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1部 シズク 3章 祭りの日に日常を手に入れる。§4 ①

1,000 pv 超えました。

ランキングにのっている方々を見ると唖然としますが、初めて書いた小説、(きっと)見知らぬ方に読んでもらえて有難いです。

ありがとうございます!!

まだまだ素人前回ですがよろしくお願いします。 

 天井の穴から雨が降ってきた。ぽつぽつ、ぽつ、と。焦点が定まらない目で、ユウはアリスの表情を伺う。瞳の奥が揺らめいていた。


「――私はこの村に来る前に、友達も家族も大切な人も全部失くした。特別な力を持つ子が生まれたら、一族ごと迫害される。私、由緒ある家の子だったの。貴族は何を犠牲にしても家を守らなきゃならないのよ」

「それで、無駄に偉そうなのか」

「う、煩いわね。黙って聞きなさいよ」


 雷の光で一瞬辺りが照らされ、それから雷鳴が唸っていた。


「それまで不自由なく生きてたわ。でも、わたしが特別だってわかったあの日から、パパが狂って、全部変わった。それで殺されそうになったところをマリアに保護されて、この村に来たの。初めてシズクと会ったのは、そのときよ――」


 ◆


 二年前の夏。雨の中、マリアに抱えられ、私はこの村に着いた。


 寝れなくて、体が熱くて、ふわふわ、してた。私の周りだけ靄が掛かっていた。


「今日からここがあなたの部屋。自由に使っていいわ」


 そう言うとマリアは私を部屋に残して出て言った。昔の私の部屋よりずっと狭いのに、広くて怖かった。怯えてると、誰かがドアを叩く。食事を持ったシズクがいたの。


「私、シズク。よろしくね」


 笑って、食事を置いて行ったわ。少し経って戻って来たシズクは、一口も手を付けてない食事を見ると、しょうがないね、って言って、スープをスプーンですくって、口の前に出した。無視してもずっと待っていた。いくら無視してもずっと。あの子最初から頑固だったわ。

根負けして、私が一口だけ口にすると、シズクは笑って、部屋から出て行った。

 あの子は毎日、食事を持ってきて、一人で喋りながら私に食べさせてくれた。

 イクトにお土産もらったとか、院で魔法が下手って言われたとか、村のみんなで祭りの用意を楽しんだとか、誰かが村から出て行ったとか、他愛もないことを話した。きっと、全部私のため。

 でも、怖かった。みんないなくなった。この子もいつかきっと、そうしか考えられなかった。気持ちが毎日積もり、とうとう耐えられなくなって、


「放っておいて!」


 叫んでシズクに食器を投げつけた。


「やっと、声、聞かせてくれたね」


 シズクは頭から血を垂らして笑い、片付け出て行った。また一人。これで傷つかないで済むと思ったわ。でも、シズクは次の日も部屋に来て、いつも通り笑いながら喋りかけてきた。


「――だ、大丈夫?」


 気付いたら、口にしていた。


「……私、石頭なんだ。だから大丈夫だよ。心配してくれて、ありがと」

「私のせいなんだよ、なんでお礼なんか言うのよ!!」

「……なんでだろ? でも、今、嬉しかったから、それでいいの」

「なんなのよ、あんた! ……なんなのよ。私なんて放っておいてよ」


 アリスちゃん、とシズクは私の両手を両手で握り、じっと、私の目を見つめる。


「聞いてないふりして私の話いつも聞いてくれていたね。誰かと一緒にいたいんでしょ?」


 きっとそうだった。だから目に涙が溢れる。恥ずかしくて頬が熱くなる。他愛もない話ばかり。でも私に日常を感じさせてくれた。だから、気づかれないように、必死に聴いていた。

それから、少しずつ、本当に少しずつだけど私達の、距離が近くなっていった――。

 

「――外に出てみよっかな?」


 土砂降りの雨が上がって、気持ちが高揚したのか、口にした。シズクは凄く喜んで賛成してくれた。服だけ着替え、ぼさぼさの髪で外に出る。強い日差しが私を射し、ちょっと怖かったけど、心地良い。


「外に出るの久しぶりなんだから、無理しちゃ駄目だよ」


 シズクが私のことを心配してくれて、その日は広場を少し散歩することにしたわ。

 駆ける子供、散歩をするお年寄り、ボールで遊ぶ親子、沢山のいつもがそこにあった。


「どう? アリスちゃん」


 肌に刺す日差しも、頬を撫でる風も、耳に響く足音も、草の匂いも全部気持ちいい。

シズクは本当に嬉しそうだ。ずっと私のこと心配してくれていた、この子と一緒なら私ももう一度前を向ける。

 ――ボールが足元に転がってきた。


「すいませーん」


 小さな女の子が、とことこ、と走ってきた。私はそれを拾ってあげた。


「わー、きれーー!! 髪の毛、きらきら、光っている。天使さん?」


 彼女は受け取らず、感嘆の声をあげる。私を見て目を輝かせてた。シズクが顔を覗き込んできた。今どんな顔しているんだろ、恥ずかしい。


「本当、アリスちゃん可愛いよ」


 顔が熱くなる、きっと真っ赤だ。顔を見られないように下を向く。


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