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其の弐 いざ魔物狩りへ

 冒険者ランクは、『初級』から『中級』『上級』そして最高位である『超級』の四つに分けられる。

 それぞれのランクには一から十までの段階があり、依頼を達成すると得られる点数──ポイントによって、上の段階・上のランクへと昇格する事が出来る。

 龍蔵と村正は、ジャーマを追い払った事によって達成した緊急依頼でのポイントで、一気に初級の五段まで昇格する事が出来た。

 今回のように、新人冒険者がポイントを大量に獲得出来る機会は稀であり、ここから先は地道に依頼を達成していくのが基本となるだろう……と、サクラは語っていた。


「貴方達にとっての初めての依頼はジャーマとの対決になってしまったけれど、あれは本当に異例な事よ。きちんとした実力があったから死なずに済んだんだもの。だけど、そんな貴方達だからこそこなせる依頼というものがあるのもまた事実。だから今日は……」


 サクラは背負っていた剣を手に取ると、剣先で目の前に広がる景色を指し示す。


「初級の冒険者が受けられる討伐系依頼を一通り受注してきたから、この森の中で、魔物を狩って狩って狩りまくるわよ!」

「お〜!」


 彼女に連れられてやって来たのは、カルムの町から少し歩いた先にある森だった。

 サクラはギルドに置かれた掲示板から、この森で達成出来る依頼を全て引き受けた。

 サクラと龍蔵、そして村正の三人組でチームを組んで、これから森に潜む魔物を討伐しに向かうのだ。

 初級冒険者である龍蔵と村正は、冒険者ランクによる依頼の難易度の制限によって、比較的簡単なものしか引き受ける事が出来ない。

 そして初級依頼は、中級以上の依頼ランクに比較すると得られるポイントが少ない。

 だが、ある程度の実力を持つ龍蔵達であれば、簡単な依頼を纏めて攻略する事が出来る。そうする事によって、一度に獲得するポイントを大幅に増やせるのだ。


「この森には弱い魔物が多いから、ヒムロぐらいの強さの剣士が一件ずつちまちまと依頼をこなすなんて、とっても非効率なのよ」

「サクラの意見はよく分かる。そういえば、ギルドの受付に何枚か張り紙を持って行ったようだったが、何件の依頼を引き受ける事にしたのだ?」


 龍蔵の質問に、サクラは片手の指を折りながら数え始めた。


「ええと、最初に選んだのがゴブリンの討伐で、ベアボールとベアニードルの討伐が一件ずつ。それとキラーフォックスの討伐だから……四件ね。これぐらいなら夕方までに全部片付くんじゃないかしら?」

