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寝言 シルヴァンside



熱い…苦しい…



そう言えばそう遠くない過去に同じような感覚に襲われたことがある。

あれは確か…魔力暴走を起こした時だったか。

小さい頃に魔術師団の人がバルリエの邸に来て魔力測定と言って測定をしている最中に暴走を起こした。


それから三日三晩熱に浮かされた。


だが、バルリエ公爵家では付きっきりで介抱してくれる者など居らず、「お父さん、お母さんに会いたい」と力を振り絞って頼んでも誰も取り合ってくれなかった。

その間邸の使用人が代わる代わる部屋に来ていたが身体を拭いて着替えさせ食事と水を置くと足早に部屋から出て行った。

泣いても誰も来てくれない、水を飲ませてくれる人もご飯を口に運んで食べさせてくれる人も誰一人いなかった。



「一人にしないで……」


閉じたままの瞳から涙が零れる。

ポツリと漏れた言葉は空間に溶けて消えた。




◆◆◆◆◆



「もう…一人にはしねぇよ」



ベッドに横たわるベラの頬に流れる涙を拭って呟かれた寝言に答える。


「ベラの様子は如何ですか」

「昨晩から良くも悪くも変わりない。…彼奴には連絡してるんだろ」

「ええ、元々明日此方に来る予定でしたが近くまで来ているようなので今日中にフィンディゴに来て貰えるように遣いを出してます」


ベラの容態は昨夜から変わらない。

悪化する事も無いが高熱が下がらずあれから一度も目を覚まさないでいる。


「総大将はどうしてる」

「ベラの心配をしていましたがレオナールさんと共にシーリアの最終制圧に夜明け前に向かって貰ってますよ」

「そうか…」


昨晩ディアフォーネの駐屯地に戻ると入れ替わりでレオナールが率いる軍勢がシーリア弾圧に向かった。

恐らく、ベラとフラガーデニアの切り札を失ったフラガーデニア軍はシーリアの地から兵を引きあげ王都に引き返した事だろう。


「私の読みが甘かったせいでもあるのですから自分だけを責めないで下さい」

「だが、オレがベラを縛る術式とベラを直ぐに回収していればこんな目に合わせる事は無かった」


オレは椅子に深く腰掛け両膝に肘をつき手を組んで額をあてる。

バルベラが実験していたという内容に禁術とされる洗脳魔法があった。バルベラが逃げ出す頃はまだ未完成だと言っていたが彼女が逃げ出してから十数年の年月が経っており、高魔力を持つベラの存在もあった。その為、サロモンは禁術の実験にベラが耐えられる適応年齢に達した今回の遠征で禁術を使う予定だったはずだと睨んだ。

フラガーデニアから禁術を盗み出す計画が組み込まれていたのが今回の夜襲策戦であったのだが、まさか人質になった状態でも術を発動するとは思わなかった。直ぐに術者を殺しベラが操られる事は無かったとはいえ完全に此方のミスだ。


「報告します!アリス大将軍が只今到着致しましたっ」


重い空気が漂う中天幕の外から駐屯している兵が声を掛ける。


「分かった。すぐ行く」

「あらやだわ、サロモンちゃんが迎えに来てくれるなら待っとくんだったわ。もう、来ちゃったわよ~」


サロモンが衛兵の呼び掛けに答え外に出ようとすると天幕の入口が開かれ甘ったるい声を出す人物がそこには立っていた。


「アリスさんお久し振りです。予定より早目に来て頂いて申し訳ございません」

「良いよのよん。どうせ、近くに居たんだし明日も今日も変わらないわよ。」

「そう言って頂けると助かります」

「で、そこでどんよりしている男はなぁに?折角あたしが急いで来たって言うのに挨拶も無いわけぇ?」


身長は180を優に超える巨漢が頬に手を当てて腰をくねらせて会話をする。

そう、()の性別は男で本名をアリスティドと言う。彼は俗に言うオカマで化粧もしているが如何せん濃い過ぎる髭剃り跡が目に染みる。


「アリス…頼む。此奴を救ってやってくれ」

「……あんたが真剣に人に何かを頼むなんて珍しいわね。それ程大事な子なの?」


アリスはカマ口調のままだが先程までの言葉尻の上がった言い方は辞めてオレとベラの元まで来る。

そして、アリスは驚愕に目を見開いた。


「この子はっ!?」

「バルベラの娘です。確証は取っていませんが瞳も紅いので間違いないでしょう」


サロモンがすかさず説明をする。


「このこと、総大将は?」

「知っています。この子と出会った時にも総大将もおられましたので」

「そう…。全く、何の因果かしらね。親子揃ってこの国に来て総大将やあんた達と先に出会うなんて…」


嘆息混じりにそう言葉を漏らしてアリスはベラの頭部に触れる。

アリスが触れた手からは徐々に淡い光が発光しだして数秒手を翳しているとベラの苦しそうだった呼吸が少しだけ和らいだ。


「例のブツは?」

「此方に」


アリスはベラから手を離して昨晩奪って来た禁術の術式が描かれた紙をサロモンから受け取る。


「読み解くのに時間がいるわね。一日二日時間を貰うわね。彼女の容態が急変したらまた呼んで頂戴」


それだけ言うとアリスは紙を持って天幕から出て行った。

アリスはディアフォーネ国の魔術師に当たる人物だ。フラガーデニアの方が魔術に関する研究が進んでいるとはいえアリスもかなりの使い手である。髪色も真っ黒では無いが黒に近いアッシュグレーの髪色をしており昔総大将に拾われて六頭武将の地位まで上り詰めた実力派だ。



そろそろベラの額に乗せているタオルを絞る水を変えようと近くに置いたタライを持って席を立つ。


「そばに…誰、か…」


ベラが再び寝言で口にする。

眉間には皺が寄り布団からはみ出した手を握ってやるとふと顔の力が抜け手を握り返される。


「これからは何があってもオレがそばについているから安心しろ」


水の交換はもう少ししてから行こう再び椅子に腰掛け総大将達が戻って来るまで細く小さなこの手をずっと握っていた。

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