宮崎氏の場合
「銀河鉄道の夜」って知ってるかい?
宮沢賢治の壮大でロマンチックで少し悲しい物語なんだけど、ぼくはこれが好きなんだ。
夜空に浮かぶ星々をめぐる銀河鉄道。ぼくと君ならどんな旅になるだろう。
青い天蚕絨を張った腰かけは、どんな座り心地だろう。窓からは何が見えるのだろう。きっと綺麗なりんどうの花が咲いているよ。
白鳥の停車場でいったん降りて、水晶の川原を通りすぎプリシオン海岸に行ってみないかい? 百二十万年前のクルミの実を探すんだ。
それで列車に戻ったら、鷺や雁のお菓子を途中でつまもう。甘くて、チョコレートよりも美味しいらしんだ。きっと君は気にいるよ。
そのあとは真っ赤に燃える蠍の火も見に行こう。やさしくて思慮深い、哀れな蠍なんだ。
どこまでもどこまでも一緒に行こう。
本当の幸いを探して。
ジョバンニとカムパネルラは途中で別れてしまったけど、ぼくらはずっと一緒さ。離れないように、かたく手を繋ぐんだ。死が2人を別つまで。
何が言いたいんだって?
君とずっと一緒にいたいってことさ。
……つまり、結婚しようってこと。
ぼくはジョバンニのように繊細な優しさは持ってないし、カムパネルラのように勇気ある行動も出来ない。
でも、生涯君を大事する。
1番君のことを想っているのはぼくさ。
あのサザンクロスに誓うよ。
◇
「あんた、さっきから何をブツブツ言ってんだい」
「プロポーズの練習」
「彼女いないでしょうが」
「……まだ運命の人に出会ってないだけ」
「あきれた。それよりも早く就職先見つけて、お母さんを安心させて欲しいんですけどね。息子さんよ」
「うぐぐ……」