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五つ

スーッと見た目に反して木製の扉は滑らかに開きます。部屋の中は蝋燭の蒼い火の明かりは無く、後ろの明かりだけがヘレンの影を部屋の中に伸ばしています。

ヘレンは小さく息を吸い。


「ノンブル。クワロ」


と呟くヘレンの両手の空間から黒い穴が開きヌルりと柄が伸び、ヘレンはそれを掴んで引き抜きます。右手に逆手で持ったナイフは名前を「ノンブル」と言って誇りを意味します。ノンブルは切っ先が諸刃でそれから下は片刃の少し変わった武器です。刀身は真っ直ぐで分厚く光に当てると鈍く光る波紋が美しく、蝋燭の蒼い火で怪しさも増しています。

左手で順手で持つのは「クワロ」。この武器はナイフと言うよりナックルに小さな刃が付いている、と表現した方が正しい見た目です。柄に付いた拳を守る様に包まれたナックルは短い三角柱が隙間なく生えており切られるよりも殴られる方が痛そうな見た目です。クワロは卑怯と言う意味です。

ヘレンが2つの武器を出したのは何となくです。何となく必要になりそうだから出したのです。この先の部屋は敵が来ると感じたのです。

ヘレンは1歩部屋に踏み入れます。その瞬間バンと扉が閉まり部屋にその音が反響します。明かりの無い部屋は真っ暗闇、自分の手元も見えません。ヘレンは動じず自然体のまま動きません。


「……ふっ」


金属と金属がぶつかり火花が飛び散ります、その一瞬だけですがヘレンの菅田が見えました。ノンブルで何かの攻撃を防いだようです。ガン、ギン、ゴン、バキン。と、音が鳴り響く度に火花が散り一瞬だけヘレンの周りが明るくなります。どうやらヘレンは複数の人影に襲われているようです。でもその人影の線は細く様子がおかしいです。

そもそもこの施設に敵が居ることがおかしい、とヘレンは考えます。いくら先人が用心深く手練を召喚に向かわせたくても暗闇からの複数の敵からの強襲はやり過ぎだからです。これでは誰も召喚に向かえません。


「よもや。誰もが生かして帰さないため?」


引き倒した敵の頭があるであろう所にクワロで何度も殴りながらヘレンは呟きます。と、同時に戦っている敵は人では無いと手応えで悟りました。相手は複数で軽く素早く武器を持ちそこそこ硬い、それでいて手と足は2本ずつ。

暗闇でも正確な攻撃を繰り出せる夜目の良さ、足音、武器を振るう風切り音、攻撃の高さにクワロから伝わる感触。これらと経験から来る勘で辿り着いたヘレンの結論。


「スケルトン、それも固有派生」


ヘレンはノンブルを口で咥え恐らくスケルトンであろう敵の空の眼孔た穴に指を引っ掛けて振り回し周りの敵を薙ぎ払います。

身近に敵の気配は無くなりましたが奥の方から新たな敵がカチャカチャと音を立てて現れているのをヘレンは感じ取りました。流石に暗闇で戦い続けるストレスに嫌気が刺したヘレンは右手を捻って鈍器とかしていたスケルトンの首を折り、頭を投げ捨てて魔法を唱えます。


「ホーリー・ボム」


右手に現れた光の玉は片手で握れる程度の大きさでフワフワと浮いています。ヘレンはそれを骨の音のする方向へ投げます、すると玉は床に触れると辺り一面に光る幾100の針を撒き散らすように飛ばします。勿論ヘレンにも針が飛んで来ます。


「バット・イージス」


そう言うと天井からヘレンの身長よりも大きな盾が落下して床に突き刺さります。ヘレンは盾の後ろに隠れ飛んで来た針をやり過ごします。針が止むと床や天井、壁に針に照らされたスケルトン達が磔にされていました。バット・イージスにも一体張り付いていますが、スケルトン達はヘレンを襲おうとモゾモゾともがいています。

肋骨や上腕骨にまで突き刺さりスケルトンを磔にするヘレンの魔法も凄いですがそれを受けても尚死なないスケルトン達はもっと凄いです。ヘレンが使ったホーリー・ボムは通常スケルトンの弱点である光の属性でそれを受けたスケルトンは蒸発するように消えてしまいます。ヘレンのように物理の攻撃で動けなくなり無力化する事も出来ますがヘレンはその手応えから通常の物よりも高い強度があると感じています。

そして何よりおかしいのはその見た目です。ヘレンはここのスケルトン達を固有派生、この部屋独特のスケルトンだと思っていましたがヘレンの予想以上の個性でした。

光る針に照らされたスケルトンは光を吸い込むような黒。光の反射も許さないような漆黒です。クワロで殴った感触も通常のスケルトンより頑強で硬さだけなら鉱石や鉄などの無機物に匹敵しています。ノンブルで防いだ彼らの拳も剣撃このように重く驚いてしまいます。

試しにヘレバット・イージスに磔にされているスケルトンの頚椎にノンブルを突き立てます。ノンブルから下の部位はピクリとも動かなくなり顎だけがカタカタ音を鳴らしています。通常よりも硬いようですが流石に軟骨への攻撃は通用するようです。

このまま磔にしたままでも無害でしょうがヘレンは念の為一体一体の頚椎を切り落としていきます。合計12体の顎が広くない部屋の中でうるさく響きますがヘレンは気にしません。部屋の周りを見渡し入ってきた扉を探します。

扉はいつの間にか開いておりヘレンを招き入れます。

ですがそれは上に戻る階段ではなく更に地下に続く階段へと変わっていました。


「最早、ダンジョンだな」


扉に歩み寄るヘレン。でも急に立ち止まります。扉の奥から音が近ずいているからです。

ぴちゃ、ぴちゃ、濡れた布が歩いている様な音。暗く狭い階段から部屋に反響してずっと耳に残ります。

ヘレンはノンブルとクワロを強く握り直し自然体で扉を見つめます。


扉の奥から現れたのは2本の足が生えた半液体のスライムの様な生き物でした。色は白く歩く度にプルプルと震える上半身からは見慣れない服を着た恐らく男性と思われる人が下半身を飲み込まれてぶら下がっています。呻き声が聞こえることからまだ生きているのでしょう

見慣れない服装、知らない言葉、そして恐らくこの先には召喚者を行う部屋。ヘレンは食べられている人物は召喚者だと確信しました。

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