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1部 シズク 1章 止まった時が回りだし、 §2 ①

 ん、うん……。


アリスが目を開くと、心配そうなシズクの顔がぼやけて見えた。


「シズク……? どうしたの――」


 体を起こそうとすると、ひりひりとした痛みが体に走る。あたりを見ると、岩ばかりで、焼けた匂いがあちこちからする。匂いが脳を刺激し、戦いを思い出させた。


「あいつら……。そう!! あいつらは!?」


 痛みに堪え、体を起こし見渡す。兵たちが倒れ、ところどころ岩が焼けていた。


「俺とお前、それと彼で蹴散らしたろ? まぁ俺はあまり役に叩かなかったけどさ」


 アーティが指す先で、少年が俯いたまま立っている。ゼンマイが切れたおもちゃのようだ。黒髪の間からちらちら見える目が、黒く輝き辺りを引き込みそうだった。


「あ、あんた何者なの」


 体の痛みを我慢し立ったアリスがふらつきながら、少年の前に立ち問う。だが反応はない。


「あの武器は何!? ここで何してんの!? どこの人間!? そもそもあんた誰?」


 アリスが矢継ぎに質問を浴びせるが、変わらない。少年は何も反応しない。


「無視してんじゃないわよ!!」


 苛立ち、少年の胸倉を掴み、強く揺する。その力が、だんだん、強くなり大きく揺する。


「アリスちゃん!!」


 シズクがアリスを掴む。アリスは、なんで、と驚きシズクの顔をまじまじと見た。


「乱暴にしちゃだめだよ。この人が私たちのこと助けてくれたんだよ」


 そんなことは承知している。でも悠長に出来ない。さっきの戦いで彼は圧倒的だった。もし敵だとしたら?


「それにこの人、意識がないみたいなの」

「意識がない? はぁ? そんなわけないでしょ!!」

「本当だ、アリス。俺も確認したが確かだ。彼には意識がない間違いない」


 シズクに変わってアーティがこたえる。


「……あんたが言うなら」


 アーティの言葉を聞くと、アリスは少年を突き飛ばすように手を放した。


「ちょ、ちょっと! アリスちゃん。わたしのときと全然違うよ! なんで!?」

「……そりゃまぁ、シズクだからね」


 そうだな、とアーティが笑いを堪え、肩を震わせながら頷く。


「すぐ喧嘩するくせに、なんでこんなときだけ、いつも息が合うのよ!? もう!!」


 シズクはしゃがみこむと、二人から顔を背け、ぼそぼそと呟いている。


「それで、こいつどうなってんのよ?」


 横目でシズクを見ながら、アリスがアーティに訊いた。


「悪いな。わからない。気を失っているというよりは、眠っているのに近い気がする。でも実際のところはわからないな。でもマリアさんならわかるかもしれない」


 アリスが少年の顔を覗き込んで確かめる。


「まぁ彼のことばかり考えてもしかたない。俺たちが今からどうするかも決めないとな」

「そうね。でも村に戻るしかないわ。あいつらのことを報告しなきゃならないからね」


 アーティが小さく頷く。異論がないのだろう。


「彼のことはどうする?」

「あんた、わかってるでしょ? 置いていく。それしかないわ」


 アリスが迷いなくはっきりと答え、アーティが頷く。


「……なんで? なんでなの? この人が私たちのこと助けてくれたんだよ?」


 シズクが立ち上がり、アリスを責める。


「こいつは信用できない」

「何で? 私たちのこと助けてくれたんだよ」


 シズクが必死に訴える。アリスは、やれやれ、とうんざりした顔を見せる。


「シズク。俺たちはあいつらと遭遇した。オリードに人が住んでいると確信させただろうさ。それはリタリースがある、ということだ。もう村のみんなを危険にさらしている。これ以上は駄目だ。わかるだろ? みんなを危険に巻き込むことになるかもしれないんだぞ」


