでだ! 悪しき獣よ! 」

リア獣「なっ!? 何者だ!? 」


 そこには5人の男がいた。横並びに整列する彼らの背後から強い光が当てられている。カラフルな全身タイツを身に纏い、タイツにはあちこちにツギハギやワッペンで補修されている。全員が顔までタイツで隠しているが体型は隠すことが出来ず5人のうちの3人、赤、緑、ピンクが所謂メタボ体型、紫は辛うじて小太り体型だがそれが余計に見窄らしく、青だけ痩せ細っている。その奇抜すぎる五人衆に女性もリア獣もポカンと開いた口が塞がらない。そこに赤……ではなく緑タイツの太った男が声高らかにリア獣に宣戦布告をする。


緑タイツ「お嬢さん、俺たちが来たからにはもう安心しなさい。今すぐこの悪しき獣を討ち滅ぼして見せよう!」

 緑タイツが戦いの意志を見せつけると赤タイツ、紫タイツ、ピンクタイツは各々ヤジによる先制攻撃を開始する。


赤タイツ「クリスマスイブイブに蔓延るリア獣め! 」

紫タイツ「ただでさえ性の6時間にイラついてんのにフライングスタートもいい所だバカヤロー!! 」

ピンクタイツ「大量のニトロを飲ませて体内からじっくりこんがり爆破してやる! 」


リア獣「豚共が何しに来た! そして何者だ!! 」


 リア獣は五人衆に向かって宣戦布告に応えるように吠える。その言葉を皮切りに五人衆は名乗り始める。


「滾る血潮の赤! ソロレッド! 」

「揺蕩う水面の青! ソロブルー! 」

「進むべき証の緑! ソログリーン! 」

「妖艶な香りの紫! ソロパープル! 」

「膨らむ妄想の桃! ソロピンク! 」


ソロレッド「5つの頭皮が輝く時、悪しき獣を討ち滅ぼす! 」

「「「「「ぼっち戦隊!ソロレンジャー!!! 」」」」」


 決めゼリフと決めポーズが決まると先程まで強い光が当たっていた彼らの背後が爆発し、それぞれの色の煙が立ち上る。全身タイツが顔も覆っているため顔が見えないが、青タイツ以外のメンバーはタイツ越しにニヤつく顔が微かに浮かぶ。逆に青タイツからは哀愁漂う悲しみの表情がタイツ越しにうっすら浮かぶ。


ソロレッド「さぁ、悪しき獣の『リア獣』よ! この正義の味方であるぼっち戦隊ソロレンジャーの名において、ついでにサタンのおじさんとキリストに変わって成敗してくれよう!! 」

リア獣「邪魔だ! 消し炭にしてやる!! 」


 お互いが拳を握り、殴り合いが始まる。


「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 走ると腹部の肉がタプタプと激しく動く。ソロレンジャーは総じて防御力が高く重量がある。つまり身体を使った重い一撃をリア獣に食らわせてしまえばあとは警察に突き出して仕事完了である。身軽な相手に確実に技を決めるにはチームワークは不可欠。この5人が1人を相手取っているため人数は圧倒的有利。今ここに、ソロレンジャーとリア獣の熾烈な戦いが始まった!!


 のはよかったのだが


「ぐはっ! 」

 先陣を切ったソロレッドがパンチを繰り出す前に顔面にえらく堅いリア獣の左の拳が叩き込まれる。太っているレッドはボディの防御力は高くとも顔面にそこまでの脂肪を蓄えることは人間として不可能なため、そのまま鼻血を吹き出して殴り飛ばされる。


ソロブルー「烈斗さん! 」

ソロパープル「私に続け! 悪しき獣は叩き潰してやる!パープルシガレット装備! うおおおおお!!」

ソログリーン「村崎さん! 無茶です! あんた来月で53歳でしょうが! 」


 ソロパープルがタバコをタイツ越しに咥えて若干覚束無い足取りでリア獣に向かって駆け出すが、リア獣はその足元を掬ってソロパープルを転倒させ、脚を掴んでジャイアントスイング。そのまま壁に叩きつけ、ソロパープルは首をありえない角度に曲げながら歳に似つかわしくない断末魔を上げ、タバコを落とす。


ソロパープル「ぴっ! 」

ソログリーン「ほら言わんこっちゃない! グリーンスタンプ装備! 」


 ソログリーンが呆れたようにセリフを吐き捨て、壁に叩きつけられたソロパープルを助けに行こうと駆け出す。右手には“倫久”と書かれた社長でも滅多に押さないような大きなハンコを持ち出す。しかしリア獣はそれを許さない。


