厳格な現実
数あるタイトルの中、私のような若輩者のタイトルを見つけてくださりありがとうございます。
不快な点や苦手なものがありましたら読むのをお辞めになられますよう。
そして、私の文章力が足りないだけで他の作者様の御作品には別格の輝きがございます。
失礼ながら何卒食わぬ嫌いをなされませぬよう、よろしくお願いいたします。
私の作品で少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
いつもと変わらない朝。いつもと変わらない学校。いつもと変わらない放課後。いつもと変わらない家。いつもと変わらない、自分。
変化を求めて頼るのは、もう2年も使い続けてる年季の入ったPC。
電源を入れ、慣れた手つきで英数字の羅列を打ち込む。
一年ちょっと、「これ」に出会ってからもう、それだけの時間が経った。
MMORPG、所謂ネトゲと呼ばれるものだった。
俺はゲームの中で、最強と呼ばれる程度には強かった。そのことは自慢もであった。
だが、どこか冷めている自分がいた。
たかがゲーム、やれば結果は出るかもしれない。けれどそれは現実ではない。
どれだけ強くなっても、どれだけお金を稼いでも。
ソレハゲームデシカナイ
そんなことを考えている自分がいた。
そしてまた、一日が終わる。
──なら、それが現実ならば?──
不思議と、自分の問に答える声が聞こえる気がする。
──はは、それなら随分楽しく生きていけるだろうね。結果の出る世界なんて羨ましい限りだよ。──
答える必要はないと思うけれど、まあ気のせいだろうし答えてもいいだろうと思った。
──良い答えです。そんなあなたには第二の人生を与えましょう。──
…ははは、何を言ってんだか。夢とか妄想にしては随分リアルだな。
ふと、僅かに瞼が重く感じる。
…なんだろ、なんか、すごい眠たい…?
まだ…ゲームが途中だってのに…
《確認しました。「種子」を獲得。これより転生の儀を開始します。》
…こんなんじゃ…雑魚モッドにも勝てやしない…
《──…確認しました。転生の儀を受理します。これより能力獲得を開始します。》
勝たなきゃ…
《魂の根源たる希望をスキルへと変換、成功しました。加護の獲得を確認、「神の御加護」「時空神の加護」を獲得しました。加護による権能の獲得、「鑑定解析+」「情報処理+」「地図+」「空間魔法」。続いて称号スキル、「転生者」「世界ヲ渡ル者」「隣人」「剣士たる所以」「武士」「進化ヲ望ム者」を獲得しました。称号スキルによる権能を獲得、「言語習得level.Max」「環境適応」「異界魔術」「生命力回復促進」「魔力回復促進」「精霊召喚+」「精霊魔法」「聖霊召喚+」「聖霊魔法」「使役+」「剣術」「刀術」「吸収+」「千変万化」「魔力解放」。更に希望を吸収、変換に成功しました。称号スキル、「七大罪・傲慢」を獲得しました。称号スキル「傲慢」の影響により精神状態「傲慢」を付与。称号スキルによる権能を獲得、「傲慢」「大罪魔法-傲慢-」。これまでに獲得した技術の成熟、成功しました。転生前の技術を転生後も同様に使用可能。その他能力や技術を記憶や経験から習得を開始します───成功しました。「深紅眼」「解析者+」「魔力最大値上昇」「体術」「投擲」「疾走」「回避」「隠密」「登攀」「立体機動」「魔闘技」「気闘法」「鏡花水月」「明鏡止水」「神聖魔法」。》
《種族の転生を開始、能力の影響を確認しました。種族「人魔」への転生を決定、適応開始……転生の成功を確認しました。称号スキル、「異端」を獲得しました。称号スキルによる権能を獲得、「黒魔法」。種族能力を獲得、「魔眼」「吸収」。「深紅眼」及び「吸収+」に統合されました。》
なん…だろ、すごいまくし立てられてる...気がする…
でも…それより、眠たいや…
『力とチャンスは与えましたが、ついでに幾つか役に立ちそうな物も与えましょう。さて、これで舞台は整いました。あとはあなた次第ですよ。』
『それではまた会いましょう。』
『あなたに女神の祝福と御加護があらんことを。』
《確認しました。新たな種子たる加護、「女神の祝福」「女神の御加護」を獲得しました。》
あぁ、眠たいなあ。このまま寝ちゃおうか。
目が覚めたら異世界に転生してないかなあ。
━━━━━━━━━━❀━━━━━━━━━━━
それは、一言で美しかった。
腰まで伸びた艶のある黒髪。
まるで彫刻や絵画であるかのように整った顔立ち。
数多の宝石を集めて一つに纏めたかのように輝く眼。
修道女のような服装をしているのだが、本来の白と黒の部分が逆であるがために、僅かながら違和感を感じる。
だが、それを補って余りあるほど、美しかった。
その人は、美しい顔を楽しげに歪めて、俺を見ていた。
そんな顔を、美しいと感じてしまう。
そして、その人が何かを言おうと────ガサガサッ────
ったく、うるさいなあ。せっかくいいところだったのに。
いきなりなんだ、って……あれ?なんの夢を見ていたんだっけ…?
そもそもいいところって…?
ガサッ、ピューゥゥ
……ダメだ、なんの夢だったか全然覚えてないな。
ようやく頭が働いてきたのか、ちゃんと思考がまとまるようになってきた。
俺は学校から帰ってきて、そのままご飯も食べずにベットに倒れ込んで、ちょっと寝たあとゲームしてたはず…
俺は、ん……?…俺………俺、は?
俺 の 名 前 な ん だ っ け
あれどういうことだこれ。
どうなってんだこれ。
なんで自分の名前が思い出せないんだ?!
うわあああああああああああ!
はぁ、はぁ。
…一旦落ち着かなきゃ、何事も進まないよな…
ガサガサッ、ピューーゥゥ
そういえば、さっきから音がするな。
なんの音だこれ?
少し耳をすませてみよう。
んー、んーむむ。
まず何かが擦れるような、草が生えているところのような音が聞こえる。
その後には風が吹いてるような音。
…俺の部屋には草は生えてないし、まず根本家の中だし。それに風の音が聞こえるようなところじゃない、はずだ。
それに、頬になにか当たってる感触がある。
なんというか、認めたくないけど、草っぽい感触が…
ええい目を開ける他あるまい!
ままよ!!
目を開けるのと同時に、俺はうつ伏せに倒れた体を起こす。
パチッガバッ
「………………」
結論から言うと、俺の予想は大体あってた。
めっちゃ綺麗な場所というオプション付きで。
草木が生い茂り、陽の光が僅かにさして神秘的な光景になっていた。
それに加えて、びっくりするほどに澄んだ直径4メートルくらいの水溜まり?湖?があった。
あとは想像通り。
細長くさす陽の光が水溜まり(?)に反射して、なんとも言えない美しさを醸し出していた。
う、ぉおお。
すげえ。なんだこれ、こんなの見たことねえぞ。
感動するわー。さっきまでの焦燥感もうないわー。
いや、まあ、やばいんだけどね?
けど、ねえ?
これはすごいって。
ふわふわ
不意に、頬に髪の毛があたってくすぐったい。
…?あれ?俺の髪の毛ってそんな長かったっけ?
確かめようと、頬に手を伸ばそうとした。
視界に自分の手が映った。
嫌に白く、細長い指だった。
そう、そうまるで、女性の手のような────
………
何も考えずに、俺は静かに行動を開始した。
スっと両手を上げ、少し観察した後視線をさらに落としていく。
足、ふくらはぎ、ひざ、ふともも。
靴は、紐のない布靴のようなものを履いていたので見えなかった、その代わりにふくらはぎやふとももは随分良く見えた。
見えてしまった。
太っている訳では無いが、健康的で程よく引き締まったふくらはぎ。
手で触れれば、ふっくらとしていてすべすべだろうというのが見ているだけで分かってきそうなふともも。
……………
更に視線を下げていけば、なぜだか何かが邪魔をして見えなくなっていた。
それは顔よりも下にあって、お腹よりも上にあるようだった。
………………
俺は静かに上を見上げた。
生い茂った木々の隙間からさす陽の光が眩しい。
「…ん……………」
アルトと言われれば違和感は感じないが、ソプラノと言っても違和感のない、明らかに男性では出ない高さの声が出た。
………………あーれれーおーかしーなー。
すっごく嫌な予想が頭を過ぎる。
俺死んだわけではないんだぞ…?
どういうことなんだ…?
俺の頭に浮かぶのは夢などといった予想の他に、とある“単語”が浮かんでいた。
そりゃ望んだよ?望んだけどさ…
認めたくない。できることならもう一度目をつぶって眠りたい。
だが、俺の目は嫌に冴えていた。
そう、この少ない情報で現状が理解できてるのは、冷静だからでも頭が良い訳でもない。
俺は「それ」を、望んでいた。
望んでいたからこそ、俺は想像と違う現状に困惑していた。
普通なら喜びに打ち震えるものだが、しかし俺は叫ばずにはいられなかった。
たとえ心の中であっても、俺は宇宙の端っこまで聞こえるようなイメージで叫んだ。
に、女体化転生とかッ!誰得なんだよッ!!
