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1部 シズク 5章 黒い蛇が少年と少女の思いを貪り食らう。§2 ①

 守備隊が交戦するのは村の正門、西の入り口だ。村は十メートル程ある塀に囲まれ、東西南北四方の門からしか入れない。南と東の門は川に面す開かずの門だ。利用出来るのは北の裏門と、西の正門の二つだけだ。ただ裏門はオリード山脈で最大の山エンジェリックスを超える必要があり、殆ど利用されない。ユウとマリアが着くと門は今にも崩れそうで、戦況が芳しくないとわかる。


「――マリア様、ユウ!」


 二人に気付いた隊長が駆け寄る。


「相手さん、真っ直ぐ向かってきましたぜ。いよいよ内通者の存在が疑わしいですぜ」

「……そうね。でも、今はこの場よ。ユウ、門の上から彼らの後ろに回りこめるかしら? 村の中へ追い込んで欲しいんだけど」

「村の中?」


 ユウは口ずさみ、「……何人で?」とマリアに問う。


 あなた一人よ。マリアの答えに隊長が、死ににいくようなものだと、驚愕する。


 わかりました、とユウは一つ返事で答え、すぐに門に向かった。


「マリア様、あんたユウを捨て駒にする気ですか!?」


 隊長が、マリアを責める。


「隊長、あの子が、〈黒い蛇を纏いし者〉の連鎖を止めたのよ。こんなの、どうってことないはずよ」

「でも、あいつには記憶がない」

「幾多の世界を滅ぼしたものと戦ったのよ、そんなの些細なことだわ」


 ユウは門に着くと、壁を駆け上がり頂上に立つ。眼下に二百ほどの騎士がいる。両手を真っ直ぐ空に伸すと、両手が輝き、銃が産まれる。両手を敵の軍勢に向け、重力に身を任せ、銃弾を放ちながら、逆さまに落下した。自由落下の中、ユウは、彼に気づき魔法銃を向け撃とうとするものから順に撃ち抜いていく。

 片手で着地し、そのまま旋回し体制を整える。ユウは長い槍を両手に持っていた。自身を支点にし、円を描くように槍を振るい、槍を支点にして円を描くように蹴りを放つ。槍と身体が交互に旋回し、繰り出される斬撃と蹴り。戦場を舞い、敵を切り裂き、蹴り飛ばす。離れた所から放たれる魔法が当たらない。ユウに狙いをつけ、攻撃したときには、もうユウはいない。この戦場全ての者の動きを把握しているようだ。

たった一人の若者に、次々と倒れる騎士達、みるみる、動揺が広がる。なぜ当たらない、一人だぞ、化け物だ、と口々に声を上げる。


 ユウは、すぐに敵の最後尾に辿り着いた。すぐに武器をマシンガンに持ち替え乱射する。


「――門が開くぞ! 乗りこめぇ!! 皆殺しだ!!」


 大きな歓声が門付近から聞こえ、敵のリーダー、昨日襲撃してきた騎士の団長が叫ぶ。

 

 門の先には、イクトや守備隊のメンバーが構えている。彼らは門から雪崩れ込んだ兵を、そこで釘付けにしろ、と指示されているのだ。

騎士達は叫び、次々と門の中に飛び込む。村に引き込まれたなど、思いもしないだろう。


「後方のやつもいる。ユウがやってくれた見てぇですぜマリア様。ほとんど村の中だ」

「この中で私に勝てるわけない。隊長わかってるわね」


 マリアは目を閉じ両膝を地面に着きくと詠唱を始めた。魔方陣が宙に構築されていく。


「せいぜい時間を稼ぎますよ。やり過ぎないよう頼んますよ」


 隊長は大剣を構え、大きく息を吸い込み、村どころか谷中に響き渡る程の咆哮を上げる。


「あいつは……」


 騎士達の注目が隊長に集まる。その中に、騎士団長もいた。昨日、一斉攻撃を全身で受け、止めた男が、ぴんぴん、しているのだ。驚きを隠せない。


「……なぜ、あいつはあそこから動かない?」


 騎士団長には違和感があった。隊長が、あの場で咆哮を上げただけで何もしかけてこない。

視線を、敵を集めようとしているようだ。見回すと、詠唱し宙に魔法陣を描く女がいた。


「緑の髪……。あいつが悠久の魔女か。あいつは何をしている……まさか――!!」


 はめられたのか、騎士団長は息を大きく吸い込み、


「あの後ろの女だぁぁぁ!! あの女を狙えぇぇぇ!!」


 大声で叫び、騎士たちが呼応し、魔法銃でマリアに一斉に魔法を放つ。だが隊長が咆哮をあげるとその衝撃だけで騎士たちの魔法がかき消された。


「貴様ぁ!!」


 こいつからだ、と騎士達に続き、騎士団長が隊長に飛びかかった。隊長は騎士団長の剣を大剣ではじき金属同士が衝突し高い音が響く。お互い譲らず打ち合い続ける――。


「貴様ら! 世界を滅ぼすやもしれん、厄災を匿うとはどういう了見だ!」


 打ち合いの音が響く中、団長が隊長に向かって叫んだ。


「ここに、厄災などないわ!!」


 隊長は大きく剣を振り、剣ごと団長を弾き飛ばした。団長はすぐ立ち上がりまた構える。


「なかなかやる。だが、時間切れだ――」


 隊長が呟くと、マリアの目が開き緑に輝く。緑光の玉がいくつも表れ浮かぶ。そして、強い発光とともに、村の敵騎士全てに、閃光を放った。閃光は全ての騎士の胸を貫いた。


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