第2章『炸裂‼ 歌姫魔法‼(ディーヴァマジック‼)』
忘れた頃に帰ってきました。
まだだっ‼ まだ、終わらせんぞ~っ‼ (笑)
ネムナルト連盟軍の艦隊の旗艦『ファースト・フラッシュ』のブリッジは今や、ライブステージと化していた。
その映像は自軍、敵軍問わずメヲサマセ宙域の全ての艦隊の通信システムにファースト・フラッシュのオペレーターが無理矢理ハッキングを行い、強制的にアン提督のライブが垂れ流される‼ ファースト・フラッシュのオペレーターの何と言うワザマエ‼
この作戦の為に、ファースト・フラッシュのオペレーター達はヤバイ級のハッカー達で構成されていたのだ‼
アン提督のライブ映像はメヲサマセ宙域だけに留まらず、AGES銀河のスペースチャンネルにもアクセスし、その歌声はAGES銀河中に響き渡るのだ‼
ポップな曲のイントロに乗って、アン提督は軽やかなステップで舞い踊る。 踊りとリンクして短いスカートのプリーツが翻り、衣裳のあちこちを彩るフリルも揺れる。 カワイイヤッター‼
イントロが終わり、アン提督が歌い出した。
「~私、恋のスナイパー~貴方のハートをロックオン❤ 食パンくわえて、貴方の体にラブタコゥ~」
……何とも言えない微妙な歌詞をアン提督は笑顔で躍りながら、抜群の歌唱力で歌い上げる。
歌いながら踊るアン提督の周りに光の粒子が集まりキラキラと光り出す。
……この光の粒子の存在について、諸氏はお気付きだろうか?
……そう、この光の粒子が人の『想い』を乗せてAGES銀河を循環する不思議粒子『モエーテル』なのである‼
メヲサマセ宙域の艦隊、そしてAGES銀河のネットワークに流されたアン提督のライブに魅了された感情がモエーテルに乗って、アン提督の元に集まってきたのだ‼
……ファースト・フラッシュのブリッジの端では、オペレーター達はライブステージと放送の管理を行い、副官が何やら謎のメーターを見ていた。
「……モエーテルのチャージ率が想定より高い。 これなら、当初の予定より早く『歌姫魔法』が発動出来そうね……。」
副官はステージで歌うアン提督にカンペを翳す。
『1曲で発動可能です‼ やっちゃってください‼』
カンペを見たアン提督は歌いながら頷いた。
……場面を移そう。 一方の、トレビアーンのブリッジ内。
……いきなり始まったライブにバルティスとヤンデルは困惑していた……。
「……何だこれは⁉ 何で敵はライブを始めたんだ⁉ ……しかも歌詞が微妙で残念だよ⁉」
……憤慨してツッコミを入れるヤンデル……余計なお世話である。
「……こ、この歌は古代AGES語が織り込まれている。
……まさか、彼女は失われた古代魔法、歌姫魔法が使えると言うのか……⁉
……ま、まさか私は伝説の宇宙歌姫の宇宙ライブを視ていると言うのかっ⁉」
ライブ映像を驚愕の表情で見つめるバルティス。
「ふ、ふざけるなっ‼ 戦争でいきなりライブを始めるなんて‼ これはボク達に対する侮辱だっ‼ バル‼ 今すぐ、全艦隊総攻撃を……」
「……待て。 ヤンデル、君は気付いていないのか? 歌詞に盛り込まれた古代言語、そしてファースト・フラッシュに集まりつつあるモエーテルの流れ……。
……フフフ、失われた古代魔法を再現するつもりか?