…そう。俺は異世界に「女体化」転生してしまったようだ。
神などいない。いても絶対性格悪いと、俺は心底思った。
━━━━━━━━━━❀━━━━━━━━━━━
さて、と…
へこんでいても仕方が無い。
状況を理解──という名の現実逃避──した所で、これからどうするか考えなきゃな。
ずっとここに座ってるっつーのも楽しくないしな。
異世界転生は冒険あるのみ!
冒険じゃー!
うおぉーー!!
やる気だけはある俺なのである。
そうと決まれば、ひとまずは検証しなきゃな。
まずは、異世界転生あるあるその1!
鑑定スキル!
これがあると、強いモンスターとかアイテムとかを鑑定できるし、食べ物になりそうなものを探せたりする。
少し、いやかなり転生に必須なスキルなのである。
さて、俺も例に漏れずチート転生かな?
それとも何も与えられない貧乏転生かな?
自分を「鑑定」!
《確認しました。鑑定結果を表示します。
名前:無しLevel.1
種族:人魔
加護:-鑑定に失敗しました-
称号:-鑑定に失敗しました-
生命力:120/120(回復促進)
魔力:300/200(+100)(回復促進)
状態:-鑑定に失敗しました-
膂力:15(+5)
腕力:15(±10)
脚力:15(±10)
耐久:30
物理抵抗:30
魔力抵抗:45
精神汚染:0(±1)
-鑑定に失敗しました-》
…お、おぉ〜。
まさかの前者だったとは。
しかもかなり細かく作り込まれてるなあ。
これは把握出来なかったら即死コースだな。
《確認しました。特殊能力「鑑定解析+」「情報処理+」を連動させ、固有能力「解析者+」で管理しますか?
Yes or No》
何を言ってはりますのん…?
ちょ、ちょっと待って。
まだ鑑定内容も詳しく読めてないのに!
種族欄がすっごい嫌な予感がするのに!
しかもこういうのって少しでもチョイスを間違えたら何も出来ずに死ぬっていうフラグ!
くっ、しかも既に立ったフラグは折るか回収するしかない…!
んぐぐぐ〜……!
ええいままよ!
Yes!!
《了解しました。「鑑定解析+」「情報処理+」の連動、成功しました。それを「解析者+」と連結及び管理します。情報の最適効率化を開始します。》
その瞬間、見えていた世界が変わった。
まるで、さっきからずっと水の中に居たかのような感覚。
その水の中からたった今、顔を出した瞬間のような。
空気、そして陽の光を浴びた瞬間の感覚。
先程まで感じていた気持ちすら、今の感覚を言い表すには足りないように感じる。
なんだこれ…どうなってんの…?
俺の視野からは見えないような場所まで、今では「視えている」ように感じる。
いや、本当に、見えてる────?
ど、どういうことだ?
《はい。現在「鑑定解析+」に統合されている様々な鑑定、感知系統スキルを、「情報処理+」により効率的かつ最適な方法で使用できるよう「解析者+」が「解析」し、発動しています。》
フラグとか言ってごめん。
よくわかんないけど、滅茶苦茶デタラメなスキルだった。
だって周りにある木のうろまでわかるんだよ?
俺の後ろにある木の本数もわかるんだよ?
どういうことでしょうかこれは。
さっきの説明じゃ、少し俺の理解が怪しい気がする…
聞き返して、返答してくれるかなあ?
《はい、お答えします。本来脳が処理できるレベルではない情報を、3つのスキルを使って処理できるようにした、ということです。》
おお、返してくれた。
う、うーん。でもやっぱりあんまりわからない。
とんでもなくすごいってのは理解出来た。
《はい。それで結構です。》
また返事してくれた。
というかこんなに返事してくれるもんなの?
もはや会話が成り立ってるんだけど…
《はい。「解析者+」と「情報処理+」を連結させたことにより、効率的に返答することが可能となったためです。本来はこのようなことは出来ませんでしたが、主様が管理を許可して下さったので、できることが増えたのです。》
…なんかこう、無茶苦茶なスキルだな。
まあでもいいか。考えるのやめよう。
俺のスキルだし、便利だし。
それでいいよね。
さて、改めてステータスを見てみるか。
えーと、解析者?俺のステータスを見せてくれ。
《了解しました。鑑定結果を表示します。
名前:無しLevel.1
種族:人魔
加護:-鑑定に失敗しました-
称号:-鑑定に失敗しました-
生命力:120/120(回復促進)
魔力:300/200(+100)(回復促進)
状態:-鑑定に失敗しました-
膂力:15(+5)
腕力:15(±10)
脚力:15(±10)
耐久:30
物理抵抗:30
魔力抵抗:45
精神汚染:0(±1)
-鑑定に失敗しました-》
お〜、よく見ると色んなとこ失敗してるな。
スキルのレベルが低いのかな?
まずレベルがあるかわかんないけど…
さてまずは───
《確認しました。特殊能力「鑑定解析+」「情報処理+」固有能力「解析者+」のレベルが上昇しました。更に情報の開示が可能となりましたので表示します。》
…言ったそばからこれか。
何も、言うまい…
《名前:無し Level.1
種族:人魔
加護:神の御加護
:時空神の加護
:女神の御加護
:女神の祝福
称号:転生者
:世界ヲ渡ル者
:異端
:隣人
:七大罪「傲慢」
:剣士たる所以
:武士
:進化ヲ望ム者
生命力:120/120(回復促進)
魔力:300/200(+100)(回復促進)
状態:普通、傲慢
膂力:15(+5)
腕力:15(±10)
脚力:15(±10)
耐久:30
物理抵抗:30
魔力抵抗:45
精神汚染:0(±1)
-鑑定に失敗しました-》
…えっとー、まず名前はなし、と。
それはまあいい。
だが種族がどうにもおかしい。
《種族:人魔。鑑定に成功しました。情報を開示します。
:人間と人間の子供に時折産まれる特殊な個体。
人族よりも魔族に近いとされ、忌み子として扱われる。身体能力や魔力は高いが、人族の冒険者や処刑によって皆若くして死んでいる。》
ねえ待って。
若くして死んでるってどゆこと。
これ見つかったら即死コースじゃねえか!?
処刑!処刑?!
もはや存在が罪なのか!?
しかも冒険者!冒険者!?
普通転生したら冒険者とかになるのが普通じゃねえのかよ!!
なんで狩られる側なんだよ!!
うわあああああああああああ!
はぁ、はぁ。
はあ〜…まあ仕方ないか。
なっちゃったもんは仕方ない、これから色々どうにか出来るかもしれないし。
ポジティブポジティブ。
あと気になるのは、加護と称号だな。
1個ずつ鑑定してくか。
解析者、頼むよ。
《了解しました。主様。》
《「神の御加護」
:八百万の神々が与える非常に強力な加護。
何か行動する時、自分に有利な結果となる。
また取得経験値が上昇し、能力や技術、ステイタスに成長補正がかかる。
権能
「鑑定解析+」
「情報処理+」》
すっ…ごいなこれ。や、八百万?非常に強力なの?マジで?
随分すごいの貰っちゃったなあ。
取得経験値が増える?だから鑑定とかがレベルあがったのか。
チート確定だなこれ。
さて次だ。
《「時空神の加護」
:時空を司る神より与えられた加護。
空間系魔法に成長補正がかかり、空間属性に耐性を得る。
権能
「地図+」
「空間魔法」》
チート、ほどではないけど、すごそう。
地図?しかもプラス?なんかすごそう。
さあ次だ次!
《「女神の御加護」
:運命すらも変革させる女神の強力な加護。
自分に纏わる全ての行動を、有利に進めることができる。
また、能力に大きく成長補正がかかる。
権能
「確率補正+」
「確率変動+」》
はいチート確定。
「神の御加護」と一緒で、自分が有利になるのが2個目。
でも、これがどう作用するのかわからないからなあ。
なんとも言えないけど、スキルがすごい。
補正と変動。しかもプラス。
これはラッキーボーイルートかな?
いや、今はラッキーガールか…
《「女神の祝福」
:運命すらも変革させる女神の祝福。
全ての行動に英雄補正がかかり、全ての取得経験値が大幅に増大する。
この加護を持つ者は滅多におらず、100年から200年に1度のペースで現れ、善であれ悪であれ歴史に名を残してきた。
権能
「英雄補正+」
「王の器」
「勇者の雛」
「魔王の片鱗」》
チート3個目。
英雄補正プラス、しかも取得経験値めっちゃ増えるやん。
でもなあ…最後の一文がなあ…
善であれ悪であれ、って…
要するに勇者か人に仇なす何かってことだろ…
魔王的な…
まあいいや。考えてもどうにもならないしな。
《「転生者」
:異界から転生してきた者に与えられる称号。
世界を生き抜く為に必要なスキルを与えられる。
権能
「言語習得level.Max」
「環境適応」》
こっから称号だな。
転生者。まあ転生してきたし貰えるよな。
しかし言葉がわかるのはすげえ助かるなあ。
明確に情報として見えるから安心感が違う。
まあ言語が違うみたいだから、これがなかったら終わってたけどね…
《「世界ヲ渡ル者」
:強大な魂を持つ者に与えられる称号。
自分の意志を伝えやすく、通しやすくなる。
権能
「異界魔術」
「生命力回復促進」
「魔力回復促進」》
多分チート、かな?
