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花一匁  作者: 芦田香織
9/19

夏服移行期間

『かーってうれしいはないちもんめ』


『まけーてくーやしいはないちもんめ』


『たーんすながもちどの子がほしい』


『どの子もいらない。有梨沙がいるから』


子供の声が、はるかの声にいきなり変わる。


そこでハッと目を覚ます。

今日から七月だというのにあいにくの曇り空。

まだ梅雨明けは先のようだ。

それでも夏服への移行期間が来てしまったから、嫌々半袖のブラウスに袖を通す。

夏服はリボンつけ忘れていても何も言われないから楽だ。

ふと鏡に写った自分の腕を見る。

みんなから細い、羨ましい、って言われる腕。

そうやってきゃっきゃと囲まれてるのは嬉しいし、楽しくもあるけれど、返答に困る。謙遜しても認めても微妙な反応が返ってくるから最近はもうありがとうで済ますことにしている。


玄関の扉を開けると少しムッとした空気に思わず眉をひそめる。

天気が悪いのに暑いのか。嫌な時期だ。


小金井と付き合いだしたものの、あいつは他校だし、朝迎えに来ることもさしてなく、帰りは行けたら行く、とのことだった。

その理由も敵陣偵察だ、などと意味不明なことを申しており、はぁ、と溜息混じりな反応をせざるを得なかった。

でも、私だってはるかの今の彼女が気になるから、断りもしなかった。


学校ではやはり夏服着たくないー、とか移行期間を忘れてセーターを着てきた生徒もいた。

はるかはやはり教室の隅で話しながらたむろっていた。

慎重に似合わず細いはるかは夏服を着ると少し袖と腕の合間に隙間ができる。

なんだかそこだけ涼しそうな、いやきっと感じる暑さは変わらないのだろうけれど、でもそんなふうに感じてしまうのだ。


「緑、おはよ!」


「おはよー」


「相変わらずほっそいねー、まじうらやましー」

「わかるわかるー、緑何食べて生きてんのー?」


女子の高い笑い声は朝のまだ眠たい頭には少し響く。


「はは、やだなー、みんなと同じもの食べてるよー」


「うっそだー」


いつもどおり、女子の褒め合いそしりあい。

一人だけを祭りあげて、自分も痩せたい、って言ってる仲間を作りたいだけ。

その仲間内で、劣等感で足の引っ張り合い。

迷惑をかける方じゃなくて、仲間を作りたいだけの牽制。

これで次にあんたのほうが細いじゃんなんて言い出せば収集がもうつかない。


あぁ、なんてめんどくさい生き物。


いっそ男子に生まれて、はるかと友達でいられたならよかったのに。

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