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1部 シズク 4章 黒い影が少年達を覆い、§2 ①

 院の一階のテーブルに、シズクとアリスがついている。アリスは、テーブルに伏せて動かない。研究棟でのマリア、プタハとのやりとりに疲れ切っているのだ。シズクはそわそわとキッチンの方を何度も見ている。部屋が甘い匂いに包まれていてその匂いの元が気になってしょうがないのだ。そうこうしていると、ユウがトレーに食べ物を乗せ運んできた。


「なんなんですか、それ!?」


 シズクが目を輝かせる。


「バームクーヘンって言うんだ。本当は専用の道具が必要だから形が少し変だけど」


 ユウはトレーを見せる。少し角ばった筒の形をしたパンの様な食べ物が乗っていた。


「ばーむ、くー……へん? ユウさんの故郷の食べ物ですか?」

「ちょっと違う気がするけど、まぁそんなもんかな」

「もらいます。……。うん! ユウさんこれ、おいしいです!」


 シズクが一切れ口に入れてん感想を口にする。


「そうなの? わたしも一つもらうね。……。おいしい」

「だろ?」

「や、やるじゃない」

「見直しただろ?」

「調子にのらないでよ」

「ちぇっ、素直に言えばいいのに」

「うるさい!」

「……なんか二人、仲良くなっています」


 シズクが不安そうに呟いた。


「な、なに言ってんのよ! 変な想像しない……痛!」


 アリスは急に口を押さえる。シズクが、どうしたの、と声を掛ける。


「……舌、噛んだ」


 アリスは恥ずかしそうに言った。

可愛いーー。シズクはアリスを抱きしめ、頭を撫で回す。アリスは顔を赤くしシズクを振り払おうと手を振り回す。


 ――キィィィィィ。


 突然、魔法でできた赤い鳥が叫びながら宙に現れ、ユウたちの頭上を飛びまわる。


「村が襲われているの!?」


 アリスが立ち上がる。敵の襲撃を受けているとの通知だ。


「アリス、落ち着きなさい」


 マリアが部屋に入ってきた。目を瞑り俯く。アリスやシズクが彼女の言葉を待つ。


「……村までは来てない。外で守備隊、研究棟のメンバーが対処してくれているみたいね」


 連絡を待ちましょう、そう言うと、マリアは残っていたバームクーヘンに手を伸ばした。 アリスは腕を組み、人差し指でリズムを取る。シズクは座ったまま下を向く。祈っているようにも見える。二人とも不安を取り除こうとしているようだ。

ユウは立ち上がり窓の外を見ていた。重苦しい雰囲気に、肌が、ちりちりと、焼ける。でも、妙に心が落ち着いていく。それを求めているかのように。それが、余計不安を煽る。


「――シズクちゃん! マリア様!! すぐ訓練場に来てくれ! 隊長が、隊長が……」


 院の扉が勢いよく開き、守備隊の隊員が飛び込んできて叫ぶ。


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