っつーか強大な魂て。
そんなもの持ち合わせた記憶ないぞ。
まあしかしスキルすごい。
異界魔術?
何それすごそう。使いたい。
使いたいなあ。使えないかなあ。
でもこういうのって、魔力操作?とかがたしか必要だろうしなあ。
まあ漫画とかアニメの知識しかないけれど。
今俺が持ってるスキル知らないからなあ。
権能で得たスキルならわかるし、挑戦してもいいけど、それで厄介なことになってもヤだし。
保留!
うっし、次!
《「異端」
:持っているだけで嫌煙される、誰からも理解されることの無い称号。
孤独に苛まれても、決して折れぬ心を持つ。
権能
「黒魔法」》
いろんな意味で厄介だなこれ!
嫌煙されるのかよ!
しかも理解もされないのかよ!
そのせいで孤独でも折れない心ってわけね!
お心遣いありがとう!でもそれなら嫌煙されないルートもできたんじゃないかな!!
くそう…結局殺される的なやつしかないのかなあ…
まあ、今考えても仕方ないかねえ。
《「隣人」
:身近に住む者たちから愛される者に与えられる称号。
良い意味でも悪い意味でも、よく構われる。
権能
「精霊召喚+」
「精霊魔法」
「聖霊召喚+」
「聖霊魔法」
「使役+」》
これはなんか、素敵なスキルだな。
身近に住む者たち?あ、精霊か。
やったぼっちルート回避!人じゃないけどね!
というか聖霊?なんかすごそう。
さっきからなんかすごそうしか言ってねえ。
まあすごそうだし、しょうがないよね。
すごそうだし。
《「七大罪-傲慢-」
:人の内に巣食う醜悪な化け物を飼い慣らした者、その傲慢たる資格を得た者に与えられる唯一無二の称号。
血を啜り肉を喰らう化け物が生み出した強大な力であり、使いこなせなければ喰われるのは自分自身。
(同じ大罪系統のスキルはひとつしか存在できない。)
権能
「傲慢」
「大罪魔法-傲慢-」》
はいチートどころかもはや意味のわからないスキルktkr。
血を啜り肉を喰らう化け物て。
喰われるのは自分自身て。
……
はぁ…。
あー…もおー…いいや。
考えんのやめやめ。
ここまで来たからにはどうしようもないし、俺のスキルなんだからいいよね。
魔王ルート的なやつはできる限り回避すればどうにかなるだろ。
本音で言えばツッコミ疲れた。
次だ次。
《「剣士たる所以」
:剣を振るう理由を見つけた者に与えられる称号。
遥か昔、勇者と呼ばれた男がいた。
男は魔物を切り伏せ、時には人をも斬った。
誰からも感謝されることなく、男は一輪の白い花の前に腰掛け、そのまま静かに息を引き取ったという。短直剣、直剣、長直剣等、剣を装備すると能力が大幅に向上する。
権能
「剣術」》
お、戦いに有利になるスキルかな?
剣を装備したら強くなるのか。
しかも剣術スキルもゲット。これは中々良い称号だな。
…
ツッコまないぞ。
《「武士」
:刀を操り、信念を貫く者に与えられる称号。
守る存在がいるとき、身体能力が大幅に向上する。
刀等を装備すると能力が大幅に向上する。
権能
「刀術」》
これは見たことあるぞ!
転生前の世界の職業だ!
いいねいいね!これは燃えるね!
刀ってこっちの世界の人は見たことないかな?
あ、でもスキルで刀術ってあるってことは、意外とポピュラーなのかも?
どちらにせよ、嬉しいスキルだな。
《「進化ヲ望ム者」
:留まることなく常に進み、全てを吸収しながら成長する力。
たとえ道は無くとも、その先を目指すことを許された称号。進化先を増やすことができ、大幅に成長補正がかかる。
潰えることの無い希望を燃やす強い心を持つ。また、それは伝染する。
権能
「吸収+」
「千変万化」
「魔力解放」》
これが最後、っつーか最後が一番すごそう。
たとえ道は無くともその先を目指すことを許された…?
道無き道を行く、的な?
進化先も増えるみたいだし、早くスキャンティから脱出するには良さそうだな。
それに、潰えることの無い希望を燃やす強い心を持つ、またそれは伝染する…
どういうことなんだろ?
勇者とかが使う鼓舞系のスキルかな?
周りにいる人に強い心を伝染させるってこと?
んで、俺が強い心を持つ、と。
中々にすごそうなスキルだな。仲間ができたりなんかしたらいいかもしれない。
まあ、人魔な上に異端持ちで身体の中に血を啜り肉を喰らう化け物を飼ってて精霊から好かれる見た目は女中身は男のびっくり転生者ですがね。
…言っててへこみそう。
やめだやめ。
さて、次は────
ゾワゾワッ
唐突に、今まで感じたことのない、なんとも言えない不快感が背筋を襲った。
うっ、なんか背筋がゾワゾワする…
気持ち悪っ、後ろに何か…い、る───?
「ゲッ、ゲヘヘェ」
小学生くらいの身長。
緑色の身体とほとんどないのと一緒の腰布、しかも若干テントをはっているような気もする。
そう、それはよく見たことのある雑魚の代名詞だが、群れれば雑魚といえど油断のならない魔物。
色々な本で読んだ限り、他の雌を攫って子を成すという性質は、この世界でも間違っていないのだろうか。
主に人やエルフなどを攫う、気色の悪い魔物。
そう、小鬼である。
そのゴブリンが今、手に持った小剣を大きく振り上げ、下卑た顔でこっちを見ていた。
ウヒョイアアァァァァァァァ!!
いつの間に後ろにいたのか。
だが、驚きすぎて逆に冷静になる俺。
多分ステータス見てて油断したんだな。
あーどうしよう、今武器も何も持ってないんだよな。
いや、待てよ?
ゴブリン如きなら丸腰でも勝てるんじゃ───
「ギェアッ!」
そして、振り上げていた小剣を俺の足に向かって振り下ろした。
ホアッ?!
咄嗟に座り込んでいた状態から横に転がって避ける。
無理だわ畜生。
丸腰で勝てるわけあるかい。
とゆうか、足を狙ったってことは、やはり攫うつもりなのだろうか。
いやいや冷静に考えてるけどそこじゃない!!
アイム転生者、オーケィ?
ノーバトルアーンドアイムボォーイ、アーハー?
「シェギァッ!」
振り下ろした小剣を、そのまま横薙ぎで振るうゴブリン。
俺は回転した勢いを殺さず、後ろに飛んで避ける。
ヒョォゥッ?!
痛ってぇ!?
よ、避けきれなくて太腿にちょっと掠った!!
痛っったいこれ!
さすがリアル!おっかねぇ!
このまま何もしないと、斬られて抵抗出来ないままゴブリンの巣穴で死ぬまで孕袋。
このまま戦ったら怪我が増えて体力も尽きて結局ジリ貧。
ちっ…くしょうどうしろっつうんだよ…
こんなの負け戦じゃねえか!?
か、解析者!どうにかならないか?!
《はい。現状相手との戦力差はほぼ無し、ですが小鬼は短直剣を持っているため、主様が不利です。》
やっぱそうだよね!いやそうじゃなくてさ!
解決策を!解決策を下さい!
解析者さん、いや!先生!!
《…了解しました。現状「魔力感知」「魔力操作」の取得は確認できています。魔法の発動条件は揃っていますので、魔法を使えばよろしいかと。》
ありがとごじゃやっす!!!
でも、魔法ってどう使えば…
あ!そうだ!よく読んだ本に載ってた!!
ゴブリンの攻撃をギリギリのラインで避けながら、頭の中で考える。
魔法とは「意志」。
火なら「燃やす」、風なら「吹き飛ばす」。
その意志を強く持てば魔法は発動できるし、強くなる。はず。
魔力感知のおかげか、意識すると自分の中の魔力を感じる。
今ならなんでも出来そうな気がしてくる。
いよーっし!それがわかればもういいぜ!
待たせたなゴブ!
今からお前をぶっ飛ばしてやるぜ!
ゴブとの距離を離すと、ゴブも深追いせずにその場で様子を見る。
頭の中で火の魔法を作ろうとしたが、周りが植物まみれなのを思い出した。
火はダメだ。それなら水か、風か…
水ならいいか。
よし!整いました!
