1部 シズク 4章 黒い影が少年達を覆い、§0 キオクノカケラ②
はぁーー。沙汰が去り、みことが大きなため息をつく。こういう時は大抵何か聞いて欲しがっているから、どうしたの、と声をかける。
「ちょっと疲れただけ。吹っかけられて、我慢しなきゃいけないんだから」
「本当に我慢する必要あるの?」
「この町で上乃宮の娘が起こせば、どんな噂が立つかわからないでしょ」
「そんなの、言わせとけばいいだろ」
「そんなに単純じゃないわよ。ただでさえ〈白なる力〉、あれを私が継ぐことになって色々言われているんだから。私が何でも言えるのなんて、あんたしかいないんだから」
「……そういうのって、弱い一面とか可愛い一面とか見せてくれたりするもんじゃ」
「そんな恥ずかしいことできないわよ、バカ! へ、へんな夢みてるんじゃないわよ」
みことが顔を赤くして言い返してくる。
「悠矢、そろそろ行かないと、儀式に間に合わなくなるわ」
――儀式が終わり、御山の中腹にせり出した岩の上に僕たちは並んで座っている。目の前に祭りの終わりを彩る花火がいくつも打ちあがっていた。
「これで、死ぬまでずっと一緒ね。……本当に、私でよかったの?」
みことは不安そうに言葉を零す。昔の彼女のようだ。
「ずっと笑顔でいる、そう約束しただろ」
彼女は俯いたまま小さく頷く。不安を少しでも取り除きたくていつかの約束を口にする。
「みこと、好きだよ。使命なんか関係ない。ずっと一緒にいたいんだ」
少し間を置き、みことが顔を上げ、涙を溜めた目で笑った。大きな花火が夜空で開き、彼女を照らす。嬉しそうで、悲しい笑顔、僕の全てが吸い込まれる。一生忘れないだろう。
それから二人で肩を寄り添い、何も言わずに何度も打ち上がる花火を見ていた。
――みことが口を開く。彼女は震えている。
「もしよ、もしもだけどね……」
普段から考えられない消えそうな声で続ける。
「私が私でなくなったときは、あなたの手で私を殺して――」
〈白なる者〉の力、それは、あまりに強大で、世界を終わらせられるほどらしい。守り人は、もしそれが悪用されそうなら、〈白なる者〉を殺してでも食い止めるのが役目だ。
そんなこと気にもしてなかった。みことと一緒にる、そのためには悪魔にでも魂を売る、世界も敵にする。僕はきみのためだけに、存在しているのだから。