「初級向けじゃから雑魚ばかりじゃな〜。妾はもっと倒しがいのある魔物と闘いたいのぅ……」

「中級に上がれば、もう少し強い敵とも闘えるようになるわ。その為にも、頑張ってランクを上げましょうよ。ね?」


 つまらなさそうに唇を尖らせる村正に、サクラが眉を下げながらも笑って励ました。

 すると村正は、むむぅ〜、と唸りながらも、彼女の意見に頷いて言う。


「……そうじゃな。何事も日々の積み重ねが大事じゃからな」

「そうそう。私がしっかりサポートするから、きっとすぐにランクが上がるはずだわ。それじゃあ、まずはゴブリンを探しに行きましょうか」

「そのゴブリンとやらは、この森のどの辺りを棲処(すみか)にしておるのだ?」

「ある程度の検討はついてるわ。ただ、途中で別の魔物に遭遇する事もあるかもしれない。警戒は怠らないようにして頂戴ね」


 そう言って、サクラが先陣を切って森の中へと入っていく。

 龍蔵と村正も彼女の後に続き、木々が生い茂る自然豊かな森に足を踏み入れた。

 サクラの話では、ゴブリンというのは小さな子供のような背丈をした、鋭い牙を持つ小鬼の事を指すらしい。

 ゴブリンにはかなりの種類があり、過酷な環境にも適応する生命力に溢れた魔物なのだそうだ。

 この森に()むのは一般的なゴブリンで、持ち前の繁殖力の高さによって集落を形成し、集団で狩りを行うのだという。

 彼らの中には武器を使いこなす賢いものがおり、商人を襲って武器を奪う事件もあるのだとか。



 しばらく歩いていると、サクラが足元に落ちていたある物を指差した。


「ねえ、これを見て。何かが木の実を食い散らかした跡だわ」

「歯型がついているな。少なくとも、人間のものではないようでござるが……」


 地面に転がっていたのは、見慣れない真っ赤な木の実だった。

 ふんわりと甘い香りが鼻をくすぐるが、何らかの生物の食べ残しであるという点と、香りに誘われた小さな虫が集っている光景はあまり気分が良いものではない。

 しかし、独特の歯型がついた木の実が落ちているという事は、この森のどこかに何者かが棲み着いているのは確実だ。

 それが動物なのか、はたまた魔物なのかは分からないが……。


「この木の実はゴブリンの好物なの。食事の最中、手頃な獲物でも見付けて、慌てて追い掛けたのかしら……」

「つまり、ここはもう小鬼共の生活圏内という訳じゃな。このまま進めば、小鬼の集落を発見するのも時間の問題じゃろう」

「先を急ぐか。まだ倒さねばならない魔物は他にも居るのだ。それで良いか、サクラ?」

「勿論よ。パパッと済ませてしまいましょう」


 その後もゴブリンが残したであろう痕跡を辿っていき、三人は遂にゴブリンの集落を発見した。

 龍蔵は木の陰に身を隠しながら、慎重に様子を窺う。サクラと村正も、草むらから少しだけ顔を覗かせていた。


 ゴブリンの集落は、集落と呼ばれるだけあって文明的だった。

 木の枝とツタを組み合わせて作った小さな家が点々と建てられ、集落の中心部には焚き火で何かを焼いているゴブリンも居る。全てのものを生で食べる訳ではないらしい。

 ゴブリンの外見はサクラが言っていた通り、小柄で口から牙が覗く怪物だった。

 肌の色は、くすんだ緑色。ギョロリとした大きな目玉が、どこか愛らしくもあり、恐ろしくもある。

 このゴブリン達の集落を壊滅させ、なるべく全てを討伐するのが依頼内容となっている。

 龍蔵達は無言で視線を交わし合い、襲撃の機会を狙う。

 最終的な突撃の判断は、サクラに一任している。


「……行くわよ!」


 サクラが剣を手に駆け出した。


「応ッ!!」

「妾も行くぞ〜!」


 彼女の後ろに続き、龍蔵も鞘から刀を抜き放つ。

 今回は村正自身も闘うらしく、刀の中に戻る事は無いようだった。


「ギギャッ!」

「グギャーギャ!?」


 彼らの出現にゴブリン達は驚き、慌てた様子を見せている。

 サクラはそんなゴブリンに躊躇無く剣を振り下ろし、龍蔵もそれに(なら)い刀を振るっていく。

 しかし三人による一方的な攻撃とはならず、彼らも反撃を開始した。

 少し離れていたゴブリン達は、龍蔵達の中で一番非力に見える人間──の姿をした付喪神──に向けて、近くで調達したであろう小石を投げ始めたのだ。

 こちらが接近戦に長けているから、遠距離戦を選択したのだろう。確かに賢い。

 けれども、それに(ひる)むような村正ではない。


「そのような小石程度で、妾の柔肌に傷を付けられると思うでないわ!」


 村正がそう叫ぶと同時に、彼女は自身の盾となる薄紫色の壁を生み出した。

 これは炎の魔族ジャーマとの闘いの時と同じく、敵の攻撃を防ぐ妖術の類だろう。

 半透明のその板は小石を弾き、次の瞬間には盾そのものが消え去った。


「この妾に攻撃をしたのじゃ。反撃されても文句は言うでないぞ! 漆黒の炎にその身を焦がせ!!」


 村正は石を投げ付けてきたゴブリン達に向かい、右手を伸ばす。

 するとどうした事か。ゴブリン達の足元から、地獄の炎を連想させる黒い炎が噴き出したではないか。

 突然の炎に包まれた小鬼共は、苦しみもがく声をあげながら、逃げ出す間も無く燃やし尽くされていった。


「どうじゃ、妾の闇の味は。極上じゃったろう?」


 得意げに微笑む村正に、残されたゴブリン達は怯えたように震え上がる。

 そんな黒衣の少女の炎を目の当たりにしたサクラは、


「流石は妖刀……。魔力の扱いは熟練の魔術師並みか、それ以上ね。私も負けていられないわ……!」


 と言葉を漏らすと、村正への対抗心を燃やし始めた。

 スパーダの娘なだけあって、戦闘技術への関心や向上心が高いのだろう。

 そして当然ながら、龍蔵も彼女達に負ける訳にはいかない。

 彼女達よりも一匹でも多くゴブリンを仕留め、一人の剣士として──そして、男としての威厳を保たなければならないからだ。

 龍蔵は改めて刀を構え、残るゴブリン目掛けて突きを放った。

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