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1部 シズク 5章 黒い蛇が少年と少女の思いを貪り食らう。§3 ①

――院に残されたシズクとアリス。


 狙いはシズクかもしれない、マリアの言葉がアリスの頭から消えない。何か引っかかる。


「アリスちゃん?」


 考え込むアリスが心配でシズクが声をかける。


「アリスちゃんもみんなと戦いたいよね。私は大丈夫だから。アリスちゃん行って」

「二人で十分よ。シズクを守るって決めたの。だから、ここにいるのが正しい。嫌なの?」

「ううん。そんなことない。いつも足手まといで、ごめんね」

「まったく、足手まといだなんて思うはずないでしょ。あんたは、そのままでいいの。シズクは、みんなに力をくれているわ」


 アリスはシズクを見ない。照れているのだろう。シズクの頬も赤くなっていた。


「――お二人とも。この建物じゃ目立ちます。狙いがシズクさんなら、目立たない場所に移動したほうがいいのでは」


 気を利かせたのか、二人のやりとりを待っていたのか、見計らって隊員が言う。


「……確かに、そうね」


 アリスが答える。だが内心は変なところを見られた、と必死に平然を装っていた。


「いい場所があります。付いて来てください――」


 シズクたちは、隊員に連れられ、村の裏門に着いた。門には誰もいなかった。


「外に行きましょう。まさか村の外にいるとは思わないはずです。こっちから敵が来るなんてことはありません。こんな道を抜けられるのは村の者ぐらいですしね」


 シズクは、なるほど、と感心し、三人は裏門を通り、村を出た。

 何か引っ掛かる、アリスは違和感を覚えていた。


「――待ちなさい!」


 裏門を出て五分ほどのところでアリスが言う。木槌に力が入る。


「なんで裏門に誰もいなかったのかしら?」


 シズクの腕を引っ張り、自分の後ろに促して、隊員を睨みつけた。シズクは不安そうだ。


「正門に増援に行ったんですよ、敵はあちら側に集まってますからね」

「全員で? そんなことあるわけない。……なんで村の外に私達を連れ出そうとするの」


 アリスは、隊員の指一本の動きも見逃すまいと目を離さない。隊員は、何を言っているんですか、と困った表情を見せる。


「……アーティ、あんたいい加減にしなさい」

「アーティ? どういうこと?」

「くくく、ははは、ははは、ははは! 流石だな。だが遅い。これはもういらないなぁー」


 隊員は、自分の顔の皮を鷲掴みにすると、血を飛び散らせながら、皮を剥ぎ取る。

 アリスとしずくは目を逸らす。恐る恐る目を開くと、隊員の顔の皮の下に、目が血走り、顔の皮が、ところどころめくれたアーティがいた。


「しずくぅ、来いよ。お前は俺のものだ。俺だけのものなんだよぉ……。はははは……」


 泣いたかと思うと、急に高笑いを始める。豹変にシズクは怯え、アリスは構える。


「邪魔する気か、アリス……。邪魔するやつは殺す。お前でもだ!!」

「あんたで私に勝てると思ってんの?」

「ははは、怖い怖い。でもなぁ、アリスぅ、お前はシズクが、何なのか知ってるのかぁあ?」

「シズクが何なのか? 〈黒い蛇を纏いし者〉ってやつ? そんなの信じないわよ!!」


 アーティの一挙手一投足を伺いながら、アリスが答えた。


「そいつは、ユウが殺した〈黒い蛇を纏いし者〉みこと、そのものなんだよ」

「ユウが殺した? 殺された人間が何でここにいるのよ!? ふざけないで!!」

「くくくく。確かにそうだ、そうだよなぁ。でもお前にはわかるよなぁ、シズクぅ」


 アーティは首を回すと、シズクに向かって目を見開く。


「ち、違う、違うの、私じゃない。あれは私じゃない!!」


 シズクは後退り、石に引っかかり転ぶ。転んだまま震え出した。


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