1部 シズク 4章 黒い影が少年達を覆い、§2 ③
「なんで、あいつらが、あれを……」
イクトの作る結界の中でアーティが呟く。
魔法を持ち運べるサイズのものに閉じ込め、必要なときにそこから放つ。まさに彼が研究中の技術だ。この技術があれば、高等魔法を誰にでも扱えることになる。ただ彼の研究は溜めて放つとこ迄しか進んでない。あの銃に似た出力装置迄辿り着いていない。相手の技術が二歩も三歩も先に進んでいる。
「これじゃぁ、こっちから攻撃できません。この結界を消して下さい!!」
イクトに向かって、研究棟の棟員が叫ぶ。
「駄目だ! 消した瞬間に全滅する。あいつらは攻撃する隙なんて作ってくれない。あいつらの弾切れを待つんだ!」
「このままでも、一緒です! 結界にひびも入っている。このままじゃ」
「大丈夫だ、まだ十分耐えられる。もうすぐ村から助けが来るはずだ。今は耐えるんだ。耐えて反撃の機会を狙うんだ」。
「こんな状況じゃ誰が来ても一緒です!! あいつらの的になるだけだ!!」
「……大丈夫だ、村にはあいつがいる。そうだろ、ユウ――」
ユウとアリスは戦場から百メートル程離れたところに潜み、伺う。すぐにアリスが飛び出そうとしたが、戦況を把握せずに飛び込むべきじゃない、とユウが静止した。その時の彼の放つ張り詰めた空気にたじろぎ、アリスは素直に従っていた。
ユウのとは違う、とアリスは騎士達の銃を見て安堵する。もう、ユウに心を許している。今更疑いたくないのだ。だが、イクト達は一刻を争う。すぐに気を引き締め直した。
「二人だけじゃ、的にされるだけだわ。せめて中に飛び込めれば……」
このままじゃ時間が過ぎるだけだ、とアリスは木槌を鳴らす。
「――ぐあぁぁぁぁ」
イクト達から叫び声が聞こえた。結界を抜けた炎が、隊員を捉えたのだ。イクトが地面に片膝を着き、輝きを失った勾玉が地面に落ちた。限界はもう間近だ。
「このままじゃ……。私が時間を稼ぐから。ユウはマリアを呼びに行って」
ユウを振り払い、中心の団長をめがけて駆け、注目を集めるため大声を上げる。
「団長!! 新手だ! 向かってくるやつがいる!」
「……ガキ一人だと? リタリース、この程度か!! 興ざめだ。お前らあいを狙え! 相手は子供だ、せめて一撃で終わらしてやれ」
団長が七班に激を飛ばす。騎士が隊形を整え、アリスが幾つもの砲身で狙われる。
「――アリスだ!」
アリスの姿を見つけた守備隊の隊員が、指差して叫ぶ。
「アリスだと?」
アーティが声の指す方向をみると、彼女が一直線に、この騎士団を指揮していると思わしき騎士めがけて駆けていた。そして、幾つもの砲身に狙われていた。
「来るなーー!!」
ユウの目で、駆けるアリスと、幾つもの兵器に狙われる蛇の少女が重なった――。
無数の炎が放たれ、アリスが炎と煙に包まれ、姿が見えなくなった。
「アリーーーース!!」
アーティは、喉が壊れる程の大声で、叫んだ。
「しょせんガキだな」
団長は吐き出すように呟く。子供を手にかけた、そんな罪悪感があったのかもしれない。
「他のやつがいるかもしれん、警戒を怠るな! 増援がくる前にあいつらを皆殺しにしろ。 俺たちは何をしても勝たなければならない!!」
激とともに、イクト達への攻撃を強めるよう指示し、攻撃がより一層激しくなる。
「アリス……」
結界の中で、アーティが地面を殴り、肩を震わせた。




