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1部 シズク 2章 世界を失った少年は幻の村で目覚め、§3 ②

 隊長と別れ、三人は研究棟に移動した。そこは、窓がない立方体で、小さな入り口が一つだけある三階立て程度の大きさの白い建物だ。アリスが二人を連れてきたのだ。

 三人が着くとすぐに、入り口が開き、赤い髪で背の高い青年アーティが出てくる。


「シズク、アリス、それに……きみか! 昨日は助かった、礼を言うよ」


 ユウは小さく頷く。覚えていない話だ、どう反応すればいいか困るのだ。

 ユウの反応に戸惑うアーティに、記憶がないことや名前を、アリスが説明する。


「記憶がない? それにニホンね……。俺はアーティ、ここの研究員だ。覚えてなくても助けてもらったのは確かだからな。何でも訊いてくれ。出来るだけの事はさせてもらうよ」


 アーティが手を差し出し、ユウが応える。


「……ここは何の研究を?」


 建物を見上げて、疑問を口にする。牢獄のような建物だ、気になるのは仕方がない。


「ここでか……。主には魔法だな。魔法の開発や、新しい活用方法を研究している」

「魔法? そんなものあるわけ――」


 あるわけない、ユウはそう言おうとした。だが、頭から蛇を生やし空に浮かぶ少女の姿がユウの頭に浮かぶ。あれは魔法かもしれない、そう思って、口をつぐんだ。


「あるわけないと?」


 アーティがユウの言おうとした言葉を拾い、ユウが頷く。


「でもきみは、魔法で武器を造り、空を飛び、俺たちを助けてくれたんだぞ」


 何を言っているのかわからない。でも冗談に聞こえない。それは、シズクもアリスもだ。彼らの言葉が本当なら、と自分の記憶を辿るが、頭に走る痛みに、思考をちぎられる。

 またか、とユウは諦め、三人に、昨日のことを訊く。

 銃だ、三人の話を訊き、ユウが呟く。俺が造りだしたらしい武器は銃、だと。


「……やっぱり、そうなのね」


 シズクとアーティが、それは何、と首を傾げるなか、アリスが呟く。


「アリス、知っているのか?」

「……昔、家の地下の書庫にあった古い本で読んだことあるのよ、大昔の武器だった」

「お前の家の地下、ね」

「……空気の圧力を利用した武器で、俺の世界では普通の武器だった。もう一つは、多分ハングライダー、風に乗り空を飛ぶ乗り物だ。……でも別に魔法じゃない」

「あれハングライダーって言うんだ。……もう一度乗りたいね、アリスちゃん」


 シズクが空を見上げて呟く。


「はぁ!? もう一度乗りたい? 死ぬとこだったのよ」

「えーー。気持ちよかったじゃない。あ、そうだね。アリスちゃんずっと震えてたかも」

「何? アリスが震えてた? 何、何?」


 耳がぴくぴくと動き、嬉しそうにアーティがアリスの顔を覗き込む。五月蠅い、とアリスがアーティの鼻を殴り、アーティがひっくり返り、足をひくひくさせた。


「……でもあの時なんで急に舞い上がったのかしら。あのまま落ちても大丈夫だったのに」

「落ちても問題なかった?」

「うん。ハングライダー? あれで落下速度が遅くなってたから、シズクとこいつを担いで着地するぐらいなら出来たのよ。まぁ、あんたに言っても仕方ないけどね」


 急にアーティが立ち上がり、空を見あげ、口笛を吹きだす。しらじらしい。


「……何隠してるの?」


 低い声と、脳を直接覗くかのような強い視線をアーティに向け威嚇する。威圧感にアーティは、腰が抜け、尻餅をつき、必死に首を振る。


「話しなさい、怒らないから」


 アリスの言葉に光明を見出したのか、自分が風を起こしたら舞い上がったのだと吐いた。そう、とアリスは静かにアーティを倒し、馬乗りになり、助けてくれ、と叫ぶアーティの顔面を何度も何度も殴る。……それは五分ほど続く。

アーティはひっくり返って痙攣している。シズクが、大丈夫、と枝で突っついていた。


「そ、それは、いいとして――」


 よろよろ、と立ち上がり、アーティが話し出す。


「あんな複雑な武器や、空を飛ぶ道具なんかを作り出す魔法なんてありえない」

「そんなこと言われても。それに俺が魔法を使ったと言いだしたのは、あんたらだろ?」

「魔法は思いを具現化する。詠唱が思いとフェムト粒子を繋げ、反応させ、思いを具現化させる。空を飛び続けるなんて、途中で気が散っただけで落下だ。危険すぎる」


 アリスが睨み付ける。


「そ、そんなのは使いものにならない。銃というのも同じだな。部品一つ一つの動きを詳細に正確にイメージしなきゃ機能しない。一点でも間違えれば動かない、そんな不確実なことをするくらいなら直接魔法を使ったほうがいい」


 アーティは懐から懐中時計を取り出すと、蓋を開いた。


「こいつでこれだけの部品がある。あれがどれだけのものかわからない。でもそんなに違わないだろう。これだけの数、一つ一つの動き全てを思い描くのは効率が悪すぎるだろ?」


 よくわからない、信じ難い話だ。魔法なんて怪しいものより、銃程度の動きなら想像する方が簡単な気がする。だがそれを問いてもあまり意味がない。ユウは魔法を知らないし、彼らは銃を知らない、比較など出来ない。


「――三人はなぜここに?」


 話が一段落すると、アーティが三人に訪ね、シズクが、アリスに連れられて、と答えた。


「もう用件は終わったわ。帰るわよ」

「え? そうなの? 用事ってなんだったの?」

「……俺と彼のためか。相変わらずアリスは優しいな」


 う、煩い、とアリスはアーティから顔を背ける。彼女頬が少し赤い。

この研究室には世界各地の情報が集まる。ユウの情報が何か得られるかもしれない。だから、アリスはユウとアーティを合わせたのだ。


 アーティの説明を聞こえない振りをするがアリスは、耳の先まで真っ赤にしていた。


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