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あの…私女ですし、〇〇じゃないです……



沈黙が痛い。

遠くから兵達の声や乱戦の音が聴こえるがそれよりも自身の心臓の音の方がよく聴こえる。

逃げたい、そう訴える本能を理性で押さえ付ける。


「ワッハッハッハッハッ。気骨ある娘じゃ、良かろう。それにシルヴァンが見込んだんじゃ、我が軍に入ることを許可する」

「ガハハハ、総大将。何を言っておるのですか!とうとう耄碌なされたかっ!この(わっぱ)が娘とは、どっからどう見ても男児ではないですか」



……………え?



「ぶふっ」



汚っさん、今笑ったな?



「何を言っているのは貴方の方ですよレオナールさん。確かに髪は短く胸も平坦ですがこの者女性ですよ」



サロモンとかいう男が呆れた調子で金髪のオヤジに言う。

何というか…サロモンって奴は、随分とはっきりと物事を言う性格らしい。胸は私だって気にしてたんだ。ほっとけ。



「なんだとっ!?こやつが伝説に聞く魔王では無かったのか!?」



…………はい?



「ガッハッハッハッ、レオナールは相変わらず馬鹿だのう。魔王が出て来ようものならばわしらは生きておらんぞ」



いや、いやいや、いやいやいや。

笑い事じゃないです。

魔王って……本当に伝説の中の人物じゃないですか。確かに黒髪で力もそこそこあるけど伝説に伝え聞く魔王のような残虐性とか魔物を使役したりとかしないからね!?



「レオ…魔王の特徴を挙げてみろ」



ケープを纏うおっさんも呆れた調子で金髪のオヤジに尋ねる。



「おう?老若男女問わず魅了する美貌の持ち主で闇に溶ける程の漆黒の髪と黒曜の瞳。魔物を使役し人間とは相容れない存在で魔王と出会った者は誰一人として生きて帰った者はいない」

「で?実際目の前にいる此奴はお前の目から見てどう見える」


金髪のオヤジは私を穴があくほど見つめたかと思えば自信満々に口を開いた。


「可愛い顔立ちはしてると思うぞ!!」

「バカヤロウ!!お前が今さっき挙げた魔王の特徴と嬢ちゃんを照らし合わせてみろって言ってんだよ」



レオナールって人はサロモンって人と違ってかなり脳筋のようだが、私が思い描いていた理想のおっさん将軍に近い出で立ちということもあり、可愛いという単語に反応して無意識に頬に熱が集まる。



「何で嬢ちゃんも顔赤くしてんだよ」



私の様子におっさんが目敏く反応する。


仕方ないじゃないか。

異性から可愛いなんて言われたのは前世でも今世でも初めてだから免疫が無いだけだ。



「よく見てください。この子は黒髪ですが目が紅く魔物も使役していない。それに何より私達は今生きているではないですか」

「お?本当だな。ガハハ、言い伝えと少し違ってはいるが魔王って本当は良い奴だったんだなっ」



馬鹿だ。

年上の人に対してこう言いたくは無いが…馬鹿過ぎる。可愛い。

厳つい顔立ちと大きな体躯でおっさんでありながら脳まで筋肉で出来ており斜め上の思考回路がほんの僅かに母性を擽る。

サロモンさんは盛大な溜息を吐いて呆れており、総大将とシルヴァンさんはゲラゲラとレオナールさんを馬鹿にしながら笑っている。

傍から見るとかなりのカオスじゃなかろうか。



「あの…私女ですし、魔王じゃないです……」



このまま放置する訳にもいかないので事実を告げるが、何だかこうだと信じている相手に現実を教えるのは少しばかり居た堪れない。



「何!?女で魔王じゃないだと!?」

「何だか…すみません……」



私は一切悪くないが何故か決まりが悪くなって謝罪すると、大きな手に頭部を撫でられる。


「レオが馬鹿なだけだから気にすな。ほら、ボーッとしてると置いて行くぞ」



シルヴァンさんはそう言うと総大将達三人の後をついて歩いていく。

急な話の転換に頭がついていかずキョトンとしているとシルヴァンさんが振り返った。



「オレ達のところに来るんだろ?ディアフォーネ軍の駐屯地まで行くぞ」

「…っ!はい!」



漸く、話の内容を理解すれば総大将が許可した私を受け入れてくれるという発言を思い出し嬉しくなって大きな声で返事を返した。


男達の元に行く前に魔術師団のローブを外し、火をつけて燃やし走ってシルヴァンさんの元へと向かった。



「ベラ、此処からはオレが運ぶ。飛ばすからしっかり捕まってろよ」

「へ?」



森に入る手前でシルヴァンさんは私を肩に担ぎ上げる。脳が言葉の理解をするより早くおっさんが動いた。


「いっ…」



一瞬にして移ろう景色。

隣には軍馬を器用に操り木々の間を"駆け抜ける"三人のオヤジたち。

その軍馬と負けず劣らずの速さで走る汚っさん。



「いやあぁぁぁぁぁぁ」



森閑とする森の中に駆け抜ける馬の蹄の音が鳴り響き、一人の女の叫び声が木霊した。


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