頭の中で、水が細く鋭く飛んでいくイメージを思い描く。
自分の中にある魔力を容器のイメージで、水を想像通りに形作る。
そして、注いだ魔力を「燃料」として、ゴブに向かってロケットのイメージで飛翔させる。
行け!「水魔矢」!
ビシュウゥゥゥウッ!!
すごい速さでゴブに向かって飛んでいく水の矢。
そのまま胴体を撃ち抜いて、後ろの木に当たって矢が消える。
「ギア"ァ"ア"ッ!!」
ゴブリンは剣を手放してそのまま倒れ、血を撒き散らしながらじたばたともがいている。
うわあ…すごい光景…
さっさと終わらせてあげないと、さすがに可哀想だな…
さっきの要領で、今度は別の魔法を想像する。
薄く飛んで、そのまま首を刎ねるイメージ。
同じように魔力を注ぎ、そのまま形にする。
今終わらせてやるよ。
「疾風魔刃」!
薄く引き伸ばされた刃のような風が、狙い通りゴブの首を刎ねる。
苦しみなく逝けたかねえ、ゴブさん。
《確認しました。経験値を獲得、レベルが上昇しました。生命力、魔力、その他ステイタスが上昇しました。スキルポイントを10獲得しました。》
《確認しました。「水魔法」「風魔法」を獲得しました。》
お、レベルが上がった。
やはり魔物とかを倒すとレベルが上がるのか。
んで、スキルとかは使い込むとレベルが上がる、と。
いいねいいね。やり込み要素ってやつだね〜。
というか、土壇場でよく魔法使えたな。
さすが聖典、なんでもありだな。
ありがたや〜。
さて、ステータスを確認してみようか。
解析者。
《はい。ステータスを表示します。》
《名前:無しLevel.3/10
種族:人魔
加護:神の御加護(能力、技術、ステイタス成長補正、取得経験値上昇)
:時空神の加護(空間魔法成長補正、空間属性耐性)
:女神の御加護(能力成長補正大)
:女神の祝福(取得経験値増大)
称号:転生者
:世界ヲ渡ル者
:異端
:隣人
:七大罪「傲慢」
:剣士たる所以
:武士
:進化ヲ望ム者(成長補正大)
生命力:112/160(回復促進)Up!
魔力:278/300(+200)(回復促進)Up!
状態:普通、傲慢
膂力:35(+5)Up!
腕力:35(±10)Up!
脚力:35(±10)Up!
耐久:45Up!
物理抵抗:45Up!
魔力抵抗:60Up!
精神汚染:0(±1)
-鑑定に失敗しました-》
おお!いっぱい上がってる!
しかも見える項目が増えてる!
レベルアップでスキルも上がったのかも。
に、しても。
俺は立ち上がって、落ちてる小剣を手に取る。
ブンッ、ブンブンッ
適当に剣を振り回して感覚を掴む。
うん、なんか、手に馴染むな。すごく。
前々から結構剣?とゆうか刀だけど、そういうのはよく触ってたし。
まあ、「剣術」のおかげかな?
少し振り回してから、ゴブの死体に近づく。
剣を持ってるなら、多分持ってるはずなんだよな。
ガサゴソ
お、あったあった。
腰の後ろのあたりに皮のベルトで付いているそれは、小剣の鞘。
正直ゴブに触るのも嫌なんだが、まあ腰布越しだから。
ダイジョウブ…ダイジョウブ…と自分に暗示をかけながら鞘に手を伸ばす。
ゴブの身体をひっくり返して、皮のベルトの金具をいじって取り外し、自分の腰に付ける。
そのまま鞘に小剣を戻す。
ん〜、程よい重さが心地良い。
あ、そういえばあいつ、剣直接握ってたな…
…
俺の視線の先には綺麗な湖らしき何か。
…いいよね、洗うだけなら。
俺は湖に近付いて、鞘から剣を抜いて水につけた。
そのまま水の中で柄や刃を洗う。
ついでに手も洗っておくのも忘れない。
おし、これでだいぶ綺麗になったろう。
水から出して、少し振り回して水気を取って鞘に戻す。
これでよし、っと。
ついでに、湖に映る自分の姿を見る。
そこには黒髪に真っ白い肌、そして宝石みたいな紅い眼がこちらを見ていた。
…やっぱり女みたいだな。しかもすっげー美人。
はあ…
まあいい、わかっていたことだ。
ポジティブシンキン!
よし!乗り越えた!
これでようやく始まる俺の異世界ライフ!
まずは何をしよっかなー♪
街に行って冒険者とかいいかもしれない。あ無理か。
まあでも、転生ってだけで夢が広がるなあ。
……ギィ……ァ……
楽しげな想像に心を馳せている中、俺は僅かな音を聞き取った。
少し遠くで、ゴブと思しき声と別の何かが争っているような音が聞こえる。
お…?
そ、そういう感じ?
倒しに行った方がいい感じ?
ま、マジで?
…
……ォ……ギャ……
…
だあクソ!行けばいいんだろう!
ゴブがいるんだったら、剣はできれば使いたくない。
せっかく綺麗にしたのに、ゴブ血で汚れるのは嫌なんだよね。
なので、
「…っ……」
俺は音のする方へ走りながら魔法を頭の中で構築する。
水魔法と風魔法、「水魔矢」と「疾風魔刃」をいつでも発動できるようにしておく。
ほんとは1個ずつの方が効率がいいんだけど、むっかつくから強引に構築する。
全く、転生して早々にゴブ祭りかよ!
先が思いやられるな…
━━━━━━━━━━❀━━━━━━━━━━━
音の元凶を目の前にして、ようやく何が起こってるのか把握出来た。
そこにいるのは、さっきのゴブと同じようなやつが三匹。
そしてもう一匹、明らかにゴブじゃない生き物。
それは、ザ異世界生物。
伝承にしか存在しないはずの生き物。
そう。竜である。
うひょー!ドラゴンだ!
1メートルないくらいの小さいやつだけど、それでもカッコイイやつが、ゴブと戦っていた。
おのれゴブめ!今助けるぞドラゴンよ!
俺は構築してあった魔法を一気に放つ。
そんなつもりはなかったのだが、ウォーターアローは3本に増え、ウインドカッターは3〜5メートルくらいの大きさになっていた。
レベルが上がったからかな?
それが一斉に3匹のゴブに襲いかかる。
1匹目は頭を撃ち抜かれて即死。
2匹目はお腹と肩を撃ち抜かた後、苦しむ間もなくウインドカッターで頭を落とされ即死。
3匹目は上半身と下半身を分断され即死。
やったね!サクッと殲滅だぜ!
《確認しました。経験値を獲得、レベルが上昇しました。生命力、魔力、その他ステイタスが上昇しました。スキルポイントを15獲得しました。》
やったね!レベルも上がった!
けど、今はそれよりも!
俺に向かって威嚇しているそこのかっちょいーアイツをどうにかしなきゃな。
「クルウゥゥウッ!」
まだ幼く、高い声だった。
子供なのかな?
マジマジと眺める俺。
そこで違和感に気付いたのは偶然だった。
白くて綺麗な鱗だからか、右後ろ足と脇腹の鱗が少し剥がれて血が出ているのが見えた。
「怪我、してるのか?」
咄嗟に声を出していた。
なるほどいい声だね。耳に残る綺麗な高音だ。
おっと、それよりも怪我だ。
直して、あげられるかな?
「癒す」という意志を、強く思い描く。
そうすると、頭の中に術式が思い浮かぶ。
慣れた感じで、思い浮かんだ通りに魔力を練り上げて、空から優しく指している「光」をイメージする。
それを魔力により具現化させ、子ドラゴンに向けて放つ。
まるで光のカーテンのようなものが子ドラゴンを覆う。
すると、血が止まり新しい鱗僅かに生えてきた。
すげえ回復力だな、さすが魔法。
《聖霊魔法「癒しの薄布」です。効果は生命力回復、継続回復です。》
素晴らしい。こんなことが俺に出来るとは。
魔法って便利だな。
っと、そうじゃない。怪我は直したけど、様子はどうだろう?
子ドラゴンさんに意識を向けると、怪我が治ったことに驚いている様子だった。
うんうん。治ったのなら何よりだよ。
俺は屈んで、子ドラゴンさんに手を差し出した。
犬においでおいでをするような感じである。
子ドラゴンさんは、少し悩んだような様子をしたのち、ゆっくりと俺に近づいてきた。
そのまま俺の手に顔を近づけてきたので、顎の下あたりを優しく撫でてやる。
最初はビクッとなっていたが、ゆっくり動いたのがよかったらしい。さほどの抵抗もなく撫でることができた。
うりうりー、ここはどうかねー?
試すように撫でていると、少しずつ警戒を解いてくれているようだった。
少しすると、甘えたようにグルグルと喉を鳴らし始めた。
んー。愛いやつめ。
すると、子ドラゴンさんと目が合った。
そのまま逸らすことなく、ジーッとこっちを見てくる子ドラゴンさん。
な、なんだろう?
食べ物なら持ってないぞ?
