第3章 「旅立ちは破壊の光と共に」
忘れた頃に、恥ずかしながら、帰ってきました。
……『メヲサマセ戦役』最大の謎とデタロン帝国の旗艦『トレビアーン』轟沈の原因は何だったのか……。
……時と場所をアン提督の歌姫魔法が発動した頃のトレビアーンのブリッジに場面を映そう。
……トレビアーンのブリッジ内にも『キュン❤』や『テンテロリロリン』と謎の音が響き渡った。
……謎の効果音が鳴り止んだ沈黙を破ったのはヤンデルだった。
ヤンデルは自分の状態を確認、後ろに居る親友で上司のバルティスを見るが、バルティスは先程と何も変わらず席でワインを楽しんでいる。
どうやら異常は無いらしいと安堵しようとした時、トレビアーンのオペレーター達が一斉に声を挙げた‼
「「「提督に進言します‼ 戦争を止めましょう‼ 投降の指示を‼ 戦争カッコ悪い‼」」」
……ヤンデルとバルティスには効果が無くても、トレビアーンのブリッジオペレーター達には効果が有った様だ。
「何を言っている⁉ 何故、投降しなくちゃならない⁉ 此方の戦力の方が優勢ではないか‼
……まさか、奴等はコレが狙いだったのか⁉」
憤慨しながら、歌姫魔法の驚異に気付くヤンデル。
艦長席でワイングラスのワインを飲み干したバルティスが徐に指示を出す。
「……トレビアーン及び、帝国軍艦隊ははファースト・フラッシュに向けて全速前進。 但し、戦闘行為は一切するな‼」
「「「ハイ‼ 喜ンデー‼」」」
バルティスの指示に従うブリッジクルー達、全速力で進むトレビアーン。
バルティスの異様な指示に何事かと振り替えるヤンデル。 だが、バルティスの異様な姿に一度、前を向き 「……見間違いだろ……」 と、もう一度振り替える。
「……何ィ⁉ バル‼ 何と言う格好をしてるのさっ⁉」
ヤンデルが見たのは艦長席で蛍光ピンクに染まった法被を身に纏い、鉢巻きを締め、アン提督のプリントされた飾りの付いた団扇を持ったバルティスが居た。
ご丁寧にも各グッズの各所には『I ❤アン提督』と書かれている。
……その姿はどう見ても『アン提督ファンクラブ会長』と言う姿だった……。
……バルティスには歌姫魔法が効いていなかったのではない‼ 異常と言えるレベルで効き過ぎていたのだ‼
「バル‼ 何処からそんなモノを出したのさ⁉ さっさとそんなモノを脱いでよ⁉」
「……フッ。 愚問だな、ヤンデル。 帝国将校宴会108芸の1つ『究極の前借り‼ 今度、必ず帰すからぁ‼』で、用意したに決まっているだろ?」
ムキーッ‼ と、怒りながらバルティスからアン提督グッズを取り上げようとするヤンデルにバルティスは当然と言う顔で答える。
因みに『帝国将校宴会108芸』とは、AGES 銀河で最狂のマッド・サイエンティスト『大狂授 アビス』が編み出したと言われる108の宴会芸である‼
……その威力は1つでもマスターすると、一騎当千の威力を発揮すると言われ、108芸を全て極めれば『その力はAGES 銀河を切り裂き、雄叫びは電光石火の一撃を呼ぶ‼』とも言われている。
帝国将校宴会108芸の1つ、『究極の前借り‼ 今度必ず帰すからぁ‼』は未来からアイテムを借り受けると言うモノである。
……即ち、バルティスは未来でアン提督ファンクラブの会長になっていると言う証明でもある。
「だったら‼ 何で艦隊を進軍させるのさっ⁉ ああっ‼ もう⁉ さっさと脱いでよ‼」
「断るっ‼ ……私にはアン提督のステージの最前列で応援をすると言う崇高な使命が有るのだっ‼ アンコール‼ アンコールゥ‼ あ、ソレ‼ アンコールゥ❤」
……いい歳こいた大人がブリッジで口論をしながら、取っ組み合いの喧嘩をしている光景は間抜け極まりなかった……。
『ブチッ‼』
取っ組み合いの喧嘩の中で、洗脳された様な❤状のバルティスの瞳の奥にアン提督が映って居るのを見たヤンデル。
……ヤンデルの何処かで何かがブチ切れた‼
「……フフフッ……ハハハハ……アーハッハッハッ‼ バルは僕よりもあの魔女を選ぶと言うのかっ⁉ だったら‼ 僕はバルを殺して永遠に僕だけのモノにいいいいっ‼」
訳が分からない絶叫と共にヤンデルは高周波ノコギリを持ち出し、バルティスに襲いかかる‼ ……ヤンデル、お前もそんな物騒な物を何処から出した⁉