 アーティがアリスに代わってシズクに丁寧に話す。


「わかんない!!」


 アーティは正論、それはシズクもわかっている。だからと言って助けてくれた彼を放っておくようなことは出来ない。だから感情的に、我儘を言うしかない。


 それからシズクは沈黙で抵抗する。何を言っても頬を膨らませて拒否する。

アリスが、ふーー、と大きくため息をつく。


「そうだ!!」


 急にシズクが声を上げる。な、なに、と驚いたアリスが恐る恐るシズクに問う。彼女の思い付きはいつもろくなものじゃない。


「わたし、ここでこの人と一緒に待っている。二人はマリアさんを呼んできて」

「なんでそうなんのよ!!」

「だってこの人のこと村に連れて帰るのいやなんでしょ。だったら来てもらうしかないじゃない!! マリアさんならなんとかしてくれるよ」

「シズクを一人にできるわけないだろ。さっきのやつらが来たらどうするんだ!!」

「そんときは何とかするよ」

「何とかって……。何が出来るんだよ?」

「何とかするの!!」


 アーティは理屈の通らないわがままに、お手上げだと両手の平を天井に向ける。


「……本気で言ってんの?」


 アリスがシズクの目の奥を見つめて、言う。


「うん!! 決めたの」


 シズクが屈託のない笑顔で答える。


「しょうがないわ。アーティ、あんた、マリアを呼んできて」


 それを聞いて、シズクがアリスを抱きしめる。アリスは、もふもふ、と苦しそうだ。


「二人をここに置いてか?」

「こ、ここにシズク一人ってわけにいかないでしょ」


 アリスがシズクを押しのけて、アーティに答える。


「あんた一人ならあいつらに会っても、簡単に逃げられるでしょ」

「……あぁ多分な」


 しぶしぶと言ってもいいだろう、アーティが不満そうに答えた。


「決まりね。それともシズクを説得する? 無理だと思うけど」


 アーティが見るとシズクは頬を膨らませ、顔を背けた。彼女なりの意志表示のようだ。


「わかった、わかった。すぐにマリアを連れてくる。行くぞ――」

「待って、アーティ!!」


 アーティを呼び止めたのはシズクだ。彼は急ぐ必要がある、それも彼女の我儘が原因でだ。それなのに呼び止められ、苛立ちを隠せない。


「ごめん。これ、ナミちゃんに渡して欲しいの……」


 シズクが差し出したのは白く発光する草だった。


「これ……イクシール草なのか?」

「きっとそう。だからナミちゃんに持って行ってあげて」


 こんなときに他人の心配か、とアーティは呆れるが、必死なシズクの顔に、胸の奥が騒めかされ、心臓の鼓動が早くなる。


「あぁ。それが目的だしな」

「ありがと」

「あぁ。……じゃ次は本当に行くぞ」

「うん。お願い」


 アーティは照れ臭さから頭を掻きながら、倒れる兵たちの傍を通り洞窟の外に向か――。


「――死ねぇ!!!!!!」


 倒れていた騎士が、突然立ち上がりアリスとシズクのいる方向に閃光を放ち、爆発した。爆風は天井を崩し、壁を砕き吹き飛ばす。壁の外は深い谷だ。爆風はアーティを入り口側の壁に打ち付け、アリスとシズクを谷に吹き飛ばした。


「シズク、アリス!!」


 アーティはすぐに立ち上がると、谷を覗く。底が見えない、どれほどの高さかわからない。そこに瓦礫と一緒に落下する銀色の髪がわずかに見えた。


「シズク!!」


 後ろからうめき声がし、振り向くとそこには、兜が飛び、片腕と片足がなくなり、口から吐いた血が鎧を真っ赤に染めた騎士が倒れていた。


「貴様!! なぜだ! なぜ、俺達を狙った!!」

「な……ぜ……? 貴様…ら、世界……滅ぼす、ば……け物……をかくま…、裏切り者、だ」

「世界を滅ぼす化け物? 一体なんだ、何を言っているんだ!!」

「――ぐぼぉ!」


 何か言おうとして赤黒い血を吐き、そして動かなくなった。


「世界を滅ぼす化け物だと……。なんだ?」


 目の前の壁が照らされ、振り返る。目の前の谷が光で満ちていた――。


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