《確認しました。種族名:仔竜と使い魔契約しますか?
Yes or No》
お、おう。
僕と契約して魔〇少女になってよ的な?
そ、そんな軽く?
普通戦って殺さずに屈服させてから、「ほう、私を倒すとは…いいだろう、契約してやる。」的なやつなんじゃないのか?
撫でただけだぞ…?
目が合っただけだぞ…?!
ほんとにあの某白い悪魔的ノリで契約しちゃっていいのか…?!
…
まあ、できるならしといて損はないよね。
い、Yes!
《確認しました。種族名:仔竜と契約しました。名付けをしてください。》
まあ、そうだよね。
普通ならここで悩むだろうが…
フッ、そう思ってもう考えていたのさ!
このちっちゃい竜は、白い鱗が印象に残っていた。
それを元に、名前を思い付いた。
こいつの名前は、「真白」だ!
《確認しました。種族名:仔竜に名付け完了。これにて契約を完了します。》
子ドラゴンに名前をつけた瞬間、俺と子ドラゴンの間に、何か言葉で言い表せないような繋がりを感じた。
やはり契約というだけあって、何かあるのかな?
まあいっか。
いやー、にしても使い魔契約とかさ、やっぱり名前つけたりするじゃん?
そう思ってもう考えてたんだよね〜。
まあ前に飼ってた猫の名前なんだけどね。
「よろしく、真白」
「クルルッ」
名前を呼んで顎の下を撫でてやると、嬉しそうに紅い目を細める子ドラゴン改め真白。
こいつ綺麗な目してんな〜。俺の眼に似て宝石みたい。
「クルルゥ?」
どうしたの?というように首をかしげてこっちをみる真白。
んん〜。全く愛いやつよのう。
さて、色々落ち着いたし森を出たりとかしようかな。
まず今どこなのかわかんないんだよなー。
さあそんなときはどうする?
真白君!わかるかね?
「クルゥ?」
そうだね。さっき手に入れたスキルの中に答えがあったね。
その名も「地図+」!!
便利そうな名前だね〜。
早速発動!
《確認しました。周辺地域の読み込みを開始。…完了しました。表示します。》
脳内に立体が浮かび上がる。
その中に周りの木やさっきの湖も写っている。
ミニチュアみたいで可愛いな。
さて、周辺状況はっと。
右に10メートルくらいで森を抜けられる。
意外と外近いな。
じゃぁ行くか。な?真白。
「クルゥッ♪」
お!通じた。
こういうのは嬉しいな。
俺は真白とゆっくり進む。
焦ることもない、のんびり進めばいつかは外に出るさ。
俺はゆっくりと歩を進め、突き刺さるような光を感じ始めた。
早っ!
まあいいや!ようやくお外だ!
うわーい!お外だお外♪
少し浮ついて、俺は思わず小走りしてしまう。
急がなくてもいいと思っていても、楽しくて走り出してしまった。
それに真白もてけてけ走って付いてくる。
可愛いな〜。
そして俺達は、森を抜ける。
弱肉強食の新たな世界へ。
期待に胸を馳せながら─────
━━━━━━━━━━❀━━━━━━━━━━━
森を抜け、待っていたのは正しく異世界。
景色もクソもないビル群も、不自然に点々と生える草木も、何も無い。
広大な草原と、森と呼べるほどに群生した樹木林。
おー。絶景かな絶景かな。
そして、遠くに見えるのは壁に囲まれた城と街。
そう、城である。
う、おおおおおお!!
城!城だあ!
これぞ異世界!!
行きてえ!俺はあそこに行きてえぞ!
よしそうと決まればすぐに行動だ!!
行くぞ真白!!
「クルッ♪」
俺たちは焦る必要もないのに、走り出したのだった。
異っ世界♪異っ世界♪たっのしいな♪
楽しいな真白!
「ククルゥ♪」
真白も楽しそうだ。
よしよし!いい雰囲気だな!
このまま楽しく行こう!
…ギャリ……ィイィィ…ン……
ん?この音、戦闘音かな?
初めて人との交流かな?いいねいいね!
俺は足を止めて、音に耳をすませる。
…ァア………ゥ………
…この、聞き覚えのある、嫌悪感を嫌悪感で逆撫でするような声は…まさか……
大変嫌な予感がするぞおい…?
行きたくはないけれど、行くしかないよな。
人がいるんだったら助けないとだし…しゃーなし。
音のする方へ小走りで向かうと、なるほど状況が理解できた。
まあ、予想通りゴブさんがいますわな。
こっちも予想通り、ゴブさんと戦う存在が。
そう、そこにいたのは人だった。
近くには馬車がある。商人なのかな?
にしても、人!
ようやく人と会えた!
これは利害とか関係なく助けなければ!
「行くよ真白。」
「クルゥッ!」
うむ!いい返事だ。
勢いそのままに俺は剣を抜き、真白と走り出した。
シャキィイン!
んん〜、いい音。
スタタタタタタタタッ
ザッザッザッザッザッ
こっちに来てから2回目の猛ダッシュの音が、随分心地良く感じる。
けど、そんな場合ではなく、まだ争ってる場所までは100メートルくらいある。
こんなんじゃあ到着より先にあの人がやられちまう。
俺は姿勢を低くし、さらに加速する。
真白も負けじと、走る勢いを消さず低空飛行へ移行する。
「クルゥッ!」
真白やるなあ!
俺も負けてられないな。
俺は更に走る速度を早める。
傍から見れば、走る黒髪少女と小さいドラゴンという、なんともシュールな光景だった。
そのまま、およそ数秒で馬車は目と鼻の先となった。
この時俺は気づいてないが、走る速度は時速60キロに迫っていた。そりゃほんの数秒で100メートルなんて走り抜けてしまうはずである。
よしきた!ここまで来れば魔法が当たる!
ぶっ飛ばしてやるぜ!!
「くそっ!あっちいけ!」
商人っぽい人は槍でゴブたちを近づかせまいと、がむしゃらに振り回していた。
その肩には僅かに出血が見える。
怪我してるのか?
まずはゴブを倒してから回復してやるからな!
待ってろよ!
商人っぽい人の周りには4体のゴブがいた。
ん?なんか1体、他のやつよりゴツくて強そうなヤツがいるな。
まあいいや、倒すことに変わりはないからな。
走る勢いを殺さずに、軽くジャンプする。
少し身体を浮かせるつもりだったのだが、なんと1メートル以上も飛んでしまった。
うお!やっぱり異世界のステータスだとこんなになるのか。
気をつけないとな。
跳躍の勢いと走る勢いを殺さずに、空中で身体をくねらせながら剣を振る。
勢い余って新体操選手のようにグルグル回りながら斬ったら、いつの間にか3体も斬ってしまったようだ。嬉しい誤算である。
「ギャァッ!」
「ギュルゥッ!!」
「ィアァァッ!」
1体目は首を刎ねるまではいかないが、深く斬り込めたのかすごい血が出ていた。
あれならほっといても、すぐに倒れるだろう。
2体目は脇腹から肩にかけてを、逆袈裟のような形で斬り裂き恐らく即死。
3体目は脳天直撃。これは問題なく即死。
ズザアァァァァァッ
3体目を倒したところで着地。
止まりきれなくて少し地面削ったけど、こけなかったからよし!
「なっ、君は…っ!」
驚いた顔でこっちを見てる。
まあこんな可愛い女の子がすごい勢いで倒したらびっくりするわな。
まあいいとして、とりあえずは残りのゴブを倒さないと───
「ゴルゥアァァァッ!!」
ん?やっぱり他のゴブとは違うな。
俺はそいつを少し観察する。
身体がちょっとでかいし、声も低い。
角も僅かに長い、こいつなんだ?ゴブじゃないのか?
《いいえ。その魔物は個体名:小悪鬼です。本来のゴブリンよりもステイタスが高く、知能も僅かに上昇しています。その分厄介で、冒険者が数名で徒党を組んで倒すのがセオリーとされています。》
マジか。そんなやつがポップしてんのかよ。大分厄介だな…
けど、倒さないとどうにもならないしな。
ドクンッ、ドクンッ
それよりも気になるのは、この鼓動だ。
何故俺の心臓は、こんなにも強く脈打っているのか。
恐怖?緊張?
いや、どちらも違うね。
これは武者震いだ。
強敵と戦うことへの期待。
転生前なら経験することがなかったであろう、命のやり取りという意味での、実戦。
おし、やってやるぜ。
「来いよゴブリン。相手してやる。」
俺は高ぶる鼓動に答えるように、ホブゴブリンに向けてニヤリと笑った。
━━━━━━━━━━❀━━━━━━━━━━━
僕はツイてない。
商人になってからも良いことが、あったことがなかった。
荷物が盗まれたり、荷馬車が壊れたり。
それでも命が危なくなるようなことは、一度だってなかった。
それなのに…
「くそっ!あっちいけ!」
荷馬車がホブゴブリンの率いる群れに襲われるなんて、運が無さすぎる。
「ほんとに、ツイてない…!」
ようやく商売も軌道に乗ってきたってのに…!
