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十階
そんなに遠くないはずだ。
僕は防寒着を取りに部屋へと戻り、そのまま靴をはいて外へ飛び出した。
入口の門を抜け、ガードレール沿いに坂をくだる。
暗い、ほとんど何も見えない。
足元を照らす街路灯の淡い明かりは雪という雪にかき消されてしまい、暗闇の海をひとりあてもなく泳いでいる気分だった。
あれだ、鬼火のようにも見える巨大な怪光が宙に浮いている。
やっと見つけた。
外に出てからゆうに一時間は経過している。
それでも寒いという感覚はなかった。
得体の知れない熱さが僕のからだを覆っている。
興奮しているのかもしれない。
膝下まである雪を蹴飛ばしながら山道を進み、枝を掻き分けて雪道を歩いた。
僕はその不可解な光の前で足をとめる。
なんて大きさだ。
それは楕円形の鏡みたいな代物だった。
青白くぼやぼやと火のように煌めく外縁に対し、円の中心には光や色彩とよべるものがなく未知の天体を思わせたが、不思議と恐ろしいという印象はなかった。