ならば、見せてもらおうか? 貴女の力とやらを……。」
「何を言ってるのさ⁉ ……確かに『大狂授 アビス』師匠の授業で聞いた事はあるけど、あんなのは伝説でしかないよ‼ ボクにはあの光景がそんな風には見えないよ‼ あんなキラキラしているのはライトの効果だろ⁉」
アン提督のライブを侮辱と受け取り、進軍を提案するヤンデル、ヤンデルの提案を止め歌姫魔法を見ようとするバルティス。
……どうやら、バルティスは歌姫魔法に興味津々であった。
……ファースト・フラッシュのブリッジに場面を戻そう。
アン提督は歌っていた『王道‼ 恋のスナイパーは肉食女子‼』の歌詞を歌いきった所である。
……演奏の響が徐々に消えて行く中で、アン提督はカメラに向かって話しかける。
「お願いっ‼ 戦争を止めてっ‼ 戦争は何も生まないわっ‼」
祈る様に両手を合わせ、瞳を潤ませ上目遣いで停戦と停船を訴えるアン提督。
ファースト・フラッシュに集まっていたモエーテルがアン提督の訴えを乗せてAGES 銀河中に解き放たれた‼
解き放たれたモエーテルはアン提督のライブ映像を視ていた視聴者の下に帰って行く‼
モエーテルが視聴者達の下に帰った時、不思議な事が起こった‼
AGES銀河中に『キュン❤』とか『テン、テロリロリン(好感度の上がる音)』が鳴り響く‼
……謎の効果音が鳴り止んだ後、次々とデタロン帝国の戦艦から投降シグナルが発信されて行くではないか⁉
……一部の者には効果が無かった様で、徹底抗戦をしようとしたが、周りの連中に取り押さえられたりしたりして投降をしていた。
……更に、他の一部は敵味方問わずに歌姫魔法が効き過ぎて『テンテテーテン』のアナウンス音と共に無垢な子供の様な瞳を輝かせた軍人達が「……おうちに帰らなきゃ。」と、帰路に着く戦艦も少なくなかったのが、誤算ではあった……。
……歌姫魔法とは、古代AGES人が自分の想いを歌に変え、歌をモエーテルに乗せて、想いを届ける技術であり、その力は人の心に影響を与え、想いの量によっては自然現象さえも変える力を発揮すると言う。
祝え‼ 今、此所に失われた伝説の歌姫魔法『戦争を止めて‼ 戦争カッコ悪い‼(ラブ&ピース)』が発動した瞬間である‼
ステージから降り、副官から飲み物とタオルを受け取り、戦況報告を聞きながらアン提督は休憩をとっていた。
「……良かった。 これで、このくだらない戦争も終わるわね……。」
予想以上の結果にアン提督が安堵した時だった‼
ブリッジの内にオペレーターの声が飛ぶ‼
「ファースト・フラッシュに接近する艦有り‼ 識別は帝国軍の旗艦『トレビアーン』っ⁉」
「え⁉ 敵性シグナルは無くなったのでしょ⁉」
「目的は不明ですが、トレビアーンはこちらに全速力で本艦に向かってきます‼」
「え~っ⁉ どういうこと⁉ 歌姫魔法が効いてないのっ⁉」
不意を突かれて慌てるアン提督。
「流石は『完璧なる遊戯帝』……まさか、歌姫魔法が聞いていないとは……しかし、単騎で何が出来るっ⁉ ……我々の想像を越える秘策でも持っていると言うのかっ⁉」
……警戒する副官。
……ファースト・フラッシュのブリッジが警戒体勢を取ろうとした時、いきなりトレビアンのブリッジ辺りから極太の光の柱が天に向かって昇り、ブリッジの爆発と共にトレビアーンが沈んで行く。
「「「……え?」」」
……突然、目の前で起こった謎の展開に目が点になるアン提督、副官、ブリッジクルー達……。
……この日、AGES銀河最大と言われた決戦『メオサマセ戦役』は冗談の様な僅かな被害で済んだと言う……。
……謎の爆発で沈んだデタロン帝国の旗艦『トレビアーン』、そして沈む直前に傍受したトレビアーンの通信記録には『アンコール‼ アンコール‼ ……じゃ、邪魔をするなぁ~っ‼』と言う謎の言葉は『メオサマセ戦役』最大の謎となった……。
最後まで読んでくださって有り難うございました。
感謝。