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1部 シズク 4章 黒い影が少年達を覆い、§3 ②

「いつも彼女、みことが出てくる。ガキの頃からずっと一緒だったんだと思う」

「みこと……さん? ユウさんが叫んだ名前……」

「シズクに似ている。だからかな、シズクと一緒にいたら落ち着く」


 シズクは、耳まで真っ赤にして、俯く。


「でもちょっと複雑かも。その、ユウさんとみことさんは、……恋人だったんですか?」


 訊きたくない気持ちもあるけど、訊かずにいられない。


「わからない。……でも変わった子だったな」


 ユウは首を振った。お互い思い合っていたと思う。でも恋人だったかはわからない。


「変わった?」

「いじっぱりで負けず嫌い。でも誰も傷つけたくない。強くて弱い。すぐ怒るくせに優しい」

「……よく分かってるんですね。何かやっぱり、複雑です」


 何が複雑なんだろう、ユウにはわからない。


「ユウさん。みことさんとの夢、どんな夢ですか?」


 一緒に御山から逃げようとした日、祭りの日のことをユウは話した。ひどいだろ、と笑いながら。あの子とのやりとりが好きだったんだな、そう思う。みこととの戦い、殺したこと、それは口に出来ない。出せば何かが壊れる、それに認めることになる、そんな気がした。


「ふふふ。本当、変な人ですね。でも、いい人ですね。やっぱり、みことさんのことよく分かってます。きっと、ユウさんはみことさんのこと……」


 好きだったんですね、そう言おうと思ってやめた。きっと嫉妬だ。


「……彼女と約束があった。俺はそれが知りたい。きっと俺が今生きている意味だから」


 シズクの瞳から涙が零れ、彼女の手ではじける。


「シズク、なんで泣いているの?」

「え!? 何で、私……」


 シズクは涙を拭う。拭っても拭っても湧き出て、止まらない。シズクがユウの胸に飛び込み、ユウが抱きとめる。ユウはシズクの鼓動を感じる。ユウの心臓も激しく動く。自分のじゃないみたいに、激しく動く。

大丈夫、そう言おうとしたユウの口をシズクの唇が塞ぎ、二人の時間が止まる。数秒か、数分か、数時間か、永遠と思える時間が過ぎ二人は離れた。ユウは自分じゃない、別の人間のようだった。心の奥底の誰かが彼女を求めている、そんな気がする。


「何で、こんなこと……。涙が、止まらない……」


 二人の唇が離れると、シズクはユウの胸に顔を埋め、ユウは黙って抱きしめる。なぜそうしたかなんて答えられない。今の雰囲気に飲まれたのかもしれない、自ら拒否しているという記憶がさせたのかもしれない。ただ、彼女への思いが心の奥底に渦巻き暖かさと悲しさで満たされた。


 ――ごめんなさい、そう言ってシズクは院へ走り、ユウはその姿を目で追う。庭の入口にいつの間にかアーティがいて、シズクはアーティの横を通り過ぎた。


 ユウとアーティの目が合い、アーティは何も言わず去った。


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