1部 シズク 2章 世界を失った少年は幻の村で目覚め、§0-2 キオクノカケラ
暗闇の中に俺はいた。
外の雨が天井の岩から漏れ、滴となり音を響かせる。ここにあるのはそれだけ。
――もう一つ、約束残ってる。
終わった世界の空に浮かぶ君が脳裏に蘇る。最後まで一緒だと誓い、俺が殺した君。
この世界に辿りつき、君との約束を果たすため、君のことも俺のことも忘れた。
でも、きみのいない世界は、喜びも悲しみも生も死も、全て意味がなかった。
意識を右手に集めると光る粒子が浮ぶ。それは数千もの数になり闇を強く照らす。光の強さが俺の思い。強さは思いに比例し輝く。これ以上強い光はどこにもない。
光は鋭く輝くナイフとなり、俺の右手に収まった。
それを自身の首に向け、大きく息を吸い込んだ。
みこと――。
思いの苦しみから解放されるため、きみとの約束から逃げるため、それを突き刺した。
――突き刺したはずだった。なのにナイフは薄皮一枚程度しか俺を傷つけない。足元から肘まで緑の氷に覆われていた。不思議と冷たくない。肩、胸、首……と、凍っていく。手から零れたナイフが地面に落ち、粒子に戻って消える。
君の顔がまた浮かぶ。ずっと一緒、そう約束したきみの顔だ。
「みことーー……」
君の名を叫んだ。天の、空の、世界の向こうへ。届くはずもない君に向かって。
「私があなたを守るから――」
君の声が聞こえた。