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1部 シズク 4章 黒い影が少年達を覆い、§0 キオクノカケラ①

 御山の周りに広がる鎮守の森を抜けたところに町がある。鎮守の森から町へ少し歩いたところにある道は、広さに似合わずひっきりなしに沢山の車が通る道だ。

でも今日は違う。屋台が立ち並び、提灯と豆球で薄赤色に照らされている。沢山の浴衣に、祭囃子に、屋台からの声、ソースや綿菓子の匂いで彩られている。今日は祭りの日であり、みことが神主様から〈白なる力〉を継ぎ〈白なる者〉になる日であり、僕がみことの守り人となる日だ。

隣に、みことがいる。化粧をしたその顔も、白い花が描かれた赤い浴衣と胸元の白い肌と黒髪も色っぽい。背伸びしているけど、昔と変わらない、みことだ。変わったところもある。色々なものを背負い、これからもっと背負う。同じでいられるはずがない。


「悠矢?」


 慌てて目を逸らす。


「んーー? どーこ、見ていたのよ?」

「どこだっていいだろ」


 顔を覗き込んできたから、悪態をつき誤魔化す。彼女は僕の耳をつまんで引っ張る。


「いたたたた……」

「そ、じゃぁ、どこ見ていたの?」


 みことは楽しそうだ。


「……胸」

「は!? ……ほんっと、あんたって、そんなのばっかりね」


 みことの視線が白い。視線に負けて、ごめん、と平謝りする。


「まぁ、いいわ。……で、どうなのよ?」


 何を訊いているんだ、胸の感想を言えば正解なのか。いや、多分違うはずだ。


「あんたねぇ~。こうやって、普段着てない浴衣着てるのよ、何か言うことあるでしょ」

「あ、あぁ……、まぁ、いいと思う」

「いいと思う? ほんっと、わかってない、わかってないわ。具体的に言いなさいよ」


 何で怒ってるんだ、それに具体的に、って何だよ。


「見てると、どきどき、する」


 みことは僕をじっと見て、考え込む。視線が怖い、殴られるんじゃないかと身構える。


「……うん。まぁ、あんたにしてはいい方ね」


 偉そうだが、目を細めて口元が緩んでいる。外れじゃなかったみたいだ。それにしても、みことは可愛い。僕の口元まで緩みそうだ。


「――上乃宮さん、それに宮本!」


 後方から、誰かが僕たちを呼んだ。振り返ると、沙汰優佳がいた。彼女は僕たちのクラスメートで、どこかの国とのハーフらしく金髪で日本人離れした綺麗な顔立ちをしている。人懐っこく気が利く、男受けする性格だ。人と距離を取り、ミステリアスなみこととは違うタイプだ。二人で学校の男子の人気を二分している。みことは演技だが……。


「二人とも相変わらず仲いいね」

「そうね。子供の頃からの付き合いだから」


 みことは、声を押さえ、落ち着いた口調で、どこかで聞いたセリフで答えた。


「ほんとにそれだけ? 怪しいわねーー」

「それに、悠……宮本君にはもっといい人がいるわ。人気もあるし」

「そうだねぇー。ほんっと意外よねー、なんでだろうねー」


 人気だと、誰にだ、具体的に教えて欲しい。でも後が怖い。悟られないよう注意だ。


「ふーん。そうなんだー。……ところで、誰に人気があ――痛!!」


 背中に激痛が走る。沙汰から見えない角度、みことが僕の背中をつねっていた。


「どうしたの?」


 顔色変えずみことが訊いてくる。平静を装い、こめかみに血管を浮かせ、怒っている。


「な、なんでもない!! なんでもないよ!!」

「でも、上乃宮さんも人気よ。可愛くて、賢くて、誰にでも優しくて、御山の巫女さんでミステリアスとくればね。それに〈白なる力〉、あれを継ぐ――、あ!?」


 言っちゃ駄目だった、しまった、沙汰はそんな顔をしている。


「……なんで、あなたが知ってるの?」

「生斗さんに聞いたの。私達、付き合ってるの」


 〈白なる力〉は、上乃宮が代々引き継いできた力で、長子である生斗さんが継ぐはずだった。なぜか、急にみことが継ぐことになった。宮本はそれを守るのが使命で、僕は生斗さんにもしものことがあったときのスペアであるみことの守り人として鍛えられてきた。

沙汰が知っているということは、生斗さんから、聞いたとかだろうか。あの人は、そのために、ずっと鍛錬していたんだ、少しくらい愚痴を吐いてもおかしくない。


「そんなことより、上乃宮さんの本命は誰? やっぱ、宮本? でも、すぐに鼻の下伸ばすようじゃ軽過ぎない? すぐ浮気するわよ」

「そんなことないと思うわ。単純、なだけよ」


 僕へのあてつけもあってだろう、単純、その言葉を妙に強調して答えた。


「ふーん。やっぱり、宮本のこと悪く言われるの嫌なのね」

「沙汰さん。もういいかしら、私たちこれから行くところあるから」


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