第6章 親友(とも)よ、キミは何故に大狂授(あくま)に魂を売ったのか?!
お久し振りです。
8ヶ月と言う忘れられた頃に帰ってきました。
……バルティスがMIA になって4ヶ月……。
バルティスの副官『ヤンデル・ナイスボート』はデタロン帝国の領土の惑星『フレミングッド』の周囲を回る衛星にやって来た。
……フレミングッドの衛星それは仮の姿であり、真の姿はバルティスの師であり、とってもチートな『帝国将校108芸』の創始者でもあり、帝国史に残る大事件『シーラレテルンダの悲喜劇』(集中線)を引き起こし、『歌って踊れる狂喜の魔女』と呼ばれる『大狂授 アビス』の居城『スペース・頭脳武装ラボ アンペア』なのである‼
スペース・頭脳武装ラボ アンペアの内部の一室、其処ではグツグツと煮えたぎる真っ赤な液体を満たした鍋を妙齢の美女が掻き回していた。
鍋を掻き回す美女は黒いローブをその身に纏い、長い髪をシュシュで束ね、肩から垂らしている。
……鍋を掻き回す姿は絵本に見る悪い魔女には見えない。
……だが、死んだ様な瞳と彼女の両肩に乗る異常に大きく、異様なショルダーアーマーはやっぱり異常だった。
そう、彼女こそが『大狂授 アビス』なのである‼
「……ふーん。 バルティス君が『MIA (行方不明)』ねぇ……?」
「そうなんですよ‼ 師匠‼ バルはあんな事で、死ぬ様な人ではありません!!」
「そうなんですよ? 遭難? ……ププッ……そんな駄洒落では、座布団はあげられないわよ?」
「師匠‼ ボクは冗談なんて言っていない‼ ……ゲホッ」
……鍋から漂う刺激的な匂いに噎せるヤンデル。
強烈な匂気を気にしないアビスは鍋を掻き回しながら、ヤンデルの言葉に吹いた。
アビスはグツグツ煮える赤い液体を一緒に煮える肉塊と白色の四角い塊を肩のショルダーアーマーから伸びたサブアームの差し出すお椀によそう。
アビスは卓に着き、椀の中身をレンゲで食べ始める。
「……うん。 辛いくて、美味しい‼」
鍋の中身は麻婆豆腐の様だ。
笑みを浮かべながら食事を採るアビス。
ある程度椀の中身を食べ、満足したのかアビスをじっと、見つめるヤンデルに問う。
「……そんなに私を見つめて……何? お腹が空いたの? 麻婆豆腐を食べる?」
「食べませんよっ‼ 何でボクが殺人的な激辛料理を食べないといけないんですかっ⁉」
「……慣れると美味しいわよ?」
「慣れたくないですっ‼」
「え~っ⁉ こんなに美味しいのに……それはさておき、ヤンデル君は私に何をさせたいのかな? バルティス君の行方を探して欲しいとか?」
ある程度、椀の中身を食べたアビスは食事を中断して、真面目な顔でヤンデルに問う。
「……どうか、お願いします……行方不明のバルを見つけられそうなのは師匠しか……」
ヤンデルはアビスに頭を下げて懇願する。
アビスは小首を傾げて……思案したあと、指をパチンと鳴らした。
「アッシュ、ヤンデル君からバルティス君の行動パターンのデータを貰って頂戴。
バルティス君の行動をシミュレートするわよ」
アビスに呼ばれて、ティーセットの載ったワゴンを押しながら、黒髪のメイドがやって来る。
メイドの格好はメイド服のいたる所にロボットの装甲を着けた格好をしていた……その姿は正にM○少女(メイド仕様)であった。
彼女の名は『メガメイド・アッシュ』。
大狂授 アビスのボディガードを兼ねたメイドのアンドロイドである。
「……畏まりました、ドクター。 ヤンデル様、バルティス様の行動データを此方に」
「……これが、バルの失踪直前の行動のデータだ。 ……必ず、バルを見つけてくれ……」
ヤンデルはアッシュにMIA直前のバルティスの行動ログを記録してあるデータチップを渡した。
アッシュはデータチップをスカートの下に入れてゴソゴソしだした。
そして、時折魅せる羞恥に染まった表情で
「……んんっ❤」とか「……あっ❤」とか喘ぎ声が漏れる姿はとても情報を分析している様には見えなかった。
「……ドクター……シ、シミュレートの用意が……出来ました……アフン❤」
……妙に艶やかな表情をしながら、スカートの下から伸びたコードに繋がれたVR メットをアビスに差し出すアッシュ。
「それでは、始めましょうか。 レッツ・ラ・シミュレート‼」
勢いよくVR メットを被り、座り心地の良いソファーにダイブするアビス。
……ピコピコ……
「……んんっ♡」
……ピコポコ……
「……あ、ソコ……イイッ……♡」
「……ぬふぅ」
……ピコピコピコ……
……静かな密室に響き渡るピコピコサウンド、時おり聞こえる艶かしい喘ぎ声。
……その光景はエッチなVRゲームを堪能している妙齢の美女とメイドにしか見えない……だが、彼女達はエッチなVRゲームに耽っているのではない!! ヤンデルのデータを元にバルティスの行方をシミュレートしているのだ!! マジで!!
エッチなゲームをしている様にしか見えない主従関係の師を見るのに飽きたヤンデルは部屋にあったテレビを視て暇をつぶす事にした。
………ピコピコピコピコ……
「……マ、マスターもう駄目です……これ以上は私が壊れちゃいましゅう……」
「駄目よ……もう一回だけやるわよ……あ……そこイイ……」
「……も、もう……らめぇ……」
「……イイわ……い、一緒にイクわよ……」
「「アッー!!」」
……ピコピコ音の停止と共にグッタリする大狂授アビスとメガメイド・アッシュ。
「……あ、師匠、バルの居場所は判りました?」
テレビを視ながらティータイムを楽しんでいたヤンデルがシミュレーションが終了した様子に気付き大狂授アビス達に徐に視線を向ける。
……何故かVRメットを脱いだ大狂授アビスの顔はツヤツヤしていた。
……ナンデ?!
「……ええ。 バルティス君の居場所は察しが付いたけど……イマイチ面白くないわね。 ……何かバルティス君を見つける為の面白い実験は無いかしらねぇ……」
大狂授アビスはヤンデルの背後のテレビに視線を向ける。
テレビには『スペース・水曜スペシャル 『川口宏美探検隊シリーズ!! 地底湖に潜む巨大な古代魚『スゥゴォクウォーキィデス』を見た?!』と言うテロップが豪快なBGMと共に放送されていた。
………キュピーン!! 謎の効果音と共に大狂授アビスの目が光る
「……?! 実験に足りなかったのはコレよ!! コレだわ!!」
死んだ様な瞳の大狂授アビスの瞳に光が宿る。
大狂授アビスは懐から携帯端末を取り出し、何処かに連絡を始めた。
「……もしもし? お久し振りです。 ……実は……ゴニョゴニョ……」
……大狂授アビスは誰かに交渉をしている様だが、細部までは聞き取れなかった。
……まだ、テレビに映る探険家『川口宏美』はこれから起きるしょーもない騒動に巻き込まれるのをまだ知らない……。
……そして、ヤンデルはバルティスの居場所に見当を付けた大狂授アビスに希望の光を見出したが、初めて見る『生き生きとした瞳の大狂授アビス』に得体の知れない姿に気持ち悪さを感じていた……。
読んでくださって感謝。