リア獣「キモイんだよクソ偽善者! 」

ソログリーン「ぎゃあああ! 」

ソロブルー「倫久さん! クソっ! 簡単な案件だって甘く見たのがいけなかった、コイツはヤバい!! 」


 リア獣のクロスチョップにソログリーンは為す術もないままゴミ捨て場に吹き飛ばされてしまい、そのまま伸びてしまった。


ソロブルー「この短時間で3人がやられた!! 桃尻さん! 撤退しましょう! 」

ソロピンク「こちら桃尻、火力支援を要請する。オーバー」

ソロブルー「なにやってるんですか! おもちゃのトランシーバーでどこに連絡してるんですか!」

ソロピンク「マザーベース」

ソロブルー「メタ〇アごっこしてる場合か! それに登場の時に使った爆薬で全部でしょうが! 予算不足だからって言ったのになんでそんなアホなことしたんですか!! 」

リア獣「覚悟はいいか? 」

ブルー、ピンク「ひぃっ!! 」


 ソロブルーとソロピンクがしょうもないやり取りをした数秒でリア獣は2人にトドメを刺しに来た。2人はそのままダブルラリアットで首に強い衝撃を与えられ、宙を一回転してアスファルトに顔面から衝突する。


リア獣「二度と来んなクソ豚共が! さぁて俺様の本日のエサは……って! こんなことしてる間に逃げちまったじゃねぇか! てめぇらぜってえ許さねぇ! 殺してやる! 」


 その時だった。この混沌とした裏路地に希望と言う名の懐中電灯の光が差し込んだ。


警察「動くな! 警察だ! 」

リア獣「ポリ公だと!?」

ソロレッド「警察! 」

ソログリーン「公的機関なら安心だ……ぐほっ! 」

ソロピンク「サツか……銃を貸してくれ……」

ソロパープル「……」←泡吹いて寝てる

ソロブルー「なんて頼りないヒーローだ……」


 リア獣が即座に逃げ出した。警察はリア獣を追わず、ソロレンジャーの前に立ちはだかる。


ソロレッド「……あれ? 追わないんすか? 」

 ゾロゾロと警察の後ろには武装した特殊部隊が勢揃いである。どう見てもリア獣一体を確保する戦力ではない。オーバーキルである。そして警察が口を開く。


警察「匿名で『奇妙な5人組がカップルを襲っている』と通報が複数件あった。爆発物を所持しているとの情報もあったが、どうやら本当だったようだな。こいつら5人を確保しろ! 」

武装した警察「「「イエッサー! 」」」

ソロレッド「え! あ! ちょ、ちょまっ! 」

ソログリーン「オレたちじゃない! あっち! あっちを捕まえろ! ぎゃあああ! 」

ソロピンク「ふざけんな! 俺達はソロレンジャーだぞ! リア獣を駆逐しないと行けないのにああああああああぁぁぁ!!! 」

ソロパープル「……」←泡吹いて倒れてる

ソロブルー「どうしてこうなった……いや、全部なんだけどさ……」



 翌朝

「本日はクリスマスイブです!ホワイトクリスマスになる予報も出ておりますので、皆様にとって素敵な1日になりますように。以上、お天気でした。」

「さて、次のニュースです。昨夜未明、A県B市の裏路地にて5人の不審な男たちが逮捕されました。男たちは全員がツギハギの全身タイツを履き、1人の女性に襲いかかったようです。警察の調べによりますと5人は口を揃えて『リア獣に襲われていた女性を助けたのになぜ我々が逮捕されなければならないのか』と容疑を否認しています。強姦未遂事件として警察が調べを続ける方針ですが、男たちは自らを『ぼっち戦隊ソロレンジャー』と名乗っていたことから精神鑑定を急いでいます。」


 ありがとう、ソロレンジャー!

 さようなら、ソロレンジャー!

 全国ネットに顔と頭と活躍が知れ渡ったぞ!

 一日早いけれど青いサンタさんから手錠と逮捕歴のプレゼントだ!

 矛盾した名前と存在であるあなた達の活躍は2分くらいは忘れない!!

 彼らのクリスマスと人生に幸あれ!!


 ぼっち戦隊ソロレンジャー


 完



お目汚し失礼いたしました。彼らは多分もう二度と登場しません。作者はありったけのC4(粘着爆弾)をかき集めてリア充を探しに行ってきます。


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普段は”ベテラン勇者のおつかい”という勇者が魔王を討伐するというよくある感じの作品を執筆しております。現在から数万年後の地球が舞台で、能力と魔力を得た人類のお話です。下記URL、またはなろう内の検索機能にて、ぜひともご覧ください。

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