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イジメに勝つ!  作者: 橋沢高広
2/24

【第2回】

 ※


 三年生になれば、クラス替えがある為、「イジメからは解放される!」と考えていたのだが、その希望も虚しく、進級しても私は〈無視というイジメ〉の対象となってしまう。

 イジメから解放されるという期待を裏切られた私は、この頃から精神状態が相当、不安定になり始めた。授業中、突然、すすりり泣く様になったのだ。しかも、その瞬間まで何でもなかった私の感情……、悲しみでも、怒りでもない、自分でもよく解らない感情が一瞬で込み上げ、涙が勝手に流れて行く。それを止める事は出来なかった。この状況を私は「感情の爆発」と呼ぶ。

 この頃になると、先生達は、「篠塚の様子がおかしい」と、明確に認識する様になるものの、その根底にあるのが、〈無視というイジメ〉である事までは考えなかったらしい。

 私の〈啜り泣く〉という行為に対して、これまでの「イジメ」に加え、「不快な存在」として、クラスメイトとの接点が完全に消滅する。

 そして、事態が急展開した。

 六月の下旬。その日、私の感情が〈大爆発〉する。数学の授業中であった。無意識の内に立ち上がり、狂った様に泣き始める。

 その時、私は号泣している自分を静かに見守っていた〈別の自分〉がいる事に気付く。それは奇妙な感覚であった。

 次の瞬間、大量に失禁する。漏らしながら、(あっ、出ちゃってる!)と冷静な感想を頭の中で呟いた自分を私は、しっかりと認識していた。そして、自らが排出した小水の上に倒れ込む。同時に気を失った。

 この異様な光景に学校側が慌て出す。

 私にとって幸いだったのが、この様な状況に至った背景として、「イジメがあるのでは、ないか?」と察した先生がいた事だ。

 しかし、イジメを行っていたのはクラス全員という〈集団〉。その実態を語る者は、いなかったらしい。それも当然だろう。全員が実質的な黙秘を続ける中、「イジメがありました」と言ったら、今度は、その人がイジメの対象となり兼ねないのだ。

 結果として、そのイジメに気付いた先生が私から、その裏付けを取り、その「無視という行為」をイジメと断定した。


 ※


 私自身、〈その日〉以降、夏休みが終わるまで学校に行っていない。精神的にかなり不安定な状態だった為、総合病院の精神科へ、そのまま入院した。

 私の精神状態は、かなり疲弊しており、担当の先生が、「よく、ここまで、もったな」と驚きの声を上げたと後に聞かされている。半面、我慢した分、〈心の傷〉が深くなっていたのも確かだった。

 以後、私は人間恐怖症となる。

 入院によって、イジメの現場である学校から一時的であるにせよ、解放された私の精神は安堵感を覚えたのと同時に、その〈我慢〉からも解き放たれた為、その精神状態が〈錯乱〉を起こし、主治医の先生や、看護師さんまでに些細な事で喚き散らす様になった。酷い時には、病院で出される食事に関して、料理そのものや、味ではなく、「皿の大きさが気に喰わない!」と怒りを爆発させるのである。

 今、思えば、「大変失礼な事をした……」と、猛反省しているが、当時は、その様な余裕もなかった。何しろ、その理由は、どうであれ、自分の感情を自分でコントロール出来ないのだから……。

 私は一ヶ月間、その病院に入院し、カウンセリングと投薬治療を行った結果、精神的に、かなり落ち着いた状態となったが、「いつ、感情が爆発するか判らない」という〈爆弾〉は抱え続けていた。

 夏休みは自宅で療養する事になる。一応、夏休みの宿題は課されたが、「無理はしない様に」とも担任の先生から言われた。

 そして、両親と学校側との協議を経た上で精神的な負担を考慮し、私は二学期の開始と共に転校。他の中学校へと通い始める。

 新しい中学校では、私のイジメに関する話は完全に伏せられていた。その、お陰もあり、複数の精神安定剤は服用していたものの、学校内で〈爆発〉する事はなかったが、私は毎日怯えた生活を送る様になっていたのも事実である。人間恐怖症そのものは改善されていなかったのだ。

 高校は両親の、「中学校の人と会わない高校に行きなさい」というアドバイスもあり、神奈川県立や横浜市内にある学校ではなく、東京都内の私立高校を受験する。しかも、レベルは、かなり高い。それでも、「この高校に受かれば、中学時代の奴らとは顔を会わせずに済む!」という意識が功を奏し、勉強に身が入って、受験に成功した。

 高校生活を送り始めるのと同時に、私の精神状態も安定し、薬は必要だったものの、その精神安定剤……、不安を緩和する薬が効いている時は人間恐怖症にはならず、表面上は普通の高校生活を送れる様になる。だが、それは「薬が効いている」という条件が満たされている時だけなのも事実だ。私は「感情の爆発」と共に、「薬への依存」という〈爆弾〉も抱える様になったのである。

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