こんなとこで死ぬ訳にはいかない。
槍をがむしゃらに振り回す。
先程斬りつけられた肩が痛むが、それどころじゃない。
このままやられる訳にはいかない。たとえ荷物が壊れても…何があっても、絶対生き残ってやる!!
「ゴァ?」
ホブゴブリンが何かに気づいたように、その場から後ろに下がる。
下がった?まさか、別の魔物が───!
そして彼女は、「飛んで」来た。
なんの遜色もなく、そのままの意味で。
見たところ、跳躍の勢いを殺さないようにして飛んできたらしい。
それでも驚いたことに変わりはない。
だがそれ以上に、その後の方が衝撃を受けた。
飛んだまま魔物を「斬った」のだ。
本来人が魔物と戦うとき、曲芸は実戦に使えないため真正面から斬り伏せるしかない。
だからこそ、魔物と戦うことは命懸けなのである。
だが、目の前で起こっていることは、魔物との戦闘方法を根本的に覆すものだった。
一度の攻撃で、しかも相手に守る隙を与えない。
その上、1体どころではなく、後ろに下がったホブゴブリンを除けば3体全てのゴブリンを斬り倒したのだ。
有り得ない。その一言に尽きる一撃だった。
正しくは三撃だが、もはや一撃と変わらないものだった。
3体目を斬り伏せたところで着地し、推進力を地面に着地することでかき消した。
「なっ、君は…っ!」
咄嗟に言葉が出なかったのだが、彼女は気にした様子はなく、周囲へ警戒をしているようだった。
助けてもらった礼を言おうとしたが…
「ゴルゥアァァァッ!!」
そうもいかないらしい。
ホブゴブリンが残っていたことを忘れていた。
彼女はそのことを知っているのだろうか。
(教えてやらなきゃ…!)
そして、彼女の方を見たとき、僕は驚愕した。
彼女は、見蕩れてしまうような笑顔を浮かべていた。
(わ、笑っている、だと…!?)
「来いよゴブリン。相手してやる。」
そう言うと、彼女はホブゴブリンへ向けて攻撃を開始した。
僕はそれを、見ていることしかできなかった。
恐怖に震える僕を、誰が責めることができようか。
いや、誰にもできまいよ。
━━━━━━━━━━❀━━━━━━━━━━━
まずは小手調べだ!
頭の中で魔法を構築しつつ、近接戦を挑む。
「ゴアァァッッ!!」
かかってこいやホブゴブリン!!
ブンッ、ギャリィィィィ!
ナタのような幅広の剣が、斜め上からの鋭く強い一撃を繰り出す。
くっ、重い剣だ。
そりゃ徒党を組んで戦うわけだ。
一撃が重く、知能を有しているからこその、鋭い一撃。
だが、甘い!
ザシュゥッ!
「グウゥ!」
強いだけの剣で、俺の剣に勝てると思うなよ!
斜め上からの重い一撃を受け流し、そのまま脇腹を斬り裂く。
その勢いを殺さずにもう一度攻撃を避け、剣を持ってる腕を斬り裂く。
ホブリン如きでは俺の相手にならないのだよ!
数歩下がって俺の様子を見るホブゴブリン。
さすが知性のある魔物、馬鹿ではないようだ。
「グウゥゥ…!」
隙をみて攻撃を仕掛けるつもりらしく、こちらの様子を伺っている。
だが、やはり甘い!
既に構築は完了している!
「飛べ。『水魔矢』、『疾風魔刃』。」
俺の掛け声と共に、水矢と風刃がホブリンに襲いかかる。
魔法を撃ってくると思わなかったのか、全ての魔法を防ぎもせずに受ける。
痛っ…たいぞあれは…
「グブウグゴァァアッッ!!」
右肩と腹に2本、足に3本鋭い矢が突き刺さる。
そして、肩から足にかけてを風の刃が大きく斬り裂く。
たった2つの魔法で、瀕死といえるダメージを与えた。
やっぱ魔法すげえ。
極めたらなんでも倒せそうだ。
ドシャッ、バチャン
ホブゴブが膝から崩れ落ち、そのまま倒れる。
その下には、紅い水溜まりができていた。
「グウ…ギ……ィ……」
どうやら力尽きたようだ。
あの失血じゃあ、そりゃ助からないよな。
強かったようだが、俺の相手ではなかったな。
ふっふっふ。
《確認しました。経験値を獲得、レベルが上昇しました。生命力、魔力、その他ステイタスが上昇しました。スキルポイントを10獲得しました。》
お、レベル上がった。
やっぱりホブゴブリンだと経験値が良いんだな。
ウマウマである。
いや、しかし…
「ふぅ…」
ちょいと疲れたな。
真正面から戦ったのは初めてだけど、やっぱり少しは怖いな。
それに、俺の手で直接殺したってことを考えてしまうな。
さっきまでのゴブリンとは違う。
ナイーブな気持ちになるのも仕方ないのかな。
けど、倒さないと俺やそこの人が死んでしまうところだった。
正当防衛なんて言うつもりはないけど、言い訳くらいはしても許してくれるよね?
答えのない問いに、答える声はなかった。
「君!大丈夫かい?!」
その代わりに、別の返答があった。
おっと、感傷に浸る前に肩の怪我を治してやらないと。
うーん、そこまで深い傷ではなさそうだな。
「『少量回復』。」
下位の聖霊魔法、少量回復。
それほど大きくない怪我なら治すことができる魔法である。便利。
魔法自体、かなり使い込んでいるためか使いたい魔法をなんとなく思い浮かべるだけで、術式が構築できるようになった。
早い成長である。
「なっ、これは…回復魔法?君は水や風だけじゃなく、光魔法も使えるのかい?!いやでも呪文が、いやしかし、すごいな…」
驚いてらっしゃる。
ま、まあそんな大した事はねえよ。
でも光魔法じゃないけどな。
「…大丈夫?他に怪我は?」
や、やっぱ戦闘と違って、人と話す時は緊張すんな。
「え?あ、あぁ。大丈夫だよ、ありがとう。」
おお!返事してくれた!
やはりコミュニケーションはいいなあ。
「君は、その、そんな格好をしているけど、冒険者なのかい?それとも…奴隷なのかい?」
え?奴隷?
言われて自分の服装を見る。
ボロ布のような材質の服。
太ももの半分を隠してはいるが、それでも丈が短いと言わざるを得ないワンピース。
申し訳程度としか言えない靴。
…んーこれは、奴隷と間違われても仕方ないな。
でも冒険者って訳でもないし…
「……えっと………」
なんて答えたらいいかなあ。
「い、言いたくないならいいんだ!深くは聞かないよ!大丈夫!色々あるものね。」
無言を何か、都合のいい解釈で取ってくれたようだ。
う、うん。そうしとこうか。
「それはそうと、あの小さな竜は君の使い魔なのかい?」
少し苦い顔をしながら、俺の後ろを指でさした。
真白のことか?
あ、そういえば真白、は…?
振り向いて確認すると、真白は俺たちに見えづらい角度でゴブたちを食っていた。
先程倒したホブリンの腕を咥えながら、こっちをみて首をかしげた。
おぉ、う…そりゃ、苦い顔するわな…
お前、ゴブ食うのか…?
いや、止めはしないけどさ…
腹、下すなよ…?
「…うん。お、私の使い魔。真白。」
危ねぇ俺って言うとこだった。
「マシロ?そっか。不思議な名前だね。」
不思議?やっぱりこっちの言葉だと珍しいんだな。
「ん、そうかな。」
「あまり聞かない名前だね。」
「そう。」
「そうだ、君はこれからどこに行くか決めてるのかい?」
ど、どこに?
あーそういえば、俺城のある街に行こうっつって移動してたんだけど、正直人に会えたのが嬉しくてどうでもよくなっちゃったんだよなあ。
…具体的には決めてないってことでいいかな。
そうしとこう。
「…決まってない。」
「あぁ、なら僕と一緒に来るかい?これから城塞都市イリアに向かうのだけれど、君の腕なら護衛として雇うし、報酬は出せる範囲で弾むよ。」
城塞都市!それは俺が行こうとしてたとこかな?
んー何たる偶然!素晴らしい。
ご都合主義もいいところだが、正しく俺の都合がいいので文句はない。
むしろ大歓迎だ。
「ん……じゃあ、そうする。」
「あぁよかった!断られたらこの先、襲われたときどうしようかと思ったよ!君がいてくれるなら安心だ。ありがとう!」
そんなにか。
まあやっぱり、異世界だといきなり襲われて、戦う手段がなかったらその場でジ・エンドみたいなこともありそうだしな。
そりゃ目の前に魔物倒せる人いたら頼るわな。
「ん、…こちらこそ。」
それに、頼られて悪い気もしない。
さて、レベルも上がったことだし、ステータス見てみっか。
それ以外にも色々できること確認したいし。
横で話してる商人っぽい人…あ。
名前聞き忘れてた。
「…名前は?」
なんかこっちに来てから俺無愛想になった気がするなあ。
「あ!ごめんごめん!名乗ってなかったね。僕の名前はクリス。クリス・レイーシュ。君は?」
はっ!しまった!
