六つ
足の生えた白いスライムは召喚者と思われる黒髪の男を上下に揺らしながらゆっくりですが目に見える早さで飲み込んでいきます。男の人を飲み込む度にスライムは人の形になっていくのが分かります。
ヘレンは息を吸い足に力と魔力を込め床にヒビが入る程の力強さでスライムに突進します。最初に突き立てたのはノンブル、柄も埋まるほど深くスライムに刺さりましたがスライムは一切怯みません。ヘレンは構わずノンブルを刺したまま下に引いてスライムを引き裂きます、次に横に一直線にスライムを切るとノンブルを投げ捨てて男の人の手を掴み取ります。
流石に痛みは感じなくても自分の体を切られて怒ったのでしょう、スライムは前に倒れてヘレンを推し潰そうとします。
それに気付いたヘレンは左手に持ったクワロの小さな切っ先をスライムの足に向けて呪文を唱えました。
「クワロ・バナード」
クワロの刀身が赤くなりそこから真っ直ぐに伸びる炎が出てきました。クワロはヘレンの呪文と魔力を切っ掛けに鉄程度ならチーズを切るよりも簡単に溶断する事が出来ます。熱は勢い良く真っ直ぐに伸びる為直接触ったり炎の前に立たないと熱くないため直ぐ横に立ってても持ってるヘレンも熱くありません。
ヘレンはクワロの炎をスライムの足に向けて溶断します。右足を斬られたスライムは二、三歩ケンケンをして尻もちしてしまいます。
ヘレンは尻もちを付くスライムに合わせて男の人を引き抜き救出を図ります。
男の人は既にお腹から下は無くなっていて助かるとは思えません。ならばとヘレンは男の人を遠くに投げてスライムに食べられないようにします。普通のスライムなら獲物を食べても何も変わりませんがあの白いスライムは下半身があります。食べた召喚者の食べた部位を得られるのなら能力も得られないとは限りません。そもそも目の前のスライムがスライムなのかもヘレンは怪しくなってきました。
スライムは当然のように溶断されていた右足をくっ付けて既に立っています。もうヘレンは相手がスライムだと思うのを止めました。全力を尽くし、慎重に確実に倒すことを考えます。
「クワロ・メーネ」
今まで使っていたクワロ、ノンブル、バット・イージスは床に空いた穴に放り込み新たな武器をヘレンは引き抜きます。「卑劣の双剣」と言う意味のこの武器はクワロと同じ人物が作った武器です。短い切っ先は柄の両側に付いており魔力を流す事でクワロと同じように炎が飛び出ます。間合いが広く、炎の刀身なので狭い部屋でも振り回せます。それにノンブルの様な頑丈な刃物よりもクワロの炎の方が目の前のスライムには効き目がありそうです。
クワロ・メーネのバーナーの様な炎を見てスライムは首を傾げた、様に見えました。ヘレンはジリジリとゆっくりスライムに近ずきます。
するとスライムはブヨブヨの上半身から腕のような触手を三本生やして扉に飛ばし壁に触手をくっ付けると自分を引き摺るようにして扉の中に消えてしまいました。
ヘレンはその様子を見て姿勢を正しクワロ・メーネの火を弱めます、どの道自分もスライムも逃げ場はありません。慌てなくても会うことはあるでしょう。それよりもスライムが逃げた扉の先からはカタカタと音を立てて黒いスケルトンが幾10も流れ込んできます。