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1部 シズク 6章 世界と時を超え、少年と少女は何を手にする §5

「――余裕だな」


 笑い声を裂き、声が聞こえる。イクトだ。十名程の騎士従えていた。


 アーティとユウはシズクとアリスの前に立つ。ユウは、ふらふら、と今にも倒れそうだ。


「魔力の尽きたアーティと、立っているのもやっとの悠矢か。その状態で何が出来る?」


 イクトが手を上げると、騎士達が散開し四人を包囲する。唯一、空いている後ろは崖だ。後ずさろうにも、崖を背にしそれ以上退けない。イクトが手をかざし、騎士達が魔法銃を構える。


「撃てぇ!!!」

「……やらせるかぁ!」


 イクトの叫び声に合わせ、騎士たちが魔法銃を放つ。アーティが両手を大きく広げ、体を張り魔法を止めようとする。その前に白い物体が割り込む――。


 メリトだ。息を吸い込みと一瞬で大きく膨らみ、一気に吐き出す。吐き出した息が炎の閃光となり、騎士たちを消滅させた。力を使い果たしたのか、メリトはシズクの肩に戻り眠る。


 メリトの吐き出した閃光で、岩が溶岩となり流れる。その中で大きな黒い蛇がとぐろを巻いている。そこにイクトもいる。蛇は身体をおこし、反りながら口から彼の身体に入る。


「イクトさん、あなたもなのか……」

「勘違いするなアーティ。俺がこいつの力を利用しているんだ。だが、これを見た以上お前らを生かすわけにはいかない。皆殺しだ!!」


 イクトは数珠を宙に放ち、懐からナイフを手にする。数珠は宙でばらけ、勾玉が宙に浮く。


 いけ、イクトの指示に合わせて、勾玉が宙を浮遊する。威嚇しているようだ。ユウたちは注意を払うが、隙を突いてイクトがナイフでユウを襲う。間一髪で、仰け反り避けたユウの頬が裂け、血を飛び散る。仰け反りから戻る反動を利用してユウは殴りつける。


 だが、勾玉がそのユウの腕を狙い跳んできて捉え、拳を邪魔する。まともに動けないユウに出来ることは、相手の力を利用したカウンターだけだ。それも勾玉に邪魔され、なすすべがない。ユウ達は、じりっ、と下がる。


「ユウさん、これ以上は――」


 すぐ後ろは崖だ。これ以上、下がれない。


「終わりだ――」


 イクトが飛び込み、ユウをナイフで切りつける。ユウには避けられない。避ければ誰かが刃の餌食になるかもしれない。ユウは、両手を交差させナイフを受け止めようとした。


「――ああぁぁぁ!!」


 ナイフがユウを切り付ける。その瞬間誰かがイクトに飛びかかった。イクトの腰に体ごとぶつかり、掴んで持ち上げる。


「なんだ!!」


 イクトを持ち上げる影はアーティだ。彼はイクトの体ごと崖から飛び降りた――。


「アーティ!!」


 シズクが谷の底に向かって叫ぶが、ただ虚しく渓谷に響いただけだった。


 イクトがいなくなっても勾玉はまだ宙を舞い、ユウたちを襲う。シズクとアリスを守るためユウは、その身に勾玉を受け続ける。だが限界が近い。それは明らかだった。


「シズク、ユウ。飛び降りるわよ」


 アリスがシズクに言った。シズクは、何を言っているのかと、アリスの顔を見る。


「ユウの空飛ぶ乗り物、あれしかないわ。あれを空で出してもらう」

「でも、今のユウさんじゃ……」

「このままユウが力尽きれば、その可能性すらゼロになるわ。ユウを信じるしかないわ」

「ユウさんを信じる……。うん、わかった」


 シズクが意を決しアリスの手をとる。ユウは振り向き二人を掴み崖から飛び降りた――。


 自由落下、ユウは抱えるアリスとシズクを見た。二人はユウを見つめて笑う。疑いも不安もそこにない。ただ彼を信じている。


「さっきあの子と約束したところだ!! こんなところで終われるかぁ!!」


 声と同時に、崖に山、それに空気が緑に輝き、無数の粒子が湧き出る。全ての粒子が、ユウに伸び、彼らを包む。緑の粒子がユウに力を注ぐ。


「うをぉぉぉぉぉぉ!!」


 叫ぶと、粒子が強く緑に輝き、ユウ達が出会ったときと同じように頭上に光の塊が出来、ハングライダーになった。ユウはシズクとアリスを両肩に抱える。三人の落下スピードが急激に減速する。


 ふっ、と冷たく強い風が谷から空へ通り抜ける。あの日と同じように、ユウ達は風に乗り舞い上がる。


「アーティ!?」

「あいつね、あいつしかいないわ」


 アリスが悪戯としか思えないあの日と同じ風に憤る。ただ、二人とも安堵していた。

風は突風となり、三人と一匹を乗せたハングライダーは、一気に雲を突き抜けた――。


 雲の上でアリスがユウにしがみ付く。


「俺は、二人を守る。それが新しい約束、俺の生きる意味だ――」


読んで頂きありがとうございます。

とりあえず一部完了です。ある程度かたまり次第投稿します。ストックがないのでゆっくりと投稿になります。

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