「……待て、ヤンデル‼ 何故に怒り狂っているのだっ⁉ 落ち着くのだっ‼」
「フジコフジコフジコオォォォォッ⁉」
狂った雄叫びと共に高周波ノコギリを振り回し、バルティスを切り刻もうとするヤンデル、ヤンデルの繰り出す高周波ノコギリをアン提督の団扇でスペース・金魚すくいの要領で受け流しながら説得を試みるバルティス。
……トレビアーンのブリッジに破壊の嵐が吹き荒れる‼
このままではブリッジが破壊されるのは時間の問題だった。
……だが、バルティスとヤンデルの喧嘩を止めようとする勇者達が現れた‼
その姿は、帝国軍の制服がはち切れんばかりの筋肉‼ こんがりと日焼けした肌‼ 真っ白に輝く歯‼ の偉丈夫達‼ 有りったっけの愛で筋肉を鍛え抜いたスペャリスト‼ バルティス親衛隊である‼
「バルティスの兄貴‼ ブリッジでの喧嘩は止めてくだせぇ‼ ブリッジがぶっ壊れちまいますぜぇ‼」
バルティス親衛隊隊長フッキンがバルティスにタックルを仕掛け、続いて他の親衛隊達も「ウオオオオッ‼ ワシらもおぉぉぉっ‼ 兄貴に抱きつくんじゃあぁぁぁっ‼」と、バルティスに飛びかかる‼ その姿は当に雪崩の様だ‼ これがバルティス親衛隊名物‼ 『熱烈‼ 漢雪崩‼(ねつれつ‼ おとこなだれ‼)』 である‼
……詳しくはスペース蘭花書房の『酒池肉林‼ 漢の世界‼』を参照されたし。
……迫り来る肉、肉、肉の漢雪崩に捲き込まれるバルティス。 ……あ、ヤンデルも捲き込まれた……。
「兄貴ぃ‼ ブリッジで暴れるのは堪えてつかあさいっ‼ ……ああっ‼ ワシらは兄貴に抱きつけて極楽に居る様じゃあ……。」
……どうやら、バルティス親衛隊はバルティスに抱きつく事の方が重要の様だ。
「ぬうううっ‼ 親衛隊達よ放せ‼ これではアン提督の応援が出来ないではないかぁっ⁉」
「ぎゃあぁぁぁっ‼ 暑い‼ 厚い‼ 汗臭いっっ‼ 放れろぉっ‼」
「「筋肉饅頭ぅ‼ 推されてイクなっ‼」」
「アッー‼」
絶頂に達してしまった者も混じりながら、筋肉の押しくら饅頭に悶絶する上官達に対して親衛隊達は謎の漢コーラスを合唱する。
……この漢コーラスまで合唱するのが漢雪崩の作法である。
ブリッジ内に圧倒的肉量と熱量、そして汗臭さが充満する。
「ア、アン提督のライブの応援の邪魔をするなあぁぁぁぁぁっ‼ アンコールッ‼ アンコールッ‼」
「い、嫌だぁぁぁぁぁっ‼ 親衛隊の筋肉に囲まれて死にたくなぁァァイッ‼ ……せめて、死ぬ時はバルの胸の中で……ポッ」
熱と汗を発しながらモゾモゾと蠢く筋肉密林からアンコールッ‼ アンコールッ‼ と、謎のチャントを叫び、逃れようとするバルティス、漢雪崩に揉みくちゃにされた挙げ句、瞳から色が消え失せて今にも死にそうなヤンデル……でも、あんな事を言っている様なら二人共、まだ大丈夫そうだ。
……いや、大丈夫どころではなかった‼
「アンコール‼」とチャントを唱えるバルティスの瞳には破壊の光が宿りつつあった‼ ……物理的に。
アンコールと唱える度に光はどんどん強くなってゆくが、筋肉饅頭で恍惚の極致にイッちゃってる親衛隊達と死んだ瞳のヤンデルは気付いていない。
「アンコールッ‼ アンコールッ‼ ……じゃ、邪魔をするなあぁぁぁぁっ‼」
ポピーーーーーッ‼
気の抜ける発射音と共に108回目のアンコールでバルティスの瞳から、ライブの応援の邪魔をされた怒りと化した破壊の光が大回転‼ 更にジャンプ‼ 止めに海老反りをしながら放たれた‼
破壊の光はトレビアーンのブリッジを起点にトレビアーンを真っ二つに切り裂いた‼
ゴゴゴゴ……と、ジョジョに崩壊しつつあるトレビアーン。
「何ぃっ⁉ バルの目から極太のビームがっ⁉ うわあぁぁぁっ‼ ブリッジが⁉ バル、総員退避の命令を‼ ……あれ? バルが居ない⁉」
……バルティスを探すヤンデル。
……だが、極太ビームを発射したバルティスは勢い余って、崩壊したブリッジから放り出されていた……。
……やけに頼もしい肉体を持つバルティス親衛隊は一同で片手を額に当て、一斉に呟いた。
「……もう、駄目だぁ~っ⁉」
……自業自得とは言え、宇宙空間に飛び出してしまったバルティス。
……ここから、バルティスの宇宙漂流が始まる。
読んでくださった方々に感謝。