そりゃ名前聞かれれば聞き返されるよね!
やべえな…俺名前分かんないんだよな。
どう答えよう…
「…覚えてない。」
よしこれでいいだろう。
記憶喪失、これが一番無難で追求を避けるのに適している!
素晴らしい。
「そうか…いや、仕方ないね。奴隷落ちした人はみんな、名前を剥奪されて思い出せなくなるから。しょうがないよ。」
違う。そうじゃない。
うあぁ、どうしよう、奴隷だと思われてる。
まあでも、別段俺に不都合ないからいいか。
...いいか...?
とりあえずは、無難に話合わせないとな。
「じゃあ馬車に乗ってよ。一応僕も商人の端くれ、助けてもらったお礼に身なりくらいは僕がどうにかしてあげる。」
この人めっちゃいい人やん。
あざっす!!
ではお言葉に甘えまして…
馬車に向かって歩き出す俺とクリスさん。
「真白、行くよ。」
ちゃんと真白を呼ぶことも忘れない。
「クルゥッ♪」
ゴブを食ってお腹いっぱいになって機嫌がいいのか、スキップのような何かをしながら走ってきた。
ドラゴンってスキップできたんだ。新事実。
馬車の後ろ、入口に暖簾のようなものがかかっていた。
それを手で左右に避けながら中に入る。
中はゴチャゴチャしてるかと思っていたが、予想外に綺麗だった。
左奥に大きな木箱がいくつか置いてあって、その上と周りに麻袋のようなものが、これまたいくつか。
それ以外に荷物はなく、唯一あるのが右奥にある白い毛布のようなもの───がいきなり動き出してこっちに飛んできた。
「っ…い、犬?」
毛布だと思っていたのは、ゴールデンレトリバーのような長毛大型の犬だった。
だが毛色はゴールデンではなく、ホワイト。
ホワイトレトリバー?
「あぁごめん!そいつはネロ。友人から貰った犬なんだ。犬は嫌い…ではなさそうだね。」
俺の肩に手を置かれて、顔とか首をべろべろと舐められながら話を聞く俺を見て、犬嫌いではないと判断したようだ。
「…ん……」
まあ嫌いではないよ?どっちかっつーと長毛大型の犬はむしろ好きな方だし。
けどいきなり飛びつかれたから、びっくりして反応しづらい…
俺は犬を剥がし、今度こそ馬車に乗り込む。
そのまま適当な場所で壁にもたれかかりながら、座り込んだ。
あー疲れたー。
物語だったら、ようやく一区切りかな?
まあ俺には一区切りも何もないけどな。
「乗り込んだね?じゃあ出発するよ。」
俺は頷いて、ふと真白がいないことに気づいて外を覗いた。
そこには、ネロの背中にガッシリ密着して楽しそうにしている真白の姿があった。
大型犬だから大丈夫そうだけど、ネロも楽しそうにそのまま走り回っていた。
うん、楽しいのならいいんだ、それで…
仲悪いよりかは、じゃれついてるくらいがちょうどいいね。
俺も一安心したところで、馬車は走り出した。
「さて、と。それじゃぁ、さっきの約束もあるし君の服を見繕うとしようか。」
クリスは手網を離して後ろに移ってきた。
え?手網離して大丈夫なのか?
「あ、街道に乗ったから大丈夫だよ。あとは馬が街道通りに歩いてくれるから。」
俺の心配を感じたのか、クリスは慌てたように答えた。
そうか?ならいいんだが。
それよりも、服だ。
「君は戦闘もするし、あまりひらひらしたのは合わないよねぇ…でも女性らしさも無くしては品がなくなってしまう…ブツブツ……」
クリスは何か、ブツブツ言いながら木箱を漁っていた。
ちょっと怖い。
ガサゴソガサゴソファサ
「これなんてどうだろう?」
お?決まったのか?
クリスが手に持っていたのは、異世界チックな服だった。
上は長袖の黒いYシャツのようなもの。
俺が知ってるYシャツよりも、折り目というか色々違って面白い。
下は黒いズボン。股から膝にかけてが少し膨らんだ、元いた世界でいえばサルエルパンツ、だったかな?オシャンティーで通気性も抜群な素敵仕様のズボンだった。
どっちも、素敵…!
「あと靴なんだけど、これしかないんだ。履けるかい?」
服を俺に手渡して、木箱から出したのは少し丈の短いブーツ。
足首には金属っぽいのがついていた。
いいねいいね!超かっけえ!
「ありがとう、頂くよ。」
早速着替えだ〜♪
バサッ
「うん!喜んでもらえて何より?!」
うん?どうしたいきなり?
「あ、あの!僕後ろ向くから!ちょっと待って!」
あ、あー。
やっちゃった。
今自分が女なの忘れてた…
まあクリスはすごい勢いで後ろ向いたし、今後気をつけるってことで。
ってか普通に脱いじまったけど、その、色々と大丈夫なのか?
と、心配していた訳だが、服は粗悪なのに対して下着はパッと見、結構上質っぽかった。
黒地に赤っぽい線が数本入っててかっこよかった。
あんまりマジマジと見れないからざっくりとした感想しか出ないけどね…
それにしても、ちゃんと下着は着ててよかったよ…
そうじゃなかったら着替えに苦労していたどころか、着替えられなかったかもしれない…
腰の剣を取り外し、ワンピースを脱いで足元に放る。ついでに靴も脱いじゃう。
黒いシャツに腕を通して、ボタンを閉じる。
着心地めっちゃ良い。
これはいいものだ〜♪
ズボンも、着てみるとやっぱり見た目通りの感想だ。
通気性バッチリ。しかも動きやすい。
靴のサイズも奇跡的にピッタリで最高。
しかも靴の中に、少し丈の長い靴下まで入ってたのは嬉しかった。
それに加えて靴の横に、髪紐のようなものまで置いてあった。
全く、気が利きすぎだぜクリスちゃん!
その髪紐を使って、そこそこ長さのある髪を纏め、ポニーテールのような形にする。
…慣れてなくてちょっと時間がかかったのは内緒である。
そして最後に、腰に剣を付け直したら、お着替え終了!
そろそろクリスちゃんに声掛けてやるか。
「…終わった。」
「そ、そうかい?じゃあそっち向くよ?」
「どうぞ。」
クリスちゃん、お前耳まで真っ赤だぞ。
照れ屋だなあ。
こっちに向き直ったクリスは、俺をみて目を見開いて3秒ほどフリーズし、そのあと照れたように笑いながら、
「す、すごく似合っているよ。」
と言った。
ま、まあな?そんなこともねえよ?
褒められて調子に乗る俺なのである。
まあそれはいいとして、ほんとにこの服着心地が良い。
身体によくフィットして、かつ動きやすさもある。
見た目のカッコ良さも勿論、女性らしさもちゃんとある気がする。
いいものを貰ったな、感謝しなければ。
「ありがとう。」
「いやいや!助けてもらったんだから、ほんとはこんなんじゃ足りないくらいさ!あ、そうだ!ついでに鎧とか剣なんかもいるかい?あんまり種類はないけど、ちょうど仕入れてきた所なんだ。是非使っておくれよ!」
この人ほんっとにいい人だな。
だが、ちょっと心配になるな。
ちょっと1回助けてもらっただけでここまでのことをするってのは、日本では考えられないことだからな。
やっぱり違和感がある。
「…さすがに、申し訳ない。」
「いやいや、今は僕と護衛契約中だろ?君が強くなってくれれば僕の安全も保証される。だから、ね?貰っておくれよ。」
なるほど、利害計算を出すことで受け取りやすくしたって訳か。
この人、ただの善人ってだけじゃないな。
…まあクリスが言うのも頷ける。
貰えるものは貰っておこうかな。
「…では、遠慮なく。」
「そう言ってくれると嬉しいよ。」
ニンマリして、木箱からガチャガチャと装備類を出していくクリス。
んー、どれもこれも素敵だなあ。
性能とか見れればいいんだけど…
は!俺には便利なスキルがあるじゃないか!
先生!頼めるか?
《...はい。勿論です。》
うおー!頼りになるなあ。
じゃあまず、俺の着てる服を鑑定してみよう。
解析者。
《了解しました。鑑定結果を表示します。
「魔蝶繭糸のシャツ」 rank.C+
:魔蝶の繭を使用し縫われたシャツ。
生命力と魔力の継続回復を付与している。
少しの破損ならば再生する。
「魔蜘蛛糸のズボン」 rank.D+
:魔蜘蛛の分泌する糸を使用して作られたズボン。
跳躍や疾走にプラス補正がかかる。
少しの破損ならば再生する。
「麻布のブーツ」 rank.D
:広く普及しているごく一般的なブーツ。
履き心地も良く、足首を鍛錬鋼によって守る。
その中でも質の良い物。
少しの破損ならば再生する。
「鍛錬鋼の短直剣」 rank.E+
・耐久値:112/120
:鍛錬された鉄鋼で作られた短直剣。斬れ味と耐久性に優れている性質を持つ。
「二角牛鞣革の腰帯」 rank.C
:ツインホーンブルの革を用いて作られた腰帯。
大抵のものは吊るすことが出来る。
少しの破損ならば再生する。》
ゴブ結構いいもん持ってたんだな。
いや、どっかの冒険者から奪ったのか?
じゃないと説明つかないよな、こんな性能のいいもん持ってるの。
その冒険者はどうなったかは、考えない方がいいかな。
ナマンダブナマンダブ…
「ちょっといいかな?」
「!…何?」
びっくりした。
考え事してたから周り見てなかった…
驚かせるなよと言いたいけれど考え事してた俺が悪い。
自業自得である。
「君はどんな武器が使いたいか聞きたかったんだ。何か好みはあるかい?」
あー、そういえば頼んでたな。
好みか、うーんそうだなあ。
「刀はある?」
やっぱり刀が使えるなら、刀の方が慣れてるしその方がいい。
「刀か…たしか数本仕入れたはずだから探してみるよ。」
やった!刀が使える!
剣も嫌いじゃない、むしろ好きなんだけど、やっぱり慣れてる方が使いやすい。
「ありがとう」
お礼を言うのも忘れない。
それから2、3分経った頃、クリスが木箱から何かを取り出した。
布に包まれていてわかりづらいが、見慣れた長さや独特の反りと鍔。
クリスが布から取り出したそれは、黒一色で統一された一振の刀だった。
「これはどう?僕が仕入れた中でも最上質だよ。」
そう言いながら、刀を俺に手渡す。
懐かしいずっしりとした重さ。
おぉ、やっぱりいいなあ。
物は試しと鞘から抜いてみる。
リィィ…ン
抜き切った瞬間に、鈴の音のように澄み切った金属音が鳴る。
薄らと光を反射する、反った純白の刀身。
長めの柄と、シンプルに作られた鍔。
完璧なフォルムに、俺は見蕩れていた。
思わずうっとり、である。
「これはとても良いものだね。」
俺は率直な感想をクリスに伝えた。
「いやあそう言って貰えて嬉しいよ。刀には詳しくないんだけど、見た時にそれは凄くいいものだと思ったから仕入れたんだけど、僕の目に狂いはなかったみたいだね。」
安心したように胸を撫で下ろすクリス。
うん。ほんといいよこれ。
ここまでの物は、前世でも見たことないかもしれない。
クリスにまじ感謝だな。
ただ1つ不安なのが…
「ほんとに貰っていいの?高そうだけど…」
これである。
世の中、タダより高いものはないのである。
助けたくらいでこんな高級品を貰って良いものなのか、大変悩ましい。
失礼だとは思うが、裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
「さっきも言ったろう?それに僕は商人だ。損をするようなことはしない。僕も得をするからしてるんだ。それに、君も満更でもないだろう?」
にっこり笑いながらクリスはそう言った。
こいつ俺の考えてることがわかっている?!
いやまあ、多分ニヤニヤしてただろうし、わかりやすいか…
「…じゃあ遠慮なく貰う。」
結局、俺が折れた結果となった。
「そうしておくれ。あそうそう、次は鎧ね。君は女性だから軽めの物を用意したから、着てみてよ。」
なんか少しづつフレンドリーになってくな。
勿論、嫌いじゃない。
そうだ!後で刀を鑑定してみよう。楽しみがまた一つ増えたな。
〜♬
刀を腰帯に通してから腰帯ごと外し、下に置いてから、鎧を受け取る。
付け方がわからないんだよなあ。
一難去ってまた一難、って感じだな。
問題は山積みだよ。
だが、ここからが本当の問題だった。
「それはチェストガード。小さくて軽いけど頑丈だから便利だよ。横のはガントレット。武器を持つ手の方が小さくて、逆が大きくてゴチャゴチャしてるやつだよ。君は盾を持たないんだろ?だから頑丈なやつを選んだからちょっとやそっとならそれで防げるよ。その上にあるのがハーフフェイス。頭を守るんだけど、フルフェイスだと邪魔だし息もしづらい、だから口元だけ空いてるタイプにしてみたよ。勿論バイザーも上げ下げ可能さ。髪を通す穴も付いてるよ。下に置いてあるのがマジックバック。刻印魔法で容量を拡張してるバックだよ。ちなみに君にあげるのは商人御用達の無制限に物を詰め込める超貴重品さ。なあに、バザーでちょっと商人共の尻を叩いて5つほど買ったから気にしないでいいよ。その下にあるのが製薬道具一式と調合書と刻印用の魔石を組み込んだ魔筆と、仕入れてきた回復薬を作るための素材を多めに入れたマジックサック。さらにその下にあるのがその他雑多品。これから入用になるだろうからある程度揃えられるものは全部揃えておいたよ。全部マジックバックに詰めておくから、装備の具合を確かめておきなよ。」
この間1分である。長いわ。
1分間息継ぎもせずに話して酸欠にならないのだろうか。
甚だ疑問であるが、まあ楽しそうだったし、よしとしよう。
さて、渡された防具を着けていくか。
まあ渡されたというか、呪文の機関銃のように言われただけだからなんとも...
まあとりあえず、着ていくか。
クリスがマジックバックに手際よく物を詰めている間に、俺は手こずりつつも鎧を着用していく。
ガチャガチャと手元がおぼつかないながらも、少しずつ鎧を着ていく。
今まで経験したことない、心地の良い重さ。
んん〜っ、ガシャガチャとなんとも言えない心地の良い音。
好きだなぁこの音♬
「詰め終わったよ〜」
お、さすが仕事が早いな。
「ありがとう。...えっと、これ、似合ってる?」
いや、まあ、ねえ?
やっぱりさ、性別は関係なくこういうのすごい気になるよね。
怖さ半分、期待半分ってところだけど...
ど、どうなんだろうか。
「か、かっこいいし、すごく素敵だと思うよ。」
赤面いただきましたありがとうございます。
「...ありがとう。」
うん、やっぱちょっと照れる。
褒めてもらえるのはすっごく嬉しい。
嬉しいよ?嬉しいけどね?
今性別違うし、とゆうか相手男だし。
同性(?)に萌えるほど腐ってねえんだよ。
いやそういう問題じゃなく...って、ちげえんだよ!そうじゃねえんだよ!
あぁもう!どう表現すればいいのか!
とゆうか俺は一体誰に話してるんだよ!!
「さてと、一通り装備は全部整えたけど、すごく似合ってるね。」
お、おぉ。びっくりした。
ありがとうございます。
「カッコよくて、女性らしさもあって、君に合うかどうか少しだけ不安だったのだけれど、心配いらなかったみたいだね。とりあえずはこれで僕の身の安全は保障されるし、君もまた然り。やったね♬」
テンション高めだねクリス君。
まあ俺も嬉しくなるし、いいことだよね。
「僕は馬が街道通りに進んでいるかどうか確認した後、城塞都市への道を確認するから、何か欲しいものとか気になるものがあったら適当に声かけてよ。」
「ありがとう。」
大変親切にありがとうございます。
...
...あ〜、ああぁ〜...
ようやく、本当に...
本ッッ当に!!
一区切りだなぁ...!!
これでようやく、一安心できるかなあ...
一眠りくらいの休憩は、もらえるといいなあ...
数あるタイトルの中、私のような若輩者のタイトルをここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
数多くの異世界転生系のお話を読ませていただいている私ですが、ふと自分でも自己満足でなら二次創作をしても怒られることはないのでは、とゆうか誰にも見られなくとも私自身が満足であればいいやと思い至り、投稿させていただいた次第です。
この手の話は展開が早くテキパキ進むようなものではなく、どっしり腰を据え気長に読んでいただくような内容となっております。(私の場合はダラダラとしているとも言える。)
こんな新参の若輩者ですが、今後は不定期となりますが少しずつ進めていき、いつか自分が満足した(諦めた)頃に完結させようと思っています。
もし、もしどなたかでも続きが見たいという方がいらっしゃれば、今後も血湧き肉躍る思いで執筆していこうと思っております。
最後になりますが、このお話の主人公は異世界へ「女体化」転生してしまった少年の物語。
自分の変化と慣れない異世界での生活に四苦八苦しつつ、楽しそうに生活していく彼(彼女)を、温かい目で見守っていただければこれ以上の幸福はありません。(こういうのは最初に書くべきだと反省しております。次回からそうします。)
最後に。
様々な情報の中、足りない語彙力の中から削り出したものですので、他の作品と類似する点があるかもしれませんが、私の足りない引き出しにご理解いただければ幸いです。
皆様のお目汚しとは重々承知しておりますが、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
また次話の後書きでお会いできることを、明鏡止水の思いで願っております。
皆様に、女神様の祝福と御加護があられますよう。