1部 シズク 4章 黒い影が少年達を覆い、§2 ④
「――私、無事なの?」
アリスはユウの右肩に担がれ木の上にいた。炎が彼女を焼く寸前にユウが助け出したのだ。
だが、ユウの様子がおかしい。アリスが何度呼びかけても反応しない。いつかの洞窟の彼を想起させる。突如、彼は人差し指と親指を立てた。
「俺が守る」
ユウは呟き、目を見開く。すると、構えた手の周りに無数の光子、フェムト粒子が浮かび、集まり、固まっていく。粒子は、小ぶりな短機関銃――サブマシンガンとなった。
アリスを木の枝に引っ掛け、ユウは木から飛んだ。落下の中、騎士達が見えると、無機質で小刻みな連続音を響かせ、騎士を踊らせ、地上に降り立った。
「何だ!?」
空からの奇襲に団長が叫ぶ。着地と同時にユウは駆け、騎士団の周囲を回る。いつの間にか二丁になった銃を、リズミカルに放つ。着地前に五人、走りながら五人、十の騎士を仕留めたのだ。
「四班から六班あいつだ、あいつを狙え!」
団長がユウを指し叫ぶ。あっという間に班の三分の一を仕留められたのだ、当然の反応だろう。団長の指示に、従い九十もの銃口が、ユウを狙う。
「――やらせない!!」
そのど真ん中に、全身をしならせ木槌を大きく振りかぶったアリスが、降ってきた。大きな魔方陣が描かれ木槌が振り降ろされ、三十名もの騎士が地面と一緒に吹き飛んだ。
「さっきの、ガキ、生きていたのか。それに今の威力は何なんだ……」
団長は驚嘆している。生きていることもだが、一撃の威力が高級魔法すら超えるものだった。一撃の打撃であれほどの威力があるなら、闘い方すら変わる。
「私を止めたければ味方ごと撃つしかないわ、どうする」
アリスは騎士の間を縫って走り、木槌を振り、騎士を叩き飛ばす。騎士たちはアリスに砲撃できない、見方を巻き込むしかないからだ。ユウへの攻撃も当たらない。爆風に巻き込むことすらできないのだ。彼は戦場の殺気全てを感じ、全ての攻撃が見えている。
ユウとアリス、内と外からの攻撃に、騎士たちの隊形は無残に崩れていった。
「来たか、悠矢――」
イクトが呟き、振り返る。
「敵は崩れた! 研究員は魔法の準備だ! 結界を解いた瞬間に一斉攻撃だ! 続いて守備隊が飛び込め。アリスのあの動きだ、散開して近距離で戦うんだ」
研究員も守備隊も声をあげる。アーティ達は詠唱を始め、守備隊は屈み意識を尖らせる。
いくぞ。イクトの掛け声とともに、周囲に浮かぶ勾玉が閃光を放ち崩れ、結界が消え、炎・氷・雷・土……あらゆる魔法の矢が放たれる。魔法だけで、彼らを狙っていた百名近くの騎士が五十名程になった。残りも続いて行われた守備隊の攻撃に壊滅寸前だ。
アリスを狙う兵の幾人が、異変に気づき守備隊めがけて魔法銃を放とうとする。だが体長が十メートルを超える火の鳥が彼らを飲み込み、焼き尽くす。アーティが放ったものだ。
「ちょっと! アーティ!」
鳥の火の粉がアリスに降りかかり、アリスが喚く。アーティは不敵な笑みを見せた。
殺す、アリスの口の動きから言葉を読み取り、アーティの顔が青くなる。
「あと少しだ!」
守備隊が残った騎士を圧倒する。魔力も戦闘技術も劣る騎士達は、戦略と戦術を駆使するしかない。ユウとアリスに完全に崩された今の状態では勝負になるはずがない。
「……これがリタリース、このままじゃ全滅だ」
団長が目を大きく開き、退けぇ、と叫ぶ。残った騎士達はあっという間に退却した。




