1部 シズク 6章 世界と時を超え、少年と少女は何を手にする §4 ②
「このままじゃみんな死んじゃ――」
シズク達を囲む騎士のさらに外側から大きな歓声が上がった。何だ、とイクトが振り返ると、騎士たちに無数の魔法矢が降り注いだ。
「おぉぉぉぉぉ!」
騎士達に飛びかかる者達、それは守備隊だ。先頭の隊長が咆哮をあげる。後ろに研究棟員もいる。それに、カツ、ナミたち院の少年少女たちもいて、魔法矢を放っていた。
「なぜだ、なぜこいつらが、ここにいる!!」
「マリア様!!」
ユウの前に隊長が立つと、遅いわ、とマリアが呟く。それを聞いた隊長が豪快に笑う。
隊長達の襲撃で形勢が反転する。だが騎士達だってがむしゃらだ。本気で世界を守ろうと戦っているのだ。一人で局面を変えられるユウ、アリス、アーティは動けない。マリアもここじゃ力を使えない。騎士に討たれるものも何人か出て来た。
「ごめんなさい……。私のせいで……」
「馬鹿野郎!!」
叫んだのは隊長だ。彼の声が戦場に響き、敵も味方もの注目を集める。
「目を開けろ、シズク!! 皆、お前達を助けようと戦っている。誰かに命令されたからじゃない、それは自ら望んだことだ。お前を助けたいからだ!!」
「シズク!」「シズクお姉ちゃん!」「シズクちゃん!」「シズクさん!」……。
守備隊に、研究棟員に、カツやナミ、院の生徒たち、誰もがシズクの名を呼んだ。
「お前の目に何が見える! 耳には何が聞こえる! 誰がお前を責めている!!」
隊長さん、みんな。嬉しさと申し訳なさで、また涙が出そうになる。
――雫。
シズクの内から聞こえる重なる二つの声、消えたはずの黒と白のミコトの声だ。
耐えられずシズクはまた泣いた。
「――なぜだ? なぜ貴様らがここにいる!? 村には別隊が攻め込んでいたはずだ!」
動揺を隠すことのできないイクトが、怒鳴った。
「村には誰も来てないぞ、イクト」
「なんだと? そんなはずは――」
イクトが振り返りる。視線の先に野営場があるのだろう。その先に煙が上がっていた。マリアが隊長に、何があったのかと、尋ねる。
「プタハ様ですよ。一人で村から出ていって戻ったかと思うと、村の全戦力でマリア様たちを助けに行けと言われたんですわぁ」
「プタハ? そいつは誰だ!? あそこには三百はいたはずだ」
「……イクト、私の義姉さんよ、あの人は私よりずっと強いわ」
「お前よりも強いだと? そんなやつがまだあの村にいたのか……」
その間にも、攻撃に耐えられず騎士たちの数がみるみる減る。彼らのやり取りに、自分たちが本当に正しいか、疑問が生まれたのだ。戦場での迷いは致命的だ。
「くそ! あいつだ。あいつを捕らえろ! 他はあきらめろ!!」
シズクを指し、呼応した騎士がシズク囲み、魔法を放つ。だが、隊長が咆哮で掻き消す。
「この程度、不意でもつかれなければやられんわ」
「シズク!! アリス、ユウ、アーティあなた達は、あの洞窟に身を隠しなさい!!」
洞窟の奥で、アーティが、ぜぇぜぇ、言っている。彼が動けないユウとアリスを背負ってきたのだ。俺は頭脳派だぞ、ずっとぼやいていた。
洞窟の奥にあった緑の氷は全て、崩れた壁から入った陽に溶かされている。
「みんな、大丈夫かな……」
シズクが心配そうに言う。
「あれなら大丈夫だろ。隊長たちが蹴散らしてくれる。俺達は、足手まといにならないように、大人しくしていよう。……うん?」
ユウの視界を何かが横切る。何度か地面を跳ね、ぷにょっ、とシズクの肩に乗った。
「きゃっ!? ……メリトちゃん? メリトちゃんも心配してくれて、来てくれたの?」
ぷぎゅー。どこから来たのか、メリトがシズクの肩に乗り、シズクに答えて鳴いた。
「こいつ鳴けたの?」
「めずらしいです。めったに、鳴かないんですよ」
シズクがメリトの頬を突っつきながら言う。それを見たユウも、頬を突――。
ぎゃっ、突こうとするユウをメリトが、がばっ、と口を開きその手に噛みつく。ユウは飛び上がり、腕を振り回しメリトを引きはがそうとするが、離れない。
安心したのか、そんな光景を見てシズク